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幽霊探偵・伊田裕美 〜死を呼ぶ人形〜

私は、人形収集が趣味です。特に日本人形と魔女人形が好きで、日々その美しさに魅了されています。魔女人形は魔除けの力を持つとされており、私にとっては単なるコレクションではなく、特別な存在です。

時折、人形たちが互いに会話しているように感じることがあります。また、日本人形の夢を何度か見たことがあり、それが現実と交差するような不思議な感覚に陥ることもあります。しかし、ご安心ください——私は無事です。

登場人物

伊田裕美:旅行ルポライター、幽霊探偵

伝兵衛:旅行雑誌編集局長

人見圭一:大学生


【縁日の雰囲気】


夜の闇に色とりどりの提灯が浮かび、風に揺れる。縁日には熱気がこもり、炭火の香ばしい匂いが漂う。たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、ベビーカステラ……どの屋台も、じゅうじゅうと油の弾ける音を響かせながら客を呼び込んでいた。


子供たちが金魚すくいに夢中になり、輪投げの台の前では小さな手が景品を狙っている。射的の銃を握る少年の目は真剣そのものだ。しかし、昔ながらの遊戯の屋台は減り、食べ物の屋台ばかりが目につく。


そんな中、圭一の目に留まったのは、赤と白の幕が揺れる屋台だった。そこに飾られているのは、精巧に作られた日本人形。漆黒の髪は艶やかに揺れ、白い肌は蝋細工のように滑らかだ。深紅の着物は静かに光を吸い込み、どこか憂いを帯びた瞳がこちらを見つめている。だが、その中に妙な違和感があった。他の人形とは異なり、まるで生きているかのような気配を放っているものが、ひとつだけひっそりと置かれていた。

小さな日本人形だった。


「千円」


なぜこんなところに人形があるのか、誰が売っているのか。考えるよりも先に、圭一の心は決まっていた。


「千円なら、いいか」


彼は財布を取り出し、店の主らしき男に声をかけた。


「これ、ください」


男は何も言わず、無言で人形を差し出した。その無機質な動きが、妙に気にかかったが、圭一は気にせず人形を抱えた。小さな、しかし妙に重みのある人形を。


それが、すべての始まりだった。


【可愛い少女登場】


その日、圭一は奇妙な夢を見た。


ふわりとしたワンピースを着た可愛らしい少女が現れ、彼の袖を引っ張った。大きな瞳を輝かせながら、無邪気に言う。

「ねえ、抱っこして!」


圭一は少し戸惑いながらも、その小さな身体を優しく抱き上げた。少女はくすぐったそうに笑い、次はおんぶをせがんだ。

「ねえねえ、おんぶも!」


言われるがままに遊んでいるうちに、夢の世界はいつの間にかぼやけ、意識が現実へと引き戻された。


目を覚ました圭一は、しばらくの間、夢の余韻に浸っていた。奇妙ではあったが、決して悪い夢ではなかった。



大学へ向かう途中、道端で立ち止まる一人の外国人女性に出会った。やや焦った様子で、英語で何かを尋ねようとしている。


「Excuse me, could you tell me the way to ○○ Hospital?」


圭一は一瞬考えた。どこの国の人かは分からないが、イスラム教徒のような装いをしている。インドネシア人か、それとも最近増えているクルド人だろうか?


