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幽霊探偵 東京がミイラ死体であふれる 水蛇

 伊田裕美のような女性がいてくれればいいなと思いながら書いています。

 本書を手に取っていただき、ありがとうございます。  この物語『幽霊探偵・伊田裕美 東京がミイラ死体であふれる 水蛇』は、怪奇とミステリーが交錯する作品です。  幽霊探偵・伊田裕美が挑むのは、東京の街に突如として現れた謎のミイラ化事件。その背後には、人知を超えた恐怖が潜んでいます。

 古びたアパートの地下から掘り出された封印の壺。それが解かれたとき、街はじわじわと異形の存在に蝕まれていきました。

 果たして、人の手で封印された存在を再び封じることはできるのか?  そして、幽霊探偵・伊田裕美が下す決断とは――。

 あなたがこの物語の中に足を踏み入れた瞬間から、得体の知れない何かがあなたを見つめているかもしれません。

 伊田裕美:幽霊探偵、旅行ルポライター、ショートカットの黒髪を持ち、知的な印象を与える黒のスーツに身を包んでいた。端正な顔立ちと鋭い眼差しが特徴で、どこか探偵のような雰囲気を漂わせていた。

 伝兵衛:旅行雑誌編集長

 村田蔵六:陰陽師で寺の住職、幽霊探偵の相談相手

 尾崎勝彦:貧乏芸人


第1章:封印の解放

 尾崎勝彦は、都内の古びたアパートに住んでいた。六畳一間、風呂なし、台所は共用という典型的な貧乏芸人の部屋だった。電気コードは剥き出し、壁紙は剥がれ、畳は長年の使用でところどころ擦り切れている。埃っぽい部屋には古びた座布団と小さなちゃぶ台があるだけで、まともな家具はなかった。

 今日もまた、借金取りが訪れていた。

「おい、いるのは分かってんだぞ!」

 尾崎は畳をめくり、その下の掘った穴に身を潜めていた。逃げ道を作るため、少しずつ掘り進めた穴だったが、まだ完全には外へ抜ける道ができていなかった。それでも、こうして身を隠すには十分だった。

