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埼玉のタワマンに潜む呪い…土地開発の闇を暴く

都市開発が進む現代においても、時折、長い間手つかずのまま放置された土地がある。それは単なる経済的な理由かもしれないし、法的な問題かもしれない。しかし、時には、人々が言葉にできない「何か」によって、その土地が開発されることを拒んでいるかのように感じることもある。

本作は、埼玉のとある土地にまつわる不可解な出来事を題材にしたフィクションだ。迷信を一笑に付した男が手を出し、次々と起こる怪異。祟りとも言えるその現象の背後には、忘れ去られた歴史があった。そして、それを紐解くのは、旅行ルポライターであり幽霊探偵でもある伊田裕美――。

この物語は、単なるホラーではなく、「過去に封じ込められた声をどうすれば未来へと伝えられるのか」を考える物語でもある。誰かが忘れ去ったとしても、そこに生き、苦しみ、そして消えた人々の存在は確かにあったのだ。

本書を手に取っていただいた皆様が、物語の中で語られる「祟り」の正体に何を感じるか、それぞれの視点で楽しんでいただければ幸いである。

 第1章:埼玉に長く存在した空き地

 埼玉県某所。東京にほど近いこの土地に、長いこと手つかずの空き地があった。周囲はすでに開発が進み、高層ビルや商業施設が立ち並ぶ地域。しかし、その一角だけがぽっかりと取り残されたように荒れ地のままだった。

 理由はいくつかある。

 1つは、この土地に対する開発計画が何度も持ち上がりながら、そのたびに頓挫してきたことだ。ある時は地元住民の反対運動が激化し、またある時は開発業者が原因不明の事故に見舞われ撤退を余儀なくされた。噂好きの者たちは「ここは祟られている」とささやいていた。

 また、過去に一度、大手不動産会社がオフィスビルを建設しようとしたことがあった。しかし、基礎工事の段階で不可解な事故が多発。掘削作業中に重機が突如故障し、作業員が次々と原因不明の体調不良を訴えた。最終的には死亡事故が発生し、工事は中止。計画自体が白紙に戻された。

 そして、最後の理由は単純なものだった。ここは埼玉であり、東京ではない。東京都心であれば、多少の困難があっても開発は強行されたかもしれない。しかし、東京から一歩外れたこの地では、不動産業者もそこまでの執念を持たなかった。より簡単に開発できる土地はほかにいくらでもある。そうして、長年この土地は忘れ去られるように空き地のままであり続けた。

 しかし、そんな「忌まわしい土地」に目をつけた男が現れた――。


 第2章:中国人富豪が土地に目をつける

 埼玉のこの空き地に目をつけたのは、中国人の大富豪だった。彼の名は王紹文ワン・シャオウェン。中国で不動産王として成功し、日本でも積極的に投資を行っていた。

 王は五十代半ばの男で、がっしりとした体格に贅肉がつき、常に高級スーツを身にまとっていた。金のカフスにロレックスの腕時計、そして指には派手なダイヤの指輪が光っている。彼の乗る車は黒塗りのロールスロイス。豪快な笑い声とともに、周囲には金の匂いが漂っていた。

 王は迷信を嫌っていた。いや、迷信というものを軽蔑していたと言っていい。日本には八百万の神や妖怪、幽霊を信じる文化が根強く残っているが、彼にとってはそんなものは馬鹿げた作り話でしかなかった。

 この土地に関しても、地元では「祟られている」「開発しようとする者は必ず不幸になる」と囁かれていたが、王はそんな噂を聞いて嘲笑った。

 「愚かだ。本当に日本人は非合理的だ」

 彼はそう言い放ち、さらに不満を口にした。

 「結局のところ、これは俺が中国人だからだろう。日本人は俺を差別している。だからこんな馬鹿げた迷信を持ち出して、俺に土地を買わせないようにしているんだ」

 周囲の忠告もまったく耳を貸さず、王はすぐに土地の購入を決めた。価格も破格の安さだった。過去の開発計画がことごとく失敗しているため、売り手も買い手も現れず、ほとんど「捨て値」のようなものだった。

