第五章 オジン……その3
数日経って純は僕に、詩は書けたのか、と聞いてきた。
僕は、こんなのでいいのかな、と書いてみた詩を純に見せた。
純は僕の書いた詩を黙って読みながら、時折チラッとこちらを見た。
「へぇぇ、ふぅぅん、オジン、こんなの書くんだぁ」
「ど、どうかな? 一生懸命書いてみたんだけど……」
「いや、いいね、いいよ、気に入った! あとは任せて。あたしがこの詩に最高のメロディをつけてやるよ」
純は僕の書いた詩を何度も読みながら、鼻歌を歌い出した。
僕は純に、お願いします、と頭を下げると、なんだよ、頭なんか下げて変なヤツだな、と純は笑った。
あくる週、学校が終わると純は僕を音楽スタジオに案内した。
初めて入った音楽スタジオには、ドラムやキーボードなどの楽器やギターアンプ、ベースアンプが置かれていて、録音機材、マイクミキサー、そしてマイクスピーカーが天井から吊り下げられていた。
純から機材の説明を聞きながら珍しそうに僕がそれらを見ていると、お疲れ様でーす、こんばんはー、と挨拶をしながら三人の男の子たちが入ってきた。
僕も彼らに挨拶をすると、純は彼らが自分と一緒に夢を追いかけている仲間だといって、僕に紹介してくれた。
純はボーカルのマイクスタンドの前に立って、今から完成した曲を歌って聞かせるから、スタジオの録音機械のボタンを押せ、と僕に言った。
ドラムスティックのカウントから疾走感のあるエレキギターが響き渡り、爆ぜるドラムビートとタイトなベースラインがそれに続く。
そして僕の書いた詩を自作のメロディに乗せて、純は歌った。
僕は音楽には疎く、この表現が正しいのか分からないが、いかにも門出を祝うに相応しい、明るいロックナンバーだと思った。
初めて聞いた純の歌声は透き通っていて、発声も素晴らしく良かった。
僕が思っていた以上だった純たちの実力に圧倒されていると、演奏を終えた純が感想を聞いてきた。
「すごく上手だったよ、プロを目指してる人にこんなこと言うと、失礼かもしれないけど……」
「は? なに言ってるんだよ? 違うよ! 曲は気に入ったかって聞いてるんだよ」
「あ、ごめん、みんなの演奏に驚いちゃって……」
「じゃ、もう一回やるから、ちゃんと聴いとけよッ、オジン!」
純たちは、もう一度演奏してくれた。
やはり純や彼らは理屈抜きに素晴らしい演奏をした。
素人でも明らかにわかる、僕が初めて出会う本物の才能を持った表現者たちだった。
僕は不思議な気持ちになった。
透と聡子の結婚式に向けて書いた僕の拙い詩が、本物の才能に出会うことでこんなに素晴らしいものになるのか、と感動した。
「すごく良かったよ、ありがとう、純、みなさん」
演奏が終わって僕がそう言うと、純はスタジオの録音機械からカセットテープを取り出して僕に渡した。
「期限は三日な、三日、三日で完璧に覚えて来いよ!」
純がそう言うと、今から自分たちの練習をするからと、僕を音楽スタジオから追い出した。
バンドのメンバーたちに、オジンさん頑張ってください、と送り出されると、すっかり自分がオジンと呼ばれることに慣れきってしまっていることに気が付いた。
そういえば、僕には今まであだ名なんてなかったな、とまんざら悪くもないと思いながら、カセットテープを手にして音楽スタジオをあとにした。




