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幽霊探偵・伊田裕美 悪魔 クズヒル

十和田湖には多くの神秘的な伝説が残されている。静寂の湖に潜む不可解な現象、人々の間で囁かれる怪異の噂——。本作は、そのような不思議な舞台を背景に、旅行ルポライター・伊田裕美が巻き込まれた壮絶な戦いを描いた物語である。

裕美は取材のために訪れた青森で、謎の倦怠感に苦しむ人々と出会う。やがて、その元凶が封印を解かれた悪魔・クズヒルであることを知り、彼女は想像を絶する戦いに身を投じることとなる。

果たして、裕美は悪魔に打ち勝ち、町を救うことができるのか——。

【登場人物】

伊田裕美:幽霊探偵、旅行ルポライター

伝兵衛:旅行雑誌の編集長

村田蔵六:陰陽師で伊田裕美の相談相手


第一章:奇妙な現象

 深夜の街。雨上がりのアスファルトの蒸気が何やら心騒がしい。トーンダウンのビルの間にたたずむ店。門の奥の中にあるのは、ただ一匹の火龍。

 「どうも誰も働く気がなくなったらしいな。」

 ウィスキーを手に追風コートをばさっとひるがえたまま、秋光を見下ろす女性。彼女の名前は伊田裕美。広い世界を旅して記事を書く、ついでに地元の奇妙現象も記す、私立の“幻妖探偵”である。

 「今回のはさすがに妙だわ。人のやる気を食い荒らす悪魔…ってところかしら」

 街中は、夜中なのに明かりがある。しかし、そこに人の活気はなかった。大道も歩道も店も、しんとしている。「もういいか」とまるで聞こえてきそうな雰囲気。

 いつも話す電話台の向こうに座るのは伝兵衛。旅行雑誌の編集長で、裕美の提供する記事を一手に扱っている。

 「こんなの今まで見たことねぇよ。人が人らしくなくなってくような感じだ」

 伊田は一本のコンパクトミラーを取り出して手に当てた。脱力感は流行り症。ただの神経疲労か、それとも他に理由があるのか。次の行く先は、守山神社だ。


第二章:十和田湖の怪奇

 旅行ルポライターの伊田裕美は、青森県の神秘的な湖、十和田湖へ取材のために訪れていた。しかし、ここに来て以来、彼女の心は重く、筆がまったく進まない。美しい湖畔の風景や地元の名物料理を楽しみながらも、どうにも仕事に集中できず、ただ温泉に浸かる日々を過ごしていた。

 「何かが私のやる気を奪っている……」

 そんな中、スマホが震えた。画面には編集長の伝兵衛からのメッセージが表示される。

 「裕美、何をやっているんだ。早く原稿をよこせ」

 ため息をつきながら返信する。

 「それが、何も書けないんですよ……」

 裕美は自分でも驚くほどの倦怠感に包まれていた。この地に来るまでは意欲に満ちていたのに、まるで何かに引き込まれるかのように、活力が奪われているようだった。やる気のなさが蔓延し、取材どころではない日々が続いていた。

倦怠感が広がった理由

 この奇妙な倦怠感は、裕美だけでなく、町全体にも広がっていた。観光客の減少、地元住民の活気の低下、商店街の閑散とした雰囲気――まるで町全体が重い霧に包まれたようだった。

 人々の間では、「何かの呪いではないか」と囁かれ始めていた。


第三章:漁師がすくい上げた地蔵

 この異変が広がる少し前、湖でしじみ漁をしていた一人の漁師が、不思議な石像を引き上げた。その地蔵のような石を見た漁師は、特に気にも留めず、陸地へと放り投げた。

 しかし、それはただの地蔵ではなかった。

 封印されていたのは、悪魔 "クズヒル"――。

 悪魔クズヒルは、まるでフランシスコ・ザビエルのような風貌をしており、マントを羽織り、180センチほどの長身だった。その目は暗く光り、どこか冷たい知性を感じさせる。しかし、その唇に浮かぶ微笑みは不気味なものだった。

 「封印が解かれてしまった……」

誰も知らぬ間に、静かに、しかし確実に、この町を覆う異変の元凶が目覚めたのだった。


第四章:悪魔クズヒル

 1980年代に日本へとやってきた悪魔クズヒルは、各地で暴れ回った。しかし、霊験あらたかな行者によって封印され、石の中に閉じ込められた。

 時が流れ、封印から解き放たれたクズヒルは、かつて自らを封じた行者を探し出し、復讐を遂げようとした。しかし、行者はすでにこの世を去っていた。

 クズヒルは魔力を駆使し、行者の存在を探る儀式を行った。目を閉じ、両手を広げると、暗闇の中に映像が浮かび上がる。そこには、老いた行者が寺の一室で静かに息を引き取る様子が映し出されていた。

「……愚か者め、私の怒りを知ることなく消えたか」

 クズヒルの目が怒りに燃え上がる。その瞬間、周囲の空気が重くなり、邪悪な波動が青森の大地に広がった。怒りと悲しみに震えたクズヒルは、その憎悪を周囲に向けた。そして、その影響は青森だけにとどまらず、岩手、秋田へと広がっていった。人々の間に漂う倦怠感は日に日に増し、東北一帯に暗雲が立ち込めた。クズヒルの真の目的は何なのか? そして、裕美はこの謎を解き明かし、原稿を書き上げることができるのか?