 王は豪快に笑った。

 「迷信などクソくらえだ。俺が証明してやる。この土地に超高級タワーマンションを建て、日本の投資家どもを見返してやる!」

 王の計画は即座に動き出した。

 だが、その土地をよく知る地元の神主は、王に対して無料でいいから地鎮祭を行いたいと申し出た。

 「この土地には長い歴史があります。少しでも禍根を断つために、簡単な儀式をさせていただければ……」

 だが王はその申し出を冷笑し、一蹴した。

 「迷信深いバカがまたひとりか?地鎮祭?そんなくだらないものに頼るから、日本人はビジネスで中国人に負けるんだ」

 神主は何も言わず、その場を去った。

 王はこのとき、ほんのわずかでも考えるべきだったのかもしれない。しかし、彼はまったく気にも留めず、工事を始める準備を進めていった。

 こうして、「祟られた土地」に重機が入り、大規模な開発工事が始まることとなった――。


 第3章:工事が始まる

 王紹文の主導のもと、大規模な開発工事が始まった。計画はスムーズに進んでいるように見えた。だが、最初の重機が土地に踏み入れたその日から、異変は起こり始めた。

 最初に異変を感じたのは作業員たちだった。

 「なんだか体が重い……」

 「朝から頭痛がする。こんなこと、今までなかったのに」

 次々と工事関係者が体調不良を訴え始めた。最初は疲れや環境の変化によるものだと考えられた。しかし、日が経つにつれ、その症状は悪化していった。めまい、吐き気、異様な倦怠感。さらには、原因不明の高熱を出し、病院に運ばれる者まで現れた。

 さらに、作業機械のトラブルが相次いだ。

 「クレーンのエンジンがかからない」

 「ブルドーザーのブレードが動かねぇ」

 最新の設備を使っているはずなのに、まるで何かに妨害されているかのように機械が次々と故障した。整備してもすぐに不具合が出る。原因がわからず、整備士たちも首をかしげるばかりだった。

 そして、ある夜、警備員が奇妙なものを目撃する。

 「……誰かいる?」

 真夜中の工事現場。誰もいるはずのない場所に、人影が浮かんでいた。遠目には白い服を着た人のように見える。だが、警備員が懐中電灯を向けると、その影はふっと消えた。

 「おい、今の見たか?」

 「いや……誰もいないだろ……?」

 それからというもの、夜勤の作業員や警備員たちの間で「白い影を見た」「女のすすり泣く声が聞こえた」などの噂が飛び交うようになった。

 極めつけは、ある日、工事現場の地下から発見されたものだった。

 それは、白骨化した一体の人間の遺体だった。

 警察がすぐに調査に乗り出したが、遺体には外傷がほとんどなく、事件性は低いと判断された。年数が経ちすぎており、DNA鑑定も困難。身元の特定は事実上不可能だった。

 「この土地の過去を調べたほうがいいんじゃないか……?」

 作業員たちの間で、不安の声が上がり始めた。しかし、王は相変わらず強気だった。

 「くだらん!ただの偶然だ!」

 だが、その「偶然」は続いた。

 工事の進行とともに、現場では負傷者が増えていった。倒壊事故、重機の転倒、落下物による事故……。そのうち、死亡者が出るようになった。

 最初は単なる労働災害と片付けられていたが、続く死者の数が異常だった。わずか数ヶ月の間に5人の作業員が命を落としたのだ。

 ついに現場の責任者が王に直訴する。

 「社長、工事を一旦中止すべきです。このままでは、さらなる犠牲者が……」

 だが、王は一蹴した。

 そんな馬鹿な話があるか!迷信に負けてどうする?工事を続けろ!

