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あの大きな樹とともに  作者: 三笠 好弘


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第五章 オジン……その4

 約束の期限の三日が経った。

僕はこの前の音楽スタジオの中で、ボーカルマイクのスタンドを前にして立っていた。

正面では、純の友達で映像業界志望だという女の子が自主製作映画の撮影に使っているという本格的なビデオカメラを三脚にセットし、僕にピントを合わせていた。

何度かリハーサルをして、僕はまず冒頭のあいさつを撮ってもらった。

「透君、聡子さん、ご両家の皆様、ご来席の皆様、本日は誠におめでとうございます」

と披露宴にふさわしく畏まって挨拶をした。

収録はそつなく終わったが、その様子をみていた純は、悪くないっちゃ悪くないんだけどなぁと、なにかもの足りない様子だった。

「大体さぁ、これって披露宴で流れるんだろ? 披露宴ってさ、メチャクチャめでたいパーティーじゃん?」

純はそう言って、もう一回やろうと言った。

次のテイクで、本日は誠におめでとうございます、と僕が言った後に、「おめでとう! イェー!」と僕の後ろからバンドメンバーと一緒に純が賑やかに割り込んできた。

僕は少し吹き出してしまって、彼らを追い払うように手を後ろに振ってから、祝辞を続けて読んだ。

純たちは僕の祝辞に合わせて、おぉぉと驚いたり、うんうんと相槌を打ったり、わーっと囃したてたりして僕のつたない祝辞を精一杯盛りあげてくれた。

透が僕をサッカー部に誘ってくれたこと、聡子が僕の脚色した台本を褒めてくれたこと、そんなエピソードを交えて、末永くお幸せに、とお祝いのスピーチを締め、最後に歌をプレゼントします、と言ったところで撮影を一旦止めた。

この後は、歌の撮影だった。

バンドメンバーの演奏に合わせて、歌のリハーサルを二回した。

ビデオカメラのセッティングも終わって、いよいよ本番となった。

「オジンどうした? 表情硬いよ? いい? うまく歌おうとするんじゃないよ? さっきの調子で大丈夫だよ、しっかり歌えてるからな、伝えたい相手のことを想って歌うんだ、いいな」

純は僕が緊張していると思ったのか、そうアドバイスをしてくれた。

緊張もしていたのには違いないのだが、さっき収録したスピーチを思い出して考えていたことがあった。

二人の門出を祝う歌として、ひとつ欠けているものがあると感じていたのだ。

純は、透と聡子のことを全く知らない。

透から手紙かメッセージを、との依頼が書かれた手紙を僕から奪って読んだ時から、純は本当に二人のことを祝福している。

さっきのスピーチ撮影だってそうだ。

僕が透と聡子の幸せを願って書いた詩に、純はメロディをつけてくれた。

それは、会ったこともない二人の幸せを心の底から祝った、喜びのメロディなのだ。

僕は透と聡子に、彼女の想いを伝えたいと思った。

「純、頼みがあるんだけど」

「なに? どうした?」

純は片手で持てるサイズのビデオカメラを手にしていた。

このカメラで個別のカットを別撮りするのだという。

操作の確認をしている純に、僕は切り出した。

「一緒に、僕と一緒に歌ってくれないか?」

「なんでさ?」

「いや、うまく言えないけど、純にもこの詩を歌って欲しいんだ」

純は僕の顔をしばらく見て、仕方ないな、と手にしていたビデオカメラをカメラマンの女の子に手渡した後、マイクスタンドを僕の横にもう一本立てた。

「その代わりワンテイクしかやんないぞ? いい? ワンテイクだからな! オジンの想いをこのワンテイクに全部ブチ込んで出し切れよ!」

僕が純に、わかった、というと頭出しのカウントから前奏が始まった。

透と聡子の幸せを願って、僕は心を込めて歌った。



『前を見て 馴染んだ笑顔並ぶ この晴れの日に

 二人ゆく 未知なる扉開く 旅立ちの時


 愛と希望をもって

 踏み出す最初の一歩

 脇目も振らずにそっと歩き出す

 長い道を


 夢を (いだ)いて 新しい日々が 待ち受ける時代

 悩む 時には 思い出す笑顔 いつでもそばに

 二人でずっとずっと 手をとり合って

 遥か キセキの いのちを 繋ぐ


 思い出す 駆け抜けた日の記憶 幸せの日々

 送り出す 同じ道歩む二人に 伝えたこころ


 これまでの愛を全部

 伝える道を行くんだ

 迷うことはないきっと大丈夫

 だから進め


 託す 想いを 受け取った君が はばたく世界

 自分 信じて やがてくる試練 勇気を胸に

 交差する人生が 巡り会う瞬間(とき)

