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あの大きな樹とともに  作者: 三笠 好弘


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第四章 聡子……その4

 小学三年生になって、初めてクラス替えがあった。

僕と聡子、そして理香は同じクラスになった。

聡子は理香と同じクラスになれたことが、本当に嬉しそうだった。

僕には新しく男の子の友達が出来た。

新しい友達は太郎といって、運動神経が抜群によく、足の速さでも理香に対抗できる唯一の存在だった。

僕とは応援しているプロ野球チームが同じで、あこがれの選手も同じだったことから意気投合し、たちまち仲良くなった。

太郎は、子供らしさの成分が幾分早く抜け出ていったような、落ち着きのある男の子だった。

小学三年生からは、クラスで男女一名ずつの学級委員長を決めることになっていた。

「立候補する人はいますか? 立候補がない場合はくじ引きになります」

先生がそう言うと、新しくクラスメイトになった男子の中でも、飛び抜けて上品な雰囲気を持った(とおる)が手を挙げて立候補した。

透は、骨とう品や茶道具などの販売を手掛ける美術商の家に生まれ、大きなお屋敷に住んでいた。

透のお父さんと聡子のお父さんは友達同士で、仕事上でも関わりがあるらしく、透は聡子と幼馴染だった。

透は生真面目な性格で、姿勢を正して授業を聞いている姿には育ちの良さが如実にあらわれていた。

ほかに立候補者はなく、学級委員長は無投票で透に決まり、女子の学級委員長はくじ引きで理香が選ばれた。

学級委員のほか、日直や掃除、給食などの当番活動とは別に、係活動といって自主的な活動を目的とした担当を決めることとなった。

聡子は僕に、図書係を一緒にやらないか、と誘った。

断る理由もなかった僕が承知をすると、聡子はとても喜んでくれた。

学級文庫にある本の貸し出しカードの整理をしたり、読んだことのある本の感想なんかを僕に話してくれた。

聡子は、僕にたくさんの本を薦めてくれた。

僕の国語の成績が良くなったのは、間違いなく聡子のおかげだった。

生き物係になった太郎は、教室のメダカの世話を毎日一生懸命やっていた。


 小学三年の夏休み、僕と太郎は少年野球チームに入団した。

運動神経の良い太郎はみるみる上達していったが、体が小さい僕にはバットやグローブが手に余ったせいか、慣れるのに時間が掛かりそうだった。

それでも、大好きな野球ができることが楽しくて仕方なかった。

キャッチボールの相手は、いつも太郎がしてくれた。

僕があらぬ方向にボールを投げてしまっても、大丈夫だ、といって走って取りに行ってくれた。

太郎は僕よりもずっと上手だったが、僕のミスを一度も責めることはなかった。

監督やコーチは、大きな声を出して元気よくやりましょう、と僕たちを指導してくれた。

皆に大きな声であいさつをしたり、上級生に混じって一生懸命練習をしたりすることで、僕は引っ込み思案だった自分が、少しずつ変わっていくのを実感していた。

夏休みの終わりごろ、太郎は僕らの学年チームのキャプテンに選ばれた。

面倒見がよく頼れる存在で、小学校でも皆に一目置かれた実力者であり、決して弱い者いじめなどしなかった太郎には打って付けだと思った。

 秋になって運動会の予行演習が始まった。

三年生になってからは、手を繋いで行進する必要はなくなっていた。

運動会の最後には、保護者が毎年楽しみにしている創作ダンスがあり、男女背の順で並んだ隣同士とペアになっていた。

僕の相手は、今年もやっぱり聡子だった。

ダンスの練習をしているとき、聡子は以前とは少し様子が違っていた。

振り付けで手を握って踊る箇所があるのだが、僕が差し出した手を握るのをうつむいて躊躇したり、音楽が止まると手をすぐに離したりした。

僕は自分の手が汚れているのかと思ったがそのようなこともなく、練習のたびに不思議に思っていた。

とにかく聡子は、以前のように僕の手を握り返してはくれなくなった。

そのようにして迎えた運動会本番では、僕は相変わらず身長がほとんど変わらない聡子とのダンスを無邪気に楽しんで踊った。

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