 しかし、王自身もその頃から妙なものを感じ始めていた。

 夜になると、誰もいないはずの自宅で、妙な音がする。

 「ザッ……ザッ……」

 何かが床を引きずるような音。

 寝室のドアを開けると、誰もいない。

 それでも、音は続く。

 そして、ある晩。

 王は、自宅の廊下の鏡の中に、それを見た。

 白い着物をまとい、髪を乱した女が、じっと彼を見つめていた。

 その日を境に、王の様子は一変した。

 そして――彼は、忽然と姿を消した。


 第4章:幽霊探偵への依頼と王の失踪

 王紹文の失踪は、突然だった。

 工事現場の作業員や秘書たちは、朝になっても彼と連絡が取れず、不安を感じていた。普段は自ら現場に足を運び、進捗を厳しく管理していた彼が、一切の連絡もなしに姿を消すなどあり得ないことだった。

 王の家へ向かった部下たちは、玄関の鍵が開いていることに気づいた。

 「社長? いるんですか?」

 呼びかけても返事はない。室内は異様な静けさに包まれていた。

 部屋の中を調べると、寝室のベッドにはシーツが乱れたまま、まるで慌てて飛び起きたかのような形跡があった。書斎の机にはスマートフォンと財布が置かれたまま。何かに怯えて逃げ出したのか、それとも……。

 そして、リビングの壁に、異様なものがあった。

 「これ……何だ?」

 壁一面に、爪で引っかいたような無数の傷跡。黒ずんだ指の跡のようなものが点々と残り、その中には、おぞましい漢字がいくつも刻まれていた。

 「帰レ(回去)」「ワスレルナ(不要忘记)」「許サナイ(不原谅)」

 王はどこへ消えたのか。警察も動いたが、手がかりは何1つ見つからなかった。防犯カメラには、深夜に王が自宅からふらふらと外へ出ていく姿が映っていたが、そのまま行方不明となった。

 工事現場の噂は、もはや誰も口に出さなくてもわかるほど広まっていた。

 そして、王の家族は最後の手段に出た。

 彼の妻、李美玲リ・メイリン は、日本に住む霊能探偵の存在を知った。

 「伊田裕美いだ ひろみ

 彼女は、これまで多くの心霊事件を解決してきた人物だった。

 裕美は、長い黒髪を後ろでひとつに束ねた知的な女性だった。黒いスーツを身にまとい、鋭い目つきが印象的で、どこか冷静さと威厳を兼ね備えている。彼女の表情は滅多に崩れず、静かに人の心を見透かすような雰囲気を持っていた。

 美玲は迷信深いタイプではなかったが、ここまでくると否定しきれなかった。夫が怯えていたことも知っていた。そして、最後に彼が「何かが見える」と言っていたことを思い出した。

 「お願いです……夫を探してください。何かに連れて行かれたのかもしれません……」

 裕美は、この依頼を受けることにした。

 しかし、彼女はこの時、まだ知らなかった。

 この土地に隠された、あまりにもおぞましい過去を――。


 第5章:裕美、土地の暗い過去を知る

 裕美は、王紹文の失踪の手がかりを求め、この土地の歴史を調べることにした。

 まず訪れたのは郷土資料館だった。そこには古い地図や文献が保管されており、この土地にまつわる歴史的な記録が残されているかもしれない。

 受付で事情を説明すると、資料館の職員は不安げな表情を浮かべながらも、蔵書の中から古い土地の記録を探してくれた。

 「確かに、ここの土地は長年開発されずに放置されていましたね。でも、その理由について詳しく書かれた資料は……」

 職員が戸惑いながらも出してきたのは、昭和初期の新聞の切り抜きや、戦前の土地所有者に関する古い帳簿だった。

 その中に、1つ気になる記録があった。

 「○○遊郭火災事故 住人全員死亡」

 遊郭。そう、この土地にはかつて遊郭があったのだ。

 しかし、表向きには「火災事故」として処理されていたものの、記録には妙な不整合が多かった。住人の数が曖昧で、火災の原因もはっきりしない。何より、不審なのは、地元の住民が誰もこの事件について語りたがらないという記録が残されていたことだった。

