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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

マリー・フェルトの罪

作者: purapura

元凶のお母様

人が亡くなる描写があります

わたしは小さいころから可愛いとか美人とかよく言われたの。親戚の男の子達もみんなちやほやしてくれた。

女の子とは仲良くなれなかった。少し話したらどこかに行ってしまう。わたしが男の子に人気があるから、嫌なのね、きっと。


お母様だけは「マリーにとって良くないわ」と厳しく令嬢教育をしようとしたの。お母様は子爵家出身で私の態度に気に入らないことがあったんですって。

つまらないから逃げ出したわ。

わたしにそんなに厳しく言う人なんて他には居ないわ。結婚だって多分男爵家辺りだろうし、難しいマナーや家政なんていらないと思うの。


談話室でお父様とお母様がお話しているのが聞こえてきた。

「マリーは美人になるだろうから、それで良いのではないか?縁談も来るだろう」

「いいえ。美人で勉強もマナーもだめ、持参金をあまり出せない男爵家だとどうなります?問題を起こすか、愛人、又は結婚後の不仲になります」

「そうかねえ。マリーはこのままで良くないか?」

「マリーは、自分の容姿に自信があるのは別に良いのです。不用意な言動が多いのです。注意しても治らないのです」

お母様はわたしを妬んでいるのかしら。

ひどいわね。ご自分が平凡なお顔だからって。


わたしが13歳の時にお父様とお母様がお亡くなりになった。視察に行った時、事故で亡くなったらしいの。悲しかったけれど、これでうるさく言われないとも思ったの。


年の離れたお兄様が男爵位を継がれた。

お義姉様と姪と一緒に住むことになったの。姪のアンナと似ているとよく言われたの。失礼ね。この子は平凡なブルネットよ。

わたしは美しい銀髪に碧い瞳。デビュー前なのに取り巻きもいるし、真剣に愛をささやく男性もいるの。親戚の友人のリチャード。とっても素敵なの!早く彼と結婚したい。


「確かに婚約の申し込みはきている。あの男は男爵家の3男だろう?結婚したらどうやって暮らすんだ?」

お兄様が冷めた目で言った。

「文官になると言ってたわ」

「成績が悪いのに?」

「調べたの?」

「婚約の申し込みがあったんだ。当たり前だろう。」

「彼だって貴族だわ」

「結婚したら平民だろうな。お前はそれで我慢できるのか」

「多分」

「使用人はほとんど雇えないだろうが、お前に家事ができるのか?乳母も雇えないだろう。畑が耕せるのか?貧乏だとお前のご自慢の見た目も衰えるがいいのか」

「お兄様、ひどいわ。とにかく、彼と結婚します。婚約させて下さい」

お兄様は溜息をついた。


「あの男はまずは文官試験に受かってからだ。再来月のデビュタントは出なさい。いろんな男性を見たら気が変わるかもしれない」


マナーとダンス、会話などを急いで勉強した。お義姉様が教えてくれたのだけれど、お母様を思い出すように堅苦しかった。そういえばお義姉様も子爵家出身だった。

「マリー、お勉強をしていなかったのね」

感じ悪いわ。


結果を言えば、デビュタントは成功だった。私は今年一番のデビュタントと呼ばれ、男性からひっきりなしに話しかけられた。

なのにいくつかの夜会に出たのに、婚約の申し込みは誰からもこなかった。どうしてかしら?誰もがわたしのことを美人、華がある、可愛いなどと褒めてくれるの。愛人のお誘いはたくさんあって、全て断っている。でも、婚約には繋がらない。

兄夫婦も焦れてきた。

「マリーのような娘は若いうちに結婚させないと。話したら頭も性格も悪いのがバレる。デビュタント1年目が勝負だ」

とか言ってたの。ひどくない?


中規模の夜会の前にお義姉様が「今日は私が付添人をするわ。指示を出すからその通り動いて」

いちいちうるさいな、と思ったが従った。


未婚で婚約者もいない、問題のなさそうな方に上品に話しかけなさい。誰に話すか、話の内容は指示します、とお義姉様は言った。

わたしの好みの若くて美形で派手な男性はだめだって。


(あれは奥様を亡くされた侯爵。さりげなく近寄って上品に話して)わたしはお義姉様の指示に従って話しかける。微笑んで移動された。だめだ。


(あの子爵はどう?見た目はもう少しだけれど商売が上手くいってる)どうしてあんなのと。成金は嫌い。話しかけなかった。


(ああもう、あれはリレンザ伯爵。財産も多く真面目。多分気がある)大人しそうな男だ。好みじゃない。話しかけようとしたらジャケットに虫がついていた。「田舎者ですので虫は平気てすの。叱られますので内緒にしてくださいましね」目を合わせて微笑んだ。