「さっさと出てこい!」

 外の怒声を聞きながら、尾崎は震えていた。家賃も払えず、借金も返せず、逃げることしかできない日々。彼はふと、さらに穴を掘り進めることを思いついた。

「……もう少し掘れば、外に出られるかもしれない……」

 尾崎は小さなスコップを手に、穴を深く掘り進めた。手が土にまみれ、汗がじっとりと滲む。どれほど掘っただろうか。突然、彼の指先が固いものに触れた。

「なんだ……石か?」

 手探りで掘り進めると、それは何かの壺だった。思ったより大きく、表面には奇妙な模様が彫られていた。

「壺……? まさか、小判でも入ってるんじゃねえか?」

 尾崎の心臓が高鳴った。ひょっとすると、これで借金を返せるかもしれない。期待に胸を膨らませながら、彼はそっと壺の蓋を開けた。

 途端に、冷たい空気が流れ出し、尾崎の背筋がぞくりとした。壺の中から、何かが動き出した。

「……!」

 細長い影がするするっと這い出てくる。最初は何が出てきたのか分からなかったが、やがてそれが一匹の蛇であることに気づいた。

「うわっ!」

 驚いて後ずさる尾崎。しかし、その蛇は普通でなかった。透明に近く、光を反射してわずかにきらめいている。身体は淡い青みを帯び、水のようで流動的に揺らいで見えた。

「……なんだこれ……」

 蛇は静かに、だが確実に尾崎の目の前を通り過ぎ、穴から這い出ていった。尾崎はその様子を呆然と見つめるしかなかった。

 そして、次の瞬間。

「お、おい……?」

 外から、借金取りの怯えた声が聞こえた。

「ぎゃあああああっ!」

 尾崎は思わず穴の中から外を覗いた。

 そこには、取り立て屋が立っていた。だが、異変が起きていた。彼の身体がみるみる干からびていく。皮膚はしわだらけになり、目が落ち窪んでいく。

「な、なんだ……これ……」

 取り立て屋は最後の息を絞り出すように呻き、その場に崩れ落ちた。完全に干からび、ただの抜け殻のようになった身体。

 尾崎の背筋に、冷たい汗が流れた。

 透明な蛇は、ゆっくりとその体から抜け出し、再び尾崎の方へ向かってきた。

「ま、まさか……お前が……?」

 尾崎は穴の奥へと後ずさる。

 だが、透明な蛇は静かに彼を見つめるだけだった。


第2章:東京に広がる恐怖

 その日を境に、街では奇怪な事件が相次いだ。水分が抜けたミイラのような遺体が発見されるようになったのだ。

 最初は偶然かと思われた。だが、発見された遺体はいずれも全身が干からび、まるで水分をすべて吸い取られたかのような異様な状態だった。通行人、商店の店主、夜の街を歩くサラリーマン――どこで誰が襲われてもおかしくない状況だった。

 夜の路地裏で、水蛇が音もなく這い、獲物を見つける。

 「うわっ……! なんだ、蛇か?」

 酔っぱらいの男が気づいたときには遅かった。蛇はするりと彼の足元に絡みつき、たちまち身体を這い上がっていった。

 「やめ……うぐっ!」

 次の瞬間、男の身体が痙攣し、全身がみるみる干からびていく。彼の皮膚はしわだらけになり、目が落ち窪み、悲鳴を上げる暇もなく地面に崩れ落ちた。

 別の夜、住宅街の暗がりで。

 「……ただの風か?」

 帰宅途中のサラリーマンが背筋を寒くして足を止めた。が、その時、足元からするりと忍び寄る何かがあった。

 「うっ……!」

 彼の喉が鳴る。身体の中の水分が抜けていく感覚――そして、数秒後にはただのミイラと化していた。

 幽霊探偵・伊田裕美は、この異常な事件に興味を持った。

 彼女は旅行ルポライターとして全国を巡る仕事をしているが、実際のところ、霊的な事件を追うことのほうが多い。

 「おい、伊田! 取材の準備はどうなってんだ!」

 編集長の伝兵衛が、いつものようにガミガミと怒鳴る。

 「わかってますよ、ちゃんと準備してますって」

 「本当か? どうせまた変な事件に首突っ込んでるんじゃないのか!」

 裕美は苦笑いを浮かべながら、資料をめくる。確かに、彼女の興味は完全に東京で起きている連続ミイラ事件に向いていた。

 「これは……ただの猟奇事件じゃない。何か、異常な力が働いている」

 彼女の直感が告げていた。

 一方、尾崎勝彦は、自分の行動を悔やんでいた。

 「あれを……出してしまったのは俺だ……」

 彼の目の前で取り立て屋が干からびて死んだあの日から、尾崎は震えていた。水蛇が街を彷徨い、人々を次々と襲っている。

 だが、不思議なことに、水蛇は尾崎に危害を加えなかった。それどころか、彼のそばにいるときは穏やかに身体をくねらせるだけだった。

 まるで、恩を感じているかのように。

 「……外に出してくれたことを感謝している、ってことか?」

 尾崎は理解した。だが、それはつまり、自分が恐ろしい存在を解き放ってしまったということでもある。

 「俺は……どうすればいいんだ……?」

 その問いに答える者は、まだいなかった。


第3章:幽霊探偵・伊田裕美の推理

 夜の帳が下りる頃、伊田裕美は重い足取りで寺の門をくぐった。

 寺の奥から、低い読経の声が響いている。蝋燭の灯りがほのかに揺れ、線香の匂いが漂っていた。石畳を踏みしめながら本堂へ向かうと、そこには村田蔵六が静かに座っていた。

 蔵六は幽霊探偵である裕美の数少ない相談相手であり、陰陽師でありながら寺の住職をしている奇妙な存在だった。年齢不詳の風貌と鋭い眼光、そして何もかも見通しているような落ち着いた雰囲気を持つ。