 「ただの火災ではない……」

 裕美は直感的にそう感じた。もっと深く掘り下げる必要がある。

 次に彼女は、地元のお寺を訪れた。

 この寺は、この土地がまだ人の住む場所だったころから存在し、長い歴史を持つ。もし何か記録が残っているとすれば、ここしかない。

 対応してくれたのは、老齢の和尚だった。

 裕美が調査の目的を伝えると、和尚は長い沈黙の後、重い口を開いた。

 「……あなたがそこまで知ろうとするなら、もう隠すべきではないのかもしれません」

 そして、奥から古い書物を持ち出してきた。

 「これは、当寺に代々伝わる記録です。ここには、この土地で起きたことが書かれています」

 裕美がその書物を開くと、そこには信じがたい記述があった。

 戦争末期、遊郭の経営者が没落し、借金を抱え、女郎たちを処分しようとした。

 この遊郭では、昔から客の殺害や人身売買が行われており、それが露見するのを恐れた者たちが口封じのために大量殺人を行ったのだ。

 女郎たちは、逃げることもできず、ひとり残らず殺された。

 そして、そのままこの土地に埋められた。

 そもそも戸籍すらないような女性たちで、行方不明になっても騒がれなかった。

 彼女たちは、死んでもなお成仏できず、この土地に縛られ続けた。

 「……これで、全てが合点がいきました」

 裕美は、思わず呟いた。

 不可解な事故、作業員の体調不良、白骨死体の発見、そして王紹文の失踪。すべては、この土地に染み付いた怨念が引き起こしたものだったのだ。

 しかし、問題はここからだった。

 どうやって霊を鎮めるのか。

 「ここが一番の難点ですね……」

 裕美は、考え込んだ。

 通常、霊を鎮めるには供養が必要だ。しかし、この場合、単なる読経や地鎮祭では不十分だろう。長年にわたる怨念が蓄積し、この土地そのものが呪われている。

 和尚は、静かに言った。

 「彼女たちの霊は、ここで理不尽に命を奪われました。ただ成仏を願うだけでは、彼女たちは満足しないでしょう」

 「では、どうすれば?」

 「彼女たちに、真実を伝え、歴史に刻むことです。」

 遊郭の事件は、火災事故として隠蔽され、誰にも知られることなく歴史の闇に葬られた。しかし、霊たちはそれを知っている。

 『私たちの死は、なかったことにされた。』

 だからこそ、彼女たちはこの土地に留まり続け、復讐を果たそうとしている。

 「もし、あなたが彼女たちの話を聞き、真実を世に明らかにすれば……あるいは」

 つまり、霊たちの怒りを鎮めるには、彼女たちの無念を晴らすことが必要だった。

 だが、どうやって?

 遊郭の存在すらほとんど忘れ去られた今、誰がそれを信じる?

 「……方法を考えなくては」

 裕美は、覚悟を決めた。

 彼女たちの声を聞き、真実を暴く。

 それが、祟りを鎮める唯一の方法だった。


 第6章:霊の呪縛が解かれる時

 裕美は、遊郭で殺された女郎たちの無念を晴らすため、彼女たちの声を世に届けることを決意した。

 彼女は、郷土資料館の古い記録を公開し、過去の新聞記事をもとに証拠を整理した。そして、地元住民や歴史研究者と協力し、戦時中の失踪者リストや遊郭関係者の証言を集めた。