第五章:裕美の回復

 裕美の倦怠感は日に日に悪化していた。彼女の顔色は青白く、目の下には深い隈ができていた。まるで何かに憑かれているようだった。

「このままでは危ない……」

 そう判断したのは、東京からやってきた陰陽師、村田蔵六だった。彼は青森で広がる異変を知り、  裕美を案じて駆けつけたのだった。

 夜、神社の本殿に裕美を連れ込むと、村田は清めの塩を振り、しじみの入ったお椀を差し出した。

 「これを食べなさい。青森のしじみは、魂を浄化する力を持つ。」

 裕美は半信半疑ながらも、温かいしじみ汁を口にした。すると、不思議なことに、体の重さが次第に軽くなり、視界が明るくなっていくのを感じた。まるで体の奥に染み込んでいた邪気が洗い流されるかのようだった。

 裕美は深く息を吐き、穏やかな表情を浮かべた。

「……体が軽い。何だったのかしら、あの倦怠感は……」

村田は深く息を吐き、額の汗を拭った。裕美の顔には、久しぶりに安堵の表情が浮かんでいた。


第六章:クズヒル対村田蔵六

 蔵六は、青森の人々を救うためにしじみ漁を行っていた。しかし、彼は心の中で一つの問題を抱えていた。

「青森県人全員にしじみを食べさせるのは容易ではない……」

湖畔でしじみをすくい上げる蔵六の姿を遠くから見つめる影があった。クズヒルだ。彼は、蔵六の姿がかつて自分を封じた行者に似ていることに気づき、次第に彼を付け狙うようになった。

 蔵六は一人だった。

 突如、クズヒルの魔力が発動し、大地が激しく震えた。そして、蔵六の足元の地面が裂け、彼の体はその裂け目へと引きずり込まれていった。

 「ぐっ……!」

 地面の裂け目から、蔵六の苦悶の叫びが響く。彼の体は次第に闇に飲まれ、姿が見えなくなった。

その叫びを聞いて駆けつけたのは裕美だった。しかし、目の前に広がるのは、すでに閉じかけた地面と、クズヒルの邪悪な笑みだった。

 「村田さん!」

裕美は地面を掘り返そうとするが、クズヒルの魔力によって封じ込められており、素手ではどうすることもできなかった。

第七章:伊田裕美対悪魔クズヒル

 クズヒルは空に両手をかざし、稲妻を呼び寄せた。激しい閃光とともに雷が炸裂し、大地を焼き焦がす。裕美は必死に身をかわし、炎の中を駆け抜けた。

 「逃げるだけでは勝てない……」

 裕美の瞳が決意に燃えた。次の瞬間、彼女は恐れを振り払い、クズヒルに向かって全力で突進した。

 「正気を失ったのか?」

 クズヒルは嘲笑しながら、次の一撃を放とうとした。しかし、裕美はクズヒルの目の前1メートルで鋭く跳び上がった。その瞬間、クズヒルが放った稲妻が跳ね返り、彼自身の体を直撃した。

 「ぐああああっ!」

 灼熱の雷がクズヒルの体を包み込み、炎が燃え立った。クズヒルは悲鳴を上げながら、そのまま灰となって消え去った。


【エピローグ】

 戦いが終わり、町には静けさが戻った。裕美は町の人々の手を借りて、地中に埋もれた村田蔵六を掘り出した。

 「もう少しで、死ぬところだった……」

 蔵六は疲れた顔で笑いながら、青森の冷たい空気を深く吸い込んだ。

 裕美は十和田湖温泉でくつろいでいた。戦いの疲れを癒し、心も体も温まっていくのを感じる。戦いの疲れを癒やしながら、湯の温かさに身を委ねる。ふと見上げると、夜空には満天の星が輝いていた。

 「こんなに綺麗な空、久しぶりに見た気がする……」

 温泉の湯気がふんわりと立ち上り、どこかで笑い声が聞こえる。町の人々も少しずつ日常を取り戻しつつあった。裕美は深く息を吸い込み、穏やかな微笑みを浮かべた。黒い雲は去り、太陽の光が町を優しく照らしていた。すべてが元に戻ったのだ。

本作をお読みいただき、ありがとうございました。

十和田湖の伝説をもとにしたフィクションではありますが、実際にこの地には多くの神秘的な話が伝わっています。自然の美しさと、そこに潜む未知の存在——そんな要素を融合させた本作が、読者の皆様に少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

裕美の冒険はこれで終わりましたが、彼女の旅はまだ続くかもしれません。再び新たな謎に挑む日が来ることを願いつつ、ここで筆を置きます。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

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