第四十三話 カラッポ③
わたしはしばし考えた結果、ふと昔のことを思い出す・・・
「なぁゼブル、この世に絶対的なスキルは存在しないし、絶対的な物質も存在しないと俺は思うんだ。だが、俺の考えを凌駕するようなスキルや物質が、もしかしたらあるのかもしれない。でもさ、そんな未知のスキルや物質に到達する前に出来ることをやってみようよ。とりあえず、不完全な物質を壊して作り変える、それは波動の力があれば出来るんじゃないかって俺は思う。新たに作り出すって、なんていうかワクワクしてこないか?そんな新たなる物質の中に、もしかしたら絶対的な物質が出来るかもしれないな。」
カイはそんなことを笑いながら言ってたっけ。そこからだよな、赤の一撃と青の二撃、ロゼオンというスキルが生まれたのは・・・
まてよ・・・青の二撃は新たなる細胞の編成と復元のスキル。パルスの音の力から特殊超音波と膨大な気を用いて可能になったもの。現状のわたしにはそれを行うことが出来ないが、八百年前に幾度となく体感してイメージは体にしみついている。カイとの鍛錬の結果、物質の作製は叶わなかったが生命体の細胞を編成復元することは可能になった。ならば可能じゃないのか?膨大な気を用い、細胞の蘇生というか活性化が・・・今まで、膨大な気は破壊や攻撃に特化して用いてきた。それを今回は青の二撃をイメージして、わたしなりに気を蘇生目的として試みてみよう。悠長なことは言ってられない。これが最善の策だろうしな。
わたしは瞳を閉じた。かつてカイと編み出した青の二撃のイメージし、それを応用させる。体内では細胞活性化の為に気をコントロールしていく・・・
なんて心地よい気の流れだろうか。今までは攻撃に特化した気の使い方であったが、今回は全く異なるものだ。体内が活性化され、筋肉の一筋一筋が躍動しているのが感じられる。
イヤ、まだまだだ・・・死んでしまった細胞を蘇生させるにはこんなレベルでは不可能。
おっと忘れる所であった。わたしの細胞一つ一つに無限竜魔気でバリアをはっておかなければならない。生きている健全な細胞に限界以上の生命力を与えたら細胞が暴発してしまうからだ。八百年前に生と死の神ペルセポネーの加護を受けた戦乙女マリンから学んだことを活かさねばな・・・
限界を突破するのだ。生命力に溢れた気をティナに与える為に・・・
わたしのボディーが次第に黄緑色に変色していることに気付いたが、恐らく樹木の光合成と同様な現象が発生しているからであろう。もっと、もっとだ・・・生命力に特化した気を作るのだ。
気を集中し始めて、時間にしてそれほど経過していないと思えるが、まずい・・・意識がぶっ飛びそうだ・・・
気が付けば、直前の記憶がない。所々の意識が飛び始めている。気は無限だが、わたしの重要な箇所はそれに耐久出来ないことは承知の上だ。
重要な箇所とはコアであるが、デリケートな箇所故、バリアは不可能。コアにはAIが組み込まれているので、もしここが壊れてしまえば魔剣として維持できなくなる。即ち、魔剣としても生命体としても存在が終わるのだ。
耐えろ・・・耐えろ・・・耐えるのだ。ティナも一緒に苦しんでいる。共にこの窮地を脱し、カイを見つけるのだ。
苦悶の表情のティナであるが、意識は戻ったようで時折こちらを薄目で見ている。
ティナはわたしの手を弱弱しく握りしめ、ほのかに笑って見せた。
こんな状況で・・・
こんなにも柔らかい手・・・
こんなにもスマイルを・・・
わたしはグッと込み上げてくる感動を押し殺し、意識を保てるように気を更に集中させた。
しまった・・・
よくよく考えたら、生命返還が可能な気が完成した時のタイミングが解らんではないか。
わずかな希望に全力をかけて臨んだが、大事な所が抜けていた。
わたしの細胞内で生命力を上げていく気がグルグルと高速回転していき、体色は遂に濃厚な緑色となっていた。
どうする?・・・
どうなる?・・・
どうしよう・・・
そんなことをモヤモヤと考えていたら、どこからともなく可愛らしい声が聴こえてきた。
《カク・・・今よ、い~ま!放ちなさい、体内の気を全て・・・生命返還するわよ!》
だ・誰だ?謎声ちゃんなのか?最初の【カク】って何なのだ?
