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あの大きな樹とともに  作者: 三笠 好弘


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第五章 オジン……その5

 桜の季節が過ぎたころ、透と聡子から内祝いと、挙式披露宴の様子を収録したビデオテープが届いた。

添えられていた聡子からのお礼の手紙には、僕と一緒に映っている騒々しい連中が大うけだったことが綴られていた。

そして、心のこもったスピーチと歌のプレゼントが本当にうれしかったこと、そしてそれが来賓者にも大変評判がよく、一番の盛り上がりだった、と書いてあった。

いつかまた、みんなで会えたらいいね、同窓会とかあったらいいね、と締められていた。

僕は聡子からの手紙を、純とバンドメンバー、撮影してくれた女の子に見せると、彼らもとても喜んでくれた。

そして、彼らへの感謝の気持ちをどうすればいいかと悩んでいて、なにか僕にできることはないかと聞いてみた。

「だったらさ、あの歌をバンドの持ち歌にしていいか?」

「オジンさん、僕らからもお願いしますよ」

「それは構わないけど、そんなことでいいの?」

「オジンがいいのなら、あたしらはあの曲でコンテストに出るよ」

「じゃ、ミュージックビデオは私が撮ってあげるよッ」

場が盛り上がってきて、彼らは滔々と夢を語り合いだした。

会話にある専門的な内容は僕には理解できなかったが、そばで聞いているだけで夢を実現しようとする彼らの熱量が十二分に伝わってきた。

彼ら彼女らは、なんとなくプロになりたいな、プロになれたらいいな、などといった中途半端なものではなく、絶対プロになるのだ、そのためには今何をしなければならないのか、自分たちに足りないものは何か、と、熱くそして冷静に現実を見ているリアリストの集まりだった。

かつてプロ野球選手になりたいと願った僕だったが、彼らを見ていると如何に甘えた夢であったのかと痛感した。

彼らに対してのお礼が、そんなことでよいのかと思ったが、夢に向かって一心不乱に、それこそ志士のように突っ走る彼らにとっては、お礼なんてどうでもよかったのかもしれない。


 夏本番、僕は鉄板の上のようなお寺の屋根瓦の上に立って黙々と作業をしていた。

昼休憩になって、僕がお堂の縁側で涼んでいると、住職さんが冷たいお茶をごちそうしてくれた。

お礼を言ってお茶を頂いていると、一体の小さな仏像に目を止めた。

「ご住職、この仏様は見事な舟形光背ですね。こんなに小さな仏様なのに、ここまで細かな透かし唐草の光背を見たのは初めてです」

「お若いのにお詳しいお方ですな、由緒はわかりませんがそちらはずいぶんと古い仏様のようです」

「いえ、幼馴染から聞きかじった程度ですので、詳しくはないのですが」

「その仏様は檀家さんがご供養にお持ちになられたご縁でしてな」

そんなやり取りを聞いていた親方が、なにか思い出したように僕を見て言った。

「そういえば、お前は昔から寺社仏閣の現場が好きだったな」

「そうですね、お寺や神社の境内ではよく遊びましたし、なにより雰囲気が好きですから、その屋根に登って仕事が出来るのは特別な喜びを感じますよ」

そう言う僕を見て、親方は何か思案したような風にも見えたが、仕事に戻るぞ、と休憩を終えた。


 定時制高校も最終学年の冬になって、僕は卒業に手応えを感じていた。

二十歳を過ぎて保護観察期間は終わっていたが、僕は住職先生を訪ねて卒業の見込みが立ったことを報告した。

今思えば、住職先生の笑えない冗談のような導きから始まった二度目の高校生活だったが、住職先生と親方の応援もあって楽しい時間を過ごせたことは間違いない。

僕の十代は色々ありはしたけど、どんなときにも両親は僕を見捨てなかったし、出会った大人たちはいつも寛大で、僕の将来について考えてくれる人ばかりだった。

もうすぐ僕も社会人だな、そんな大人たちのようになれるのかな、と考えていた頃に、中学の同学年全クラスの同窓会の案内状が届いた。

案内状を見ると、幹事は透だった。

透は大学の卒業を確定させて、こちらへ帰ってきているようだった。

聡子は無事に元気な男の子を出産して、いまは子育ての真っ最中だと聞いていた。

社会人野球の名門チームに内定が決まっていた太郎から電話があって、案内状は届いたか、と聞いてきた。

僕はこの同窓会の案内ハガキの『出席』に丸を付けて返信した。

 同窓会は大勢の参加者で賑わっていた。

僕は透を見つけると、幹事お疲れさま、大盛況だね、と労った。

透は僕に、来てくれてよかった、と言って、子供を抱いた聡子を探して呼んだ。

「久しぶり、おめでとう、男の子なんだってね」

「ありがとう、会えてよかったわ」

聡子は小さな子供を抱っこしていて、僕に子供を紹介してくれた。

「うわぁ、かわいいねぇ、この子、名前なんて言うの?」

「ケイ、繋ぐって書いて、(けい)

「へぇぇ、いいお名前でちゅねぇ、ケイ君」

僕が聡子に抱っこされた子供をあやしながらそう言うと、透が思いもしないことを言った。

「名付け親は、お前なんだぜ?」

「僕が名付け親? どうして?」

「披露宴のビデオレターで歌ってくれたろ? あの歌から付けたんだよ」

「えっ? あの歌から?」

「ま、そういうことなんだよ。なぁ、ケイ」

透は聡子と子供の抱っこを替わると、楽しんでってくれよな、と子供を抱きかかえて幹事の仕事に戻っていった。

そのあと、久しぶりに会った理香と二人で追いかけっこをしたりして、たくさんのクラスメイトと楽しい時間を過ごすことが出来た。

二次会は遅れてやってきた友達が母親の店に誘ってくれて、太郎や仲間たちみんなで行った。

僕たちは朝まで酒を酌み交わしながら、何度も何度も同じ昔話を繰り返しては大いに楽しんだ。

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