 この一連の調査をYouTubeでライブ配信し、過去にこの地で起こった恐るべき事件を全国に発信した。

 「ここに埋められた女性たちは、火災で亡くなったわけではありません。口封じのために殺されたのです。」

 彼女の言葉が、視聴者の心を打った。

 霊たちの苦しみが、人々に伝わったのだろうか。

 すると、その瞬間――

 「うわああああ!」

 現場の空気が一変し、突如として不気味な唸り声が響き渡った。

 風が吹き荒れ、建設現場の重機が揺れ、辺りが歪むように見えた。

 裕美は息を呑んだ。これは霊たちが最後の抵抗をしている証拠だった。

 彼女は心を落ち着け、強い声で言った。

 「あなたたちの死は無駄にはなりません。あなたたちはここにいた。今、世間がそれを知りました!」

 すると――

 霊たちのすすり泣く声が聞こえたかと思うと、やがてその音は遠ざかり、ふっと風が止んだ。

 辺りを包んでいた不吉な気配が、静かに消えていく。

 「……終わった」

 長年、この土地にまとわりついていた呪いが、ついに解けたのだった。


 【王紹文の帰還と土地の売却】

 霊たちの呪縛が解けたちょうどその頃、王紹文が突然、戻ってきた。

 彼はボロボロの姿で、まるで長い間どこかに囚われていたような風貌だった。

 「お、俺は……どこにいたんだ……?」

 何が起こったのか、王自身もはっきりとは覚えていなかった。ただ、彼は奇妙なことを呟いた。

 「……女が、俺を見ていた……たくさんの、女が……」

 それ以上のことは何も話さなかったが、彼の中に何かが刻まれたのは明らかだった。

 しかし、彼はすぐに冷酷なビジネスマンの顔に戻った。

 「この土地はもう大丈夫だな。ならば、俺はこの計画を手放す。」

 彼は日本の不動産会社にこの土地を売却し、タワーマンションの計画を完全に譲渡してしまったのだ。


 第7章:地元住民たちの行動

 一方、裕美の調査結果は、多くの人々の関心を集めた。

 彼女のYouTube配信を見た地元の人々や、全国の視聴者たちは、すぐに**「死んだ女郎たちのために慰霊碑を建てよう」**と動き始めた。

 SNSで拡散され、すぐにクラウドファンディングが立ち上がった。

 「彼女たちの苦しみを無駄にしないために、正式な慰霊碑を建てよう!」

 この呼びかけに、多くの人々が賛同し、驚くほどのスピードで慰霊碑建設のための資金が集まった。

 やがて、日本の新しい不動産会社が正式に土地を引き継ぎ、計画を修正した。

 慰霊碑のための土地を確保し、タワーマンションを建設する。

 そうして、亡くなった女性たちのための立派な慰霊碑が建立され、名前のわからない彼女たちに対して正式な供養が行われた。


 【伊田裕美、幽霊探偵としての手腕を発揮】

 そして、すべてが終わった後、裕美は一人、慰霊碑の前に立っていた。

 長い戦いだったが、彼女はついにこの土地に巣食っていた怨念を解き放ち、亡き女郎たちに安らぎをもたらした。

 「あなたたちは、決して忘れられない。これからも、ここで生き続ける」

 彼女はそう呟くと、静かに手を合わせた。

 霊たちはもう、この土地に未練を残していない。

 慰霊碑の傍らには、新しく完成したタワーマンションがそびえ立っていた。

 王紹文が建設を放棄したことで、日本人の手によって整備されたこのマンションは、どこか清々しい雰囲気を漂わせていた。

 すべてが終わった。

 伊田裕美。旅行ルポライターにして幽霊探偵。

 彼女の活躍によって、この事件は解決したのだった。

本作を書き終えて改めて思うことは、「歴史とは勝者のもの」だということだ。時代の流れの中で、記録されずに消えていった者たちは数えきれない。彼らの声は聞こえないまま、ただ「なかったこと」にされる。しかし、本当に彼らは何も言わず、何も求めず消えていったのだろうか?

この物語の中で、裕美は忘れられた女郎たちの声を掬い上げ、現代にその存在を刻もうとした。それがたとえ慰霊碑という形であっても、彼女たちの存在を知る者がいる限り、完全に消えることはない。

ホラーというジャンルは、恐怖を感じることで終わることが多い。しかし、本作では、恐怖の先に「過去と向き合うこと」の大切さを描きたかった。

最後に、本書を読んでくださった皆様に感謝を申し上げます。もし、この物語の中にほんの少しでも「忘れ去られた誰かの声」を感じ取ることができたなら、それほど嬉しいことはありません。

――伊田裕美の次なる事件に、ご期待ください。

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