第三章 義人……その12
翌朝、取り調べが始まった。
後で知ったことだが、この時の逮捕者は全部で十九名いた。
僕と義人、佐伯と高橋、あとは騒ぎに加わった両陣営の仲間だった。
あの場所に太郎がいたことがバレることだけは、絶対に避けなければならなかった。
あの場にいた人間で太郎と面識があるのは僕と義人だけのはずだ。
隣の中学だった佐伯は、同じく近隣で有名だった太郎の顔くらいは知っているかもしれないが、あの時点で佐伯はオリオン側に制圧されていたと思われるし、義人ですら太郎があの現場にいたことは気付いていないはずだった。
背後から腕を掴まれた高橋も、太郎の顔は見ていないはずだ。
取り調べというものがどういうものか、僕は様子を窺っていた。
事情聴取が始まると、氏名、年齢、住所、職業、家族構成までは正直に答えた。
そのあと事件の経緯を尋ねられたが、僕は同時に行われているであろう、義人や他の逮捕者の供述の様子が分かるまで黙秘をするつもりでいたので、何も答えなかった。
しびれを切らした取調官は、今回の事件を君がどう思っているのか分からないが、昨晩のことは大変大きな事件だと警察は考えている、と言った。
「君は昨日神社の境内で起こった事件の当事者の一人、それは間違いないね?」
僕が無言で頷くと、取調官は優しくこう続けた。
「君はいまから反省をして、君自身が起こした事件に向き合わなくてはいけない、だから何からでもいい、話してくれないか?」
「ほかのみんなは、何て言ってるんですか?」
僕はうつむいたまま聞くと、取調官は机を強く叩いて、
「ほかの人は関係ない! 自分自身のやったことに向き合って、逃げずに話しなさいと言っているんだッ」と怒気を強めて言った。
「僕はッ、別に……、逃げてる、わけ……じゃ、ないんです……」と小声で途切れ途切れ答えた。
僕は太郎のことだけは隠そうと決めて、事件の経緯を少しづつ話し出した。
留置場に戻ると、父親が来ていた、と教えられた。
逮捕のあと警察に呼び出された父親は、警察署で手続きをした後に僕と面会したがったようだが、四十八時間は面会ができないからと帰されていたようだった。
逮捕されて二日目の夕方、検察庁に連れていかれ、僕は勾留されることとなった。
僕は最低あと十日間は帰れないらしい。
場合によっては更に期間が延びることもあるから、しっかり話して早く次へ進んでいこうね、と取調官は言った。
僕の調書は、概ねこうなった。
「あるグループが盗んだオートバイに乗っていた友達が、持ち主のグループに捕まった。
僕は和解が目的だとして、両方のグループを呼び出した。
僕と友達は、根本的には関わり合いがないのだから、双方で決着を着けるように促した。
結果的に交渉は決裂して、乱闘になった。
揉み合っているうちに自分のオートバイが倒れ、顔面を焼かれそうになった『僕』がオイルライターを奪い取って投げ捨てると、オートバイから漏れていたガソリンに引火して爆発した」
この内容で間違いないね? と取調官は聞いた。
僕は、オイルライターを奪い取って投げた太郎が、誰かに見られていたのではないか気が気ではなかった。
更に僕が気を揉んだのは、投げ捨てたオイルライターから太郎の指紋が検出されないか、ということだった。
僕は警察署の鑑識課に指紋、掌紋、小指側の掌紋、足掌紋、足形などを採取されてからは、そのことばかりが気になっていた。
太郎は今まで警察のお世話になるようなことはなかったはずだし、万が一オイルライターから指紋が検出されても照合はできないんじゃないだろうか?
こればかりは推測するほかなく、僕にはどうしようもないことだった。
調書の後、僕は腰に縄を打たれて手錠をかけられたまま、乱闘騒ぎがあった大鳥居の神社の境内に連れていかれた。
あちこちを指差しては、間違いありません、と繰り返しているところを写真に撮られた。
幸いなことに、境内にある樹々や建物に炎が燃え移ることはなかったようだった。
僕は思い出深い神社の境内にある大きな樹を見て、大変なことをしでかしてしまったのだ、と初めて実感した。
これまで何百年もここに在って、これから何百年もここに在るべき存在を、僕が仕出かした一瞬の出来事で危うく灰燼と化してしまうところだった。
「どうしてこんなことになったんだろう? どうして? どうして? 僕はただ義人を助けたかった、それだけなのに」
僕は、どうしてこうなったのか、そればかり考えるようになった。
僕は友達を助けたかっただけなんだ、こんなことになってしまったけど、それは偶然が重なっただけで僕にはどうすることも出来なかったんだ、仕方のないことだったんだ、僕のせいだって? だったら何が正解だったんだよ、悪いのはあいつらじゃないか、僕は何も悪くないんだ、と考えるようになった。
面会に来てくれた両親にも、どうしてこんなことになったのかをうまく説明することはできなかった。
ただ泣いている母親に対して、うつむいたままゴメンナサイという以外になかった。
父はそんな母の背中をさすりながら、今は特に話さなくてもよい、しっかり反省して帰ってきたら、話を聞かせてくれ、とだけ僕に伝えて帰っていった。