 「裕美か……また厄介な話を抱えているのか?」

 彼女は肩をすくめながら本堂の奥へと歩み寄り、床に腰を下ろした。

 「東京で起きてる連続ミイラ事件、知ってます?」

 「うむ。水分をすべて失い、干からびた遺体が次々と見つかっている……異常な事態だな」

 裕美は懐から数枚の新聞記事を取り出し、蔵六の前に広げた。そこには連続ミイラ化事件の詳細が書かれていた。

 「警察は原因不明の急激な脱水症状ってことにしてるけど、あり得ないでしょう? 何かの呪いか、それとも異形の存在が関与してるか……」

 蔵六は記事を一瞥すると、静かに頷いた。

 「おそらく、何者かが人間の水分を奪っているのだろう。ただの妖怪ではない。これは、もっと根深いものかもしれんな」

 「根深いって?」

 「例えば……何かが封印から解き放たれたとか」

 裕美はその言葉に息をのんだ。封印――つまり、誰かが何かを解放してしまった可能性がある。

 「心当たりがあるのか?」

 「今のところは……でも、ちょっと気になる場所があるんです」

 彼女は手帳を開き、地図に印をつけた。

 「最初の被害者が出た場所、ここです」

 蔵六はその地点をじっと見つめた。

 「気をつけろよ、裕美。何かが蠢いている気配がする」

 ◆

 翌日、裕美は最初の被害者が見つかった場所へ向かった。

 そこは都心の片隅にある寂れたアパートの一室だった。すでに住人はおらず、今は薄暗い静寂が支配していた。

 裕美は慎重に周囲を見渡しながら、足を踏み入れた。

 床には古びた畳が敷かれ、ところどころが擦り切れている。部屋の隅には壊れかけたちゃぶ台と、色あせた座布団。生活感があった痕跡はあるものの、どこか異様な空気が漂っていた。

 「……何かいる」

 直感的にそう思った。

 そのとき、奥の暗がりで小さな気配が動いた。

 「誰?」

 彼女が声をかけると、怯えたように影が縮こまった。やがて、一人の男が畳の下から這い出してきた。

 「……俺は何もしてねえ……」

 男の顔は青白く、やつれていた。無精ひげが伸び、服は薄汚れている。裕美は慎重に距離を取りながら、男を観察した。

 「名前は?」

 「……尾崎……尾崎勝彦」

 「ここに住んでたの?」

 尾崎はうなずいた。

 「でも、もう誰もいねぇ……俺以外、みんな死んだ……」

 裕美は眉をひそめた。

 「何があったのか、話してもらえる?」

 尾崎はしばらく黙っていたが、やがてポツポツと語り始めた。

 「俺は……ただ、逃げたかっただけなんだ。借金取りが毎日のように来て……逃げ場を作ろうと思って、床下に穴を掘った」

 「穴を?」

 「そうしたら……掘り進めるうちに、変な壺を見つけたんだ」

 尾崎の手が震えた。

 「壺の中には……蛇がいた。透明に近い、変な蛇だった……」

 裕美はその言葉を聞いて、心の中で何かが弾けるような感覚を覚えた。

 「その蛇が……?」

 「そうだ。取り立て屋を……あいつは……あいつは、俺の目の前で……干からびて死んだ……!」

 尾崎の声が震えた。

 「それから、蛇は街へ出ていった。そいつがやってる……全部、あの蛇が……!」

 裕美は静かに頷いた。

 「つまり、あんたが封印を解いちまったわけね」

 尾崎は何も言えなかった。

 裕美は彼を見つめながら、ゆっくりと言った。

 「……これは、私が引き受ける」

 幽霊探偵と尾崎の出会いが、ここに刻まれた。


第4章:封印と終焉

 翌日、東京にしては珍しく大雪が降った。

 白銀の世界に包まれた街は、しんと静まり返っていた。普段は騒がしい都会の喧騒も、厚く積もる雪がすべての音を吸い取ってしまったかのようだった。

 幽霊探偵・伊田裕美は、尾崎勝彦を連れて湯川寺とうせんじへ向かった。村田蔵六が住職を務めるこの寺は、古くから霊的な封印を行う場所として知られている。

 境内に足を踏み入れると、雪の冷たさがじわじわと足元から忍び寄り、空気の冷え込みが一層強く感じられた。境内の木々は雪の重みでしなり、風が吹くたびに枝から細かい粉雪が舞い落ちる。