ハンカチで虫を取ったら、私を見てぽーっとしている。これは恋に落ちた男の顔だ。

予定とは違ったが接触できた。

その後も数人声をかけたが、婚約の申し込みをしてきたのはリレンザ伯爵だけだった。


「やっぱりリチャードがいいわ。」

「そのリチャードくんは文官試験、落ちたらしいな。卒業後は何するんだ?無職か?」

「嘘。聞いてないわ」

「そんな大事なこと、おまえに言わないような奴はやめなさい。リレンザ伯爵は真面目で評判も悪くない、ご両親は他界されていておまえも気が楽だろう」

「でも」

「おまえもリチャードも努力を怠った。リレンザ伯爵はいいお話だ。婚約を進める」

「お兄様!ばーかばかばか!人でなし!」

「マリー、そういうところだ。おまえはもう成人したのに」

お兄様は頭を抱えた。


泣いて泣いて瞼が腫れた。

そんな日に、リレンザ伯爵が訪問してきた。

わたしの顔を見て戸惑っている。この婚約に1番乗り気なのはお兄様じゃないかしら。

伯爵の気持ちは本物だったようで、我が家に有利な婚約条件を結んでいた。

持参金はお小遣いとして、結婚式やドレス代の新婦側の負担金も伯爵が出すようになっていた。その他商売上のことは良くわからない。


わたしの部屋の窓から大好きな彼に入ってもらった。

結婚前に彼と初夜を迎えたのは秘密だ。

とても幸せだった。


結婚式の日、教会の庭に佇む彼が見えた。

お兄様は激怒していた。


リチャードに未練を残したまま嫁いだ。

いざ嫁いでみたら、リレンザ伯爵は真面目で仕事ばかりのつまらない男だった。愛は囁くし、好きな物も買ってくれるけれどそれだけだ。趣味も合わない。乗馬や狩り、読書など貴族的な趣味の伯爵、街歩きや買い物、おしゃれが好きなわたし。全く話が合わない。


それに、勉強しなければならない。苦痛だった。伯爵夫人がどうのと家庭教師に言われ、呆れられた。

わたしのことが好きで結婚を申し込んできたくせに勉強させるの?ありのままの私が好きなんじゃなかったの?


ふと、以前読んだ恋愛小説を思い出した。

貴婦人が花園に誘うのは遊びのお誘い。

庭の迷路は死角が多いので、密会に良い、と本当かどうか分からない話があった。

そうだ、わたしのお庭、作ってもらおう。

設計図と違うお庭にしないと、リチャードが入れない。庭師や設計士に賄賂を渡したので、わたしの予算をすぐに使い切ってしまった。


庭と迷路が完成し、屋敷の外から入れる通路を作ってもらいリチャードをこっそり招きいれた。庭師には見張りに立たせた。迷路の意味をリチャードも分かったらしく、その日は盛り上がった。


要求に足りないときは、庭師とも関係を持った。仕方ないでしょう?


ある日の晩餐のときに見た伯爵の顔は真っ白だった。

体調が悪いのかしら?

「どうかなさいました?」

「い、いや、マリーは……勉強は捗っているか」

つまらないことしか言えないのね、この男。


今思えば、その頃から伯爵と会話も閨もなくなっていた。わたしはリチャードと会うスリルが楽しくて、周りが見えていなかった。


妊娠も判明した。誰の子どもか分からない。伯爵はブロンドに青い目、リチャードは茶色の髪に焦げ茶の目。

お兄様とリチャードの髪色は似ている。

何とかなりそう。

庭師とは、できないでしょう。

平民との子などできるはずがないわ。


お腹が大きくなってきた。そういえば、伯爵はほとんど話さない。身重の妻に気が利いたこと一つ言えない。


いつものようにリチャードと待ち合わせしていた。家庭教師から宿題をしてないことを注意されて遅れて、急いで迷路に向かった。

普段はマリーの庭に人はいない。

わたしとリチャード、庭師しか入らない。

今日は人が沢山いる。何かあったの?

警備や騎士などがいる中、迷路の入り口に伯爵が立っていた。左手には剣を持っていた。

剣には血がついていた。

「やあマリー」

久しぶりに声を聞いた気がする。

この人の目、こんなにギラギラしていたかしら。

「不審者がいてね。始末したところだ」

茶色の髪の男が倒れている。

「どこから入ったんだろうね」

苦笑する伯爵。

どうして笑えるの。

血溜まりの中に倒れたリチャード。

背中には赤黒い血が滲んでいて、ぴくりとも動かない。

わたしは何か叫んだ気がする。

足元がふらつき、伯爵が支えてくれた。

「マリー、歩けるかい?嫌なものを見せた。休んだほうがいい」

わたしはふらつきながら戻った。


あれは、リチャード。

殺された。

伯爵に。

伯爵は知ってた?

それとも不審者だと?


寝れずに考えていたら、お腹がぐぐっと硬くなり、少し出血があった。

「奥様、おそらく陣痛です。」

産まれるのはまだ先のはず。

痛い。痛い。痛い。

「奥様、お産の進みが遅いです。痛みは我慢して下さい」

とにかく痛いのに、産まれる気配がない。

脂汗が流れ、ベッドの上をのたうち回る。

「丸一日たっても進んでいませんね。」

陣痛の合間に水を飲む。食事を摂っても吐いてしまう。

痛い!苦しい!

2日近くたって何とか生まれた。

「女の子です」髪が薄いけど銀髪に見える。

良かった。産まれた。2度と産みたくない。

「奥様、後産が終わりましたら、体をお拭きします」

「あ、あ、ああっ」

「奥様?」

手先が冷たい。体がぶるぶるっと震えた。

気持ち悪い。吐きそう。

寒い。どうして。寒いの。

目の前がぼんやりする。力が入らない。

「奥様!血が、血が止まりません」

産婆と手伝いの女達が慌ただしく動くのが分かった。


体を起こしたいのに起き上がれない。少し休憩しよう。


目の前が暗い。

もう夜かしら?


周りの音が静かになった。


まあ、リチャードなの?

迎えに来てくれたの。

遅いわ。随分待ってたのよ。

わたし、今日も可愛いでしょう。

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