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あの大きな樹とともに  作者: 三笠 好弘


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第四章 聡子……その7

 五年生でのクラス替えで、聡子と透、太郎とは別のクラスになった。

理香と僕は同じクラスで、相変わらず整列の時は僕が一番先頭だった。

理香は言うに及ばず、太郎との身長差も開いていく一方だった。

太郎は少年野球でも存在感を発揮していて、その実力は他の地域の少年野球チームにも知られるようになっていた。

僕はといえば、たまに試合に出してもらったりはしていたが、たいていは補欠扱いだった。

それでも太郎は、僕のキャッチボールの相手を続けてくれていた。

次の試合に出られるとわかったときは、試合の前日に公園で自主練習に励んだりもしていた。

練習の甲斐なく、試合でよい結果を得られなかったときも、公園で練習をしていた。

試合のあった日の夕方、公園で自主練習をしていると太郎がやってきて練習に付き合ってくれた。

ひとしきり練習をして公園のベンチに二人で座っていると、太郎が公園の外を歩く二つの影を見つけた。

聡子と透だった。

「知ってるか? あの二人、最近すごく仲いいんだぜ」

「そうなんだ、違うクラスになって顔を合わせてないから、知らなかったよ」

「まぁ仲がいいというか、透が一方的に聡子に近寄ってる感じだけどな」

「そうなんだ、でも仲がいいのは良いことだよね」

僕が笑ってそう言うと、太郎は何か言いたげな顔をしたが、その後は何も言わなかった。


 僕と太郎、聡子と理香、そして透は同じ中学校に進学した。

理香とだけは小学校から引き続き、同じクラスになった。

僕と太郎は早速、野球部に入部した。

透はサッカー部、理香はバレーボール部、聡子は軟式テニス部に入った。

僕たちの中学校は古くからある住宅街の中にあり、グラウンドがものすごく狭かった。

メインのグラウンドは長方形で主に野球部、サッカー部、陸上部が使用し、軟式テニス部が男女一面ずつ二面のコートがあるサブグラウンド、バスケットボール部、バレーボール部が体育館を使用していた。

陸上部は投擲系の練習以外ではグラウンドの端を使用していて、それもグラウンドの長辺が百メートルもないため、短距離走の練習すらまともにできない有様だった。

どうせなら曜日を分けて広く使えばいいとも思うのだが、部活動は毎日行う事が学校の基本方針らしかった。

このため、野球部はサッカー部や陸上部との境界線に毎日折り合いをつけて練習をするのだが、伝統的に野球部とサッカー部の仲は悪いらしく、先輩たちが毎日その日の境界線がどこにあるのかで揉めては練習が中断していた。

中断している間に一年生ができることはなく、揉めている先輩たちが境界線の折り合いをつけるのを待つしかなかった。

今日もまた揉めだしたな、と僕が傍観していると、同じく手持ち無沙汰になっていたサッカー部の透が声を掛けてきた。

「今日も始まったな」

「そうだね、透はどう? サッカー部楽しい?」

「楽しいのは楽しいんだけど、毎日これじゃなぁ。野球部はどうなんだ?」

「楽しいんだけど、先輩たちの練習についていくのが大変なんだよ」

「中三と中一じゃ体つきも体力も違うし、仕方ないな」

「でも、太郎は一年生なのにもうレギュラー候補だよ?」

「アイツは俺たちなんかとはモノが違うさ、もう別格だろ、別格」

そんな風に笑って会話していると、透は急にこんなことを聞いてきた。

「お前さ、聡子のこと、どう思ってる?」

「え? どうしたの? 急に」

「いや、だから聡子のこと、どう思ってるんだ?」

「どうって、友達だよ? え? なに?」

「もういい、忘れてくれ」

透は、なんだコイツ、鈍いやつだな、というような顔をして、野球部と折り合いをつけたサッカー部の輪に戻っていった。

「野球部、集合」の号令に僕も気付いて、野球部の円陣に向かって走っていった。


 野球部は顧問の方針で、主将を中心とした上級生部員の自主運営スタイルを採っていた。

狭いグラウンドを少しでも効率よく使おうと、上級生たちは練習に参加するメンバーを選抜して活動していた。

当然、選ばれなかったメンバーが出るわけで、僕は外される部員の筆頭格だった。

少年野球を始めた頃はバットやボールが手に余って苦労したが、自主練習の成果もあって練習にもついて行けるようになり、同級生に対しても遜色ない実力だと自負していた。

だが中学一年生の平均より15cmほど低く、三年生とは30cmほどある差を埋めるのは容易ではなかった。

少年野球の監督は、野球というスポーツは体が小さくても技術でカバーできるスポーツだと教えてくれた。

確かにバスケットボールやバレーボールほどの苦労はないのかもしれない。

しかし現実的にこの体格差を埋めるほどの技術は僕にはなく、まるでマネージャーのような位置に甘んじるほかなかった。

そして境遇が変わることもなく、二年生になった今日もまた、いつものグラウンドの境界線で揉めている三年生の先輩たちをぼんやり見ていると、透が話しかけてきた。

「また始まったな、来年になったら俺たちがこれをやるのか?」

「いや、どうだろう。来年はきっと僕、野球部にはいないから」

「どうして? 野球部、辞めるのか?」

「僕さ、この通り体が小さいだろ? 野球を続けるには、ちょっとね」

「なら、サッカー部に来いよ、サッカーなら体が小さくても活躍できるぞ。アルゼンチン代表のエースは身体が小さくても世界で一番優秀な選手なんだぜ」

「ありがとう透、でも、もうスポーツはいいかな」

「そうか……、でもさ、気が変わったらいつでもサッカー部に来いよ、待ってるから、じゃぁな」

そう言い残して、透はサッカー部の練習に戻っていった。

透はいい奴だ、育ちの良さもあるのだろうが、誰にでも優しい。

中学でも相変わらず学級委員長でクラスのまとめ役になっている。

人望もあり、太郎とはまた違ったタイプのリーダーになっていた。

透の背中を見送りながら、彼を少しうらやましく思った。

親しい友人たちは体も大きくなり、精神的にも着実に大人へ近づいているんだろう。

僕なんかいつまでたっても小さな身体だし、なにかの問題に直面しても正面から向き合う気概もなかった。

このままでいいはずはないとは思うのだが、次第に野球部へは行かなくなった。

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