 中で キセキの いのちを 繋げ


 いま聞こえる幸せ運ぶ新しい声が 

 そっと抱きしめる二人を照らす小さな光を


 鐘の()が 響き渡るはるか かなたのそらへ

 沸き起こる 歓喜の声広がる 胸いっぱいに


 万雷の手拍子が

 始まりの時を告げる

 溢れ出す言霊(ことだま)を解き放つ

 願い込めて


 歌を 歌うよ 高らかに誓う 愛するキミに

 祈り 届くまで 諦めはしない 幸せのために

 高く掲げる理想 叶えるミライ

 光る キセキの いのちを 繋ぐ


 繋ぐ 繋いで あたらしい奇跡 広がる世界

 繋ぐ 繋いで 受け継いだ軌跡 繋がる世界

 二人でずっとずっと 寄り添い合って

 永遠(とわ)に キセキの いのちを 繋ぐ

 永遠(とわ)に キセキの いのちを 繋げ』



純は僕が歌いやすいように終始リードしてくれた。

僕はところどころリズムと音程を外したが、純がうまくカバーしてくれたようだった。

うまく歌えたとは到底思えなかったが、僕は想いの全てを込めて一生懸命に歌い切った。

撮影が終わって、僕がどんな感じだったか見せてくれないか、と撮影してくれた女の子に頼むと、純はダメだという。

「約束はワンテイクだったろ? 今見ると絶対やり直したくなる、取り繕ってうまくやろうって気になる。うまくやってやろうって気持ちは絶対相手に伝わるんだ。それじゃオジンの本当の想いは伝わらないよ! オジンはこのワンテイクに全部を出し切ったんじゃないのか? 出し切ったのなら絶対に見るな!」

いつになく真剣なその表情に、僕は純からプロ意識のようなものを感じた。

「大丈夫だよ、きっと届くよ、大丈夫だから」

純は優しくそう言って、僕の両手をそっと握ってくれた。

カメラマンの女の子は、急いで編集するね、と機材を片付けて帰っていった。

 二日後、授業終わりの教室で、預かってきた、と純は編集を終えたVHSのビデオテープを手渡してくれた。

もう見てもいいぞ、と純は笑った。

「純は見たの?」

「見たよ」

「どうだったかな?」

少しニヤッ、と笑ったかに見えた純は、右手の親指を一本立てた。

「いいと思う、オジンの一生懸命さがよく出ていたよ」

「そ、そう? なら良かった」

「帰ってから見てみろよ」

「いや、うちの家にはビデオデッキがないんだ」

「えっ、今時珍しいな」

「これを機に買ってもいいんだけど」

「じゃぁさ……、あたしンちに来て……見るか?」

「いや、純のお墨付きなら確認しなくても大丈夫だから、いいよ」

「えっ、あっ……、うん、そうか……、あっ、そっか、そっか、うんうん、大丈夫か、うん、大丈夫、大丈夫、大丈夫だったよッ」

純は少し慌てたように早口でそう言いながら、顔の前で両手合わせて鼻と口を覆うような仕草をした。

おかしな様子の純に、みんなに感謝を伝えておいてほしい、とお願いをして下校した。

翌日、僕はビデオテープに手紙を添えて、透の家に届けた。

あいにく透は不在だったが、応対してくれた家政婦さんに(ことづ)けた。

そして二人の挙式当日、僕は屋根の上から、ハワイってこっちかな、と東南の空に向かって、透、聡子、おめでとう、末永くお幸せに、と呟いた。

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