 「本当に……水蛇をどうにかできるのか?」

 尾崎は裕美の背中を見つめながら、不安げに問いかけた。雪に沈み込む足音だけが、二人の間の沈黙を埋めていた。

 「やるしかないのよ、あんたが封印を解いちゃったんだから」

 裕美は振り返ることもせず、冷たく言い放った。

 本堂の扉を開けると、奥から静かな読経の声が聞こえてきた。蔵六が薄暗い灯りのもと、壺を抱えて座っていた。

 「準備はできている。だが、方法はお前次第だ」

 彼は重々しく告げた。

 裕美はゆっくりと頷くと、外へと戻り、尾崎の前に立った。

 次の瞬間、彼女は突然、尾崎の首を両手で締め上げた。

 「ぐっ……な、何を……!?」

 尾崎は目を見開き、必死にもがいた。しかし、裕美の手は微動だにしない。彼女の目は研ぎ澄まされた刃のように鋭く、冷徹な光を宿していた。

 「……来たわね」

 その瞬間、冷たい空気がさらに冷え込むような感覚が広がった。

 尾崎の口元から、するすると何かが這い出てくる。

 透明な蛇だった。

 宙に浮かぶその生き物は、まるで水そのもののように揺らぎながら、冷たい光を放っていた。光が反射するたびに、蛇の輪郭は不確かに変化し、完全に実体があるのかどうかさえ分からないほどだった。

 裕美は尾崎の首から手を離し、雪の上に静かに膝をついた。そして、そのまま首まで雪に埋もれた。

 

 冷気が彼女の体を包み込み、肌を刺すような感覚が全身に広がる。だが、それこそが彼女の狙いだった。

 水蛇の動きが、徐々に鈍くなっていく。

 雪の冷たさに耐えきれず、力を奪われていくのが明らかだった。

 「……これで、終わりじゃない」

 裕美の声は震えながらも、強い意志を持って響いた。

 水蛇は弱っていくが、それでも完全に消えるわけではない。むしろ、最後の抵抗を見せるかのように、ゆっくりと再び動き始めた。

 「仕上げが必要ね……!」

 裕美は雪から這い出ると、湯殿へと向かった。

 裕美は震える身体を支えながら、湯殿へ向かった。

 湯殿の扉を閉めると、湿気を含んだ温かな空気が冷え切った肌を優しく包み込んだ。先ほどまでの雪の冷たさが嘘のように、湯気がふわりと漂い、肌を撫でるたびに心まで解きほぐされるようだった。

 ゆっくりと衣を脱ぎ捨てると、湯気が白い肌を覆い、滴る雫が彼女の肩や背中を滑り落ちる。冷え切った四肢にじんわりと温もりが染み込み、指先から爪先へと熱が広がっていく。

 蔵六と尾崎は、思わず目を逸らした。しかし、視線は無意識のうちに裕美の滑らかな肌へと戻ってしまう。ほのかな湯気が光をまとい、彼女の輪郭を幻想的に映し出していた。

 静かに湯船へと足を踏み入れる。温かい湯がわずかに波打ち、彼女の足元からゆっくりと絡みつくように広がっていく。くるぶし、膝、そして太ももを湯が包み込むたびに、裕美は小さく息を漏らした。

