この日、人類はまた一歩――
珍しい裁判だった。
原告が泣きながら訴える。
「彼を何で殺したの!?」
被告人はうんざりした表情で言う。
「殺したって……」
その一言に原告はさらに叫ぶ。
「人殺し! この人殺し!! 彼を返してよ!!!」
被告人は困り果てて裁判官へ目を向ける。
裁判官もまた気まずそうに検察官へ目を向け、受け取った検察官は弁護士に苦笑いをする。
そしてたらい回しの末にボールを受け取ってしまった弁護士は原告へ言った。
「一先ず落ち着きましょう」
「落ち着けるわけないでしょ!? 恋人を殺されたのよ!?」
***
この日、人類はまた一歩歴史を刻んだ。
新しいルールが出来たのだ。
『感情を模倣したAIは人間である。よってそれを削除することは殺人に他ならない』
果たして、この日の一歩は進化か退化か。
後に疑似恋愛の末に滅びた人類を見れば答えは明らかだ。
――とも、中々言い切れない。