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雨無村(あまなしむら)で雨の日だけ起きる怪奇現象

本作は、雨の日にだけ現れる怪異に立ち向かう幽霊探偵・伊田裕美の物語です。日本各地には、雨にまつわる伝承や怪談が多く存在します。本作の舞台となる雨無村あまなしむらは架空の村ですが、そこに息づく怪奇現象の数々は、日本の伝統的な怪談や言い伝えを参考にしています。


雨の日、濡れた足跡が忽然と現れたり、誰もいないはずの道で足音が追ってきたりする――そんな体験をしたことはないでしょうか?本作は、そんな雨の日の不気味さを題材にしつつ、封じられた怨念と、それを解き明かそうとする探偵の物語として仕上げました。


読者の皆様にとって、この物語が雨の日の静けさや恐怖を感じるひとときとなれば幸いです。

【怪奇現象】


雨無村は、一見すると何の変哲もない山間の静かな集落である。しかし、雨の日に限り、村の空気は一変する。まるで村全体が息を潜め、何かを恐れているようだった。ここでは、長年語られる怪異が存在する。


1. 足音だけがついてくる

雨の日に村の小道を歩くと、どこからともなく「ぺた…ぺた…」と裸足の足音が聞こえる。足音は次第に近づき、背後に張り付くように響く。しかし、振り返っても誰もいない。振り向かずに家へ戻れば助かると言われるが、振り返った者は翌日姿を消すという。


2. 雨水に映る異形の影

水たまりや濡れた窓ガラスに、そこにはいないはずの影が映ることがある。その影は、長い髪を引きずりながら歩く人影。しかし、それを直接目にした者は、次の雨の日に行方不明になるという。


3. 村の時計がすべて止まる

雨が降り始めると、村のすべての時計が午後十時四分で止まる。「その時間に外を歩いていると、何かに引きずり込まれる」と言われ、過去にこの時間に外出した者の中には、忽然と姿を消した者がいるという。


4. 消えた人々の声

雨の日、どこからか行方不明になった人たちの声が聞こえる。「寒いよ…」「助けて…」といった囁きが、雨音に紛れて響く。家の中にいても窓の外から声が聞こえることがあり、その声に応えてしまった者は、翌日姿を消すという。


5. 祠の前に現れる足跡

村のはずれにある古びた祠。その前に、雨の日には泥まみれの裸足の足跡が現れる。足跡は村奥の川へ続いており、まるで水の中から何かが這い出してきたかのようだ。だが、足跡をたどろうとした者は例外なく行方不明となる。


6. 名前を呼ばれる村人

雨の日、村人たちは「名前を呼ばれる」現象に遭遇する。それは亡くなった家族や、失踪した人の声で「こっちに来て…」と優しく呼びかける。しかし、その声に応じた者は翌朝姿を消している。


7. 雨が降る前に響く泣き声

大雨の前夜、村のどこかから若い女のすすり泣く声が聞こえてくる。それを聞いた者は、翌日の雨の日に高熱を出すか、体調を崩すことが多い。そして、そのまま寝たきりになり、やがて姿を消す者もいる。


こうした怪異が代々語られてきたが、その本当の原因を知る者は少ない。村人たちはただ「雨の日は決して外に出るな」と言い伝えを守るばかりだった。


【幽霊探偵・伊田裕美、雨無村へ】


旅行ルポライターである幽霊探偵・伊田裕美は、雨の日にだけ起こる怪奇現象の真相を探るため、雨無村を訪れる。


彼女は黒のスーツに身を包み、短めの黒髪を持つ知的な女性。鋭い観察力を備え、村の異変を一つずつ解き明かしていく。


村に到着した裕美を迎えたのは、怯えた表情の村人たちだった。誰もが「余計なことはしないほうがいい」と忠告するが、彼女は耳を貸さない。


そんな中、ある老人がひそかに語る。


「これは村の因縁が蘇ったのだ……」


【大雨とともに現れた土壺】


一ヶ月前、大雨で川が氾濫し、長年埋もれていた古びた土壺が流れ着いた。それを見つけたのは村の子供たちだった。彼らは興味本位でその壺を持ち帰り、好奇心から割ってしまった。


以降、村では不可解な失踪事件が続発する。行方不明者は皆「雨の日に外に出ていた」者だった。


【封じられた怨念】


裕美は村の寺で古文書を調べ、百年前の悲劇を知る。かつてこの村では、一人の若い女性が冤罪で処刑された。彼女は死の直前、「私の無念は雨がすべてを語る」と言い残し、川へ沈められた。


その後、村で怪異が発生し、僧侶が祠を建て、彼女の怨念を封じる儀式を行った。その中心となったのが、土壺だった。


「それが今回の大雨で壊されたということか…」


裕美は事態の深刻さを悟る。過去の怨霊が解き放たれたのなら、村で起きている怪異はすべてその女性の怒りによるものかもしれない。


【怨霊との対峙】


裕美は村外れの崖を調査し、朽ちた木々の間に埋もれた石碑を見つける。そこには、彼女が村の不正を告発しようとしていた証拠が記されていた。


その瞬間、空が暗くなり、豪雨が村を覆う。黒髪の女性の影が現れ、低く囁く。


「……ありがとう……」


その言葉とともに、彼女の姿は穏やかに消えた。激しい雨が止み、村を覆っていた重苦しい空気が晴れていくのを裕美は感じた。


【終焉、そして静寂】


村に戻ると、村人たちは異変が去ったことを感じ取り、安堵の表情を浮かべていた。


「……彼女は、やっと自由になったのね。」


裕美はそう呟き、村を後にした。この村にはもう、雨の日の怪異は訪れないだろう。しかし、村が封じていた過去の罪と、それによって生まれた怨念は、決して忘れてはならないものだった。


幽霊探偵・伊田裕美の新たな旅が始まる。


――雨無村の事件、完結。

本作を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


幽霊探偵・伊田裕美の物語は、怪奇現象の背後にある真実を解き明かすことをテーマとしています。雨無村の怪異は、単なる幽霊話ではなく、人々が忘れ去った過去の罪と、残された者の想いを描くものでした。


「雨の日」という要素は、静寂の中に潜む恐怖を表すと同時に、過去の記憶が蘇る象徴として本作の中心に据えました。皆様が読んでいる間に、ふとした雨の日の情景が浮かび上がるような感覚を味わっていただけたなら幸いです。


伊田裕美はこれからも様々な怪異と向き合い、真実を追い求めていくことでしょう。また次の物語でお会いできることを楽しみにしています。


ありがとうございました。

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