 腰まで湯に浸かると、首筋から背中へと伝う湯の感触が心地よく、思わず目を閉じる。身体が芯から解けていくような心地よさに浸りながら、彼女は静かに息を整えた。

 しかし、その安堵の瞬間、彼女の体内で異変が起こる。

 全身を湯に沈め、熱がじわじわと体内を巡るにつれ、奥底で眠っていた水蛇が激しく蠢き始めた。

 「……もう逃がさない」

 裕美がゆっくりと口を開く。

 その瞬間、熱に耐えきれず、水蛇が彼女の喉奥から這い出た。湯気の中に浮かび上がりながら、まるで焼けるように身を捩り、透明だった身体が薄く青みを帯び始める。

 「今だ!」

 蔵六が素早く壺を差し出した。

 水蛇はもがきながらも、熱の影響で動きが鈍り、そのまま壺の中へと吸い込まれた。

 壺の中では最後の抵抗のように激しく暴れたが、封印の力が瞬時に作用し、その動きは次第に収まっていった。

 尾崎は、震える声で言葉を探した。

 「え、えっと……その、もう……大丈夫なんですかね?」

 裕美は静かに立ち上がると、滴る湯を払いながら壺を見つめた。

 「封印は……これで完璧よ」

 水蛇との戦いは、こうして幕を閉じた。

 蔵六と尾崎は、再び息を呑みながら彼女の姿を目に焼き付けた。

 外では、静かに雪が止み始めていた。


第四章:エピローグ

 湯殿の扉が静かに開いた。蒸気がふわりと広がり、その中から裕美が姿を現した。

 「ふぅ……やっと温まったわ」

 彼女は湯上がりの頬をほのかに染めながら、手早く着物を整えた。濡れた髪を布で軽く拭き、いつもの落ち着いた表情を取り戻す。

 「さっきまであんなに冷たかったのに、今度は暑いくらいね」

 独り言のように呟きながら、裕美は足早に本堂へ向かった。

 湯川寺の本堂には、静寂が広がっていた。雪が降り積もる外の景色とは対照的に、寺の中はぬくもりに包まれている。

 「この壺は、湯川寺で預かることにしよう」

 村田蔵六がそう言いながら、封印された壺を手のひらで軽く叩いた。その音は鈍く、しかし確かに響いた。

 「ようやく終わったってわけか……」

 尾崎勝彦は、ほっとしたように息を吐いた。肩の力が抜け、膝に手をついて座り込む。

 「ふぅ、まったく……とんでもない目に遭ったわね」

 幽霊探偵・伊田裕美も、ようやく気が緩んだのか、くすりと笑いながら肩を回した。

 「しかし、よくやったな裕美。お前がいなければ、この水蛇はどうなっていたかわからん」

 蔵六はそう言って、微笑んだ。

 「そりゃどうも。でも、これ以上は勘弁してほしいわ。冷たい雪に埋もれるのも、お風呂で戦うのも、二度とゴメンよ」

 裕美は腕を組み、冗談めかしてため息をつく。

 「俺はもうちょっと楽な仕事がしたい……できれば、水蛇とか出てこない世界で……」

 尾崎がぼそりと呟くと、裕美と蔵六は顔を見合わせて笑った。

 「ま、そういうのはお前の運次第だな」

 蔵六が肩をすくめる。

 「いや、もう俺は静かに生きたいんで……できれば、そういうのからは距離を……」

 「……って言ってるそばから、また何か起こるんじゃない?」

 裕美がニヤリと笑い、尾崎は顔をしかめた。

 「やめてくださいよ……マジで……」

 三人の楽しげな会話が、静かな寺の中に心地よく響いた。

 外では、雪が止んだ空に、時折、冷たい風が吹き抜けていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 幽霊探偵・伊田裕美が活躍するこの物語は、ホラーとミステリーが交錯する世界を描きたくて生まれました。

 水蛇という異形の存在を軸に、「人が触れてはならないものに触れたとき、何が起こるのか?」というテーマを追求しました。

 また、登場人物たちの関係性も本作の大きな要素です。

 裕美は冷静沈着ながらも、どこか捉えどころのない幽霊探偵。  陰陽師の蔵六は、その道の専門家として彼女を支えつつも、一歩引いた立場を取っています。  そして、巻き込まれ型の貧乏芸人・尾崎は、本来ならば異世界の住人とは関わることのない、いわば読者の分身のような存在かもしれません。

 本作が少しでも読者の皆さまにとって楽しめるものになっていたら幸いです。

 幽霊探偵・伊田裕美の物語は、まだまだ続きます。

 それでは、また次の事件でお会いしましょう。

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