イヤイヤ、今はそれどころではない。言われた通りにするか、否か・・・カワイイ声の持ち主に悪い奴はいないって昔、カイが言っていたしな。
そもそも、気を開放するタイミングに困っていたのだ。
ええい、ままよ。背中を押してくれたのだ。従ってみるか・・・
「生命返還!」
わたしは細胞をガードしていた全てのバリアを解除すると同時に、体内の生命力溢れる気を一気に開放した。
意識が・・・
不覚にも意識がぶっ飛び、その場に倒れ込んでしまったわたし・・・
体内の膨大な気を一気に開放したのだ。
貧血状態になったという表現が近いのかもしれない。
再び意識が戻った時、辺りは薄暗く時間の経過を感じさせられた。わたしはハッと思いなおし、周囲を見渡した。
目の前にはティナがいたが、傷口は完全回復し脈も正常であった。
よし!成功だ!
一か八かの賭けであったが、ティナは何とか窮地を脱したようでわたしは安堵した。
生命返還・・・
青の二撃と同様に細胞の蘇生が出来たが、わたし自身の負荷が想定を遥かに超えるものであった。
やはりパルスの音の力は偉大だな・・・
もしかしたら、やり方によっては生命体以外にも影響を与えることが可能かもしれない。
だが、これしきのことで意識がぶっ飛んでしまうのだ。高望みはしないで、現状を正確に判断しないとな・・・
しばらくの間、ティナの寝顔を眺めていて至福の時を過ごしていたが、ふと重要なことを思い出す・・・
さっき、背中を押してくれた声って誰なのだ?
ティナが言っていた謎声ちゃんなのか?イヤ、謎声ちゃんは八歳くらいという話だったが、先程の声はもう少し色艶がある声質で十六~二十歳くらいであろう。それにしても何とも可愛らしい声で、同性でも少しキュンとなってしまったな。
《ショウ・・・そんなに褒められたら登場しにくくなるではないか。》
出た!謎の声!それにしても、さっきのが【カク】で今度は【ショウ】とは一体何なのだ?それに一体誰がどこからわたしに向かって話しかけてくるのだ?周囲には生命体の気配はティナしか感じられないし・・・
わたしの疑問に答えるように再び声が聴こえてきた。
《カクとは確定のカクであり、結果が見えたことを示す。ショウとは・・・照れるのショウであり、自分で言うのも何だが恥ずかしいということだ。ワレはもう一人の君、つまり君の中にあるAIである。今までは【完成】していなかったが、遂にマスターの願い通りにワレは完成したのだ。》
チョッと突然すぎて意味が解らないが、わたしの中のAIが完成?
確かにわたしはキャンティに作られしもの・・・
AIはキャンティが組み込んだと聞いてはいたが、つまりマスターとはキャンティのことか・・・
それにしても、わたしの中のAIが【ワレ】というのは納得がいくな。
わたしがほくそ笑んでいると、考えを察知するようにAIは続けて語る。
《その通り、マスターとはキャンティのことであり、ワレの主。君の素材である夜叉極とギドファインが、君の生命力を極限まで上げる気が要因でコア内にて相乗効果をもたらした。そして、ワレはマスターの願いであった自我を獲得したのだ。》
何だかよく解らんが、わたしの中にもう一人の自我を持つワレという者が誕生したのか?
まぁ、そもそもAIだったのだから、それがより優秀なAIになったということか。
それにしても、夜叉極とギドファインが未だに謎・・・
ギドファインに関してはコウさんが知っていたようだが核心については教えてくれなかったよな・・・
《ショウ・・・まぁ、ワレが優秀というのは正しい見解だな。夜叉極とギドファインについて教えておこう。夜叉極は闇の力を秘めし素材。ダークなる属性の攻撃に対しての免疫があると同時に無限竜魔気の元にもなっている。ギドファインは光の力を秘めし素材。聖なる属性の攻撃に対しての免疫があると同時に波動を増幅させることが可能なのだ。》
ショウ・・・ってことは照れているということか。可愛らしい一面があるAIだな。
どうやら、言葉を発しなくてもわたしの考えていることを認識して返答してくれるようだ。
キャンティの願いとは、わたしにAIのアドバイザーをつけたいということだったとは・・・
確かに今のわたしは気の力に特化していて、スキルや思考面に関しては劣るからな。
しかし、今は波動の力をもった魔動石が皆無なのでギドファインの恩恵は得られていないということか。
生命力に特化した気を極限まで作り出したことでAIが自我をもつ存在に変化するように作り出すとは、キャンティの思考やスキルは理解が出来ないな・・・