英語で細かく説明するのは少々面倒だった。そこで彼は自然と口にした。

「Shall I take you there?」


彼は道を聞かれることが多い。だから今回も特に気にすることなく、その女性と並んで歩き始めた。



病院が見えてきたころ、彼女は微笑みながら言った。

「It's over there. Thank you.」


突如、車のエンジンが唸るような音が響いた。その直前、タクシーのフロントガラスに、不気味な影が映る。


それは、圭一の部屋にあった人形とそっくりな姿をした異形の霊だった。青白い顔に大きく裂けた口、虚ろな目がじっと運転手を見つめている。


「お……おい……誰だ!?」


タクシー運転手の表情が恐怖に歪んだ。突然、彼の体がびくりと震え、目が虚ろになったかと思うと、次の瞬間、アクセルを思い切り踏み込んでしまった。


突進する車。


視界の端で、病院の前を歩いていた彼女がはね飛ばされる瞬間を目撃した。


圭一の心臓が跳ね上がる。急いでスマホを取り出し、震える手で救急車と警察に通報した。


暴走した車の運転手は、まだ運転席に座ったまま動かない。彼の目はぼんやりと宙を見つめていたが、次の瞬間、圭一は、何かが彼の体からスッと抜けていくのを感じた。


それは、人形の霊だった。満足そうに笑みを浮かべると、霧のように消えていった。


混乱と恐怖が入り混じる中、すぐ近くの病院から医療スタッフが駆けつけ、負傷した女性を運び込んだ。


幸いにも、彼女は一命を取り留めた。しかし、その騒ぎのせいで、圭一が大学の授業に出席することは叶わなかった。


【二番目の事故は死】


牛丼屋に向かう途中、圭一はコンビニでアルバイトをしている松原めぐみ(まつばら めぐみ)に出会った。松原とは、コンビニの客と店員という関係で、深い付き合いはなかった。


彼女はカジュアルな私服を身にまとい、自転車に颯爽と乗っていた。明るい茶色の髪が風になびき、元気な笑顔を見せる。


「お客さん、外食ですか?」

「うん。松原さんはアルバイト終わりですか?」

「ええ、あたしね、二日ほど休みます。アニメのイベントに行ってきます」

「そう、じゃあ、気をつけてね」


軽いやり取りを交わし、圭一は牛丼屋へ向かった。



牛丼屋に入ると、濃厚な出汁の香りが鼻をくすぐった。店内は静かで、テレビから流れるニュースがぼんやりと耳に入る。カウンター席に座り、注文した牛丼を待つ間、圭一は先ほどの松原との会話を思い出した。


「アニメのイベントか……楽しそうだな」


やがて運ばれてきた牛丼を一気に頬張った。濃いタレが染み込んだ牛肉と白米の組み合わせは、至福の味だった。


そのとき、突如として外から大きな衝撃音が響いた。


「ドンッ!」


驚いた客たちは一斉に店の外へ飛び出した。圭一も食べかけの牛丼を急いでかき込み、表へ出た。


外は騒然としていた。野次馬が集まり、ざわざわとした空気が広がる。道路には鮮血が広がり、その中心には、一人の女性が倒れていた。


「……嘘だろ?」


圭一は目を見開き、言葉を失った。


「松原めぐみだ!」


彼女はぐったりとしたまま動かない。救急車とパトカーのサイレンが遠くから近づいてくる。どうやら引き逃げ事故のようだった。



しかし、圭一は目の端で異様な光景を目撃した。


事故を起こした車の運転席には、呆然とした表情の運転手がいた。しかし、その様子はどこか異様だった。まるで何かに操られているかのように、彼の手はハンドルを握りしめ、目は焦点を失っていた。


「……あれは……!」


運転手の目が虚ろになり、ハンドルを強く握りしめた。その瞬間、車は再びエンジンを噴かし、急発進した。


「まさか!」


圭一が叫ぶ間もなく、車はタイヤをきしませながら走り去った。まるで意志を持っているかのように蛇行しながら、猛スピードで街の闇に消えていった。


圭一は冷たい汗を拭いながら、その場に立ち尽くした。


「数日の間に、二件も交通事故に遭遇するなんて……こんなことがあるのか?」


そして、圭一の脳裏には、一つの疑念が浮かんでいた。


——なぜ、運転手はあんなふうになってしまったのか?圭一には理解できなかった。



部屋に戻った圭一は、机の上に置いてある人形を見つめた。どこか不気味で、しかし、どこか惹かれるものがある。


「なあ……俺、何かおかしくなってるのか?」


ふと、錯覚かもしれないが、人形が微笑んだように見えた。


瞬きをすると、元の無表情な人形に戻っていた。


【三番目の惨劇】


翌日、圭一は大学へ向かった。掲示板を何気なく眺めたが、自分に関係のありそうな情報は見当たらなかった。休講の知らせもない。


「これから経済学概論か……これはつまらない授業なんだよな。」


圭一は退屈そうに椅子に座り、教授の話を聞き流していた。黒板に書かれる文字をぼんやりと眺め、ただ時間が過ぎるのを待っていた。



授業が終わり、帰り際に同級生の宮内多夢奈みやうち たむなが声をかけてきた。


多夢奈は長い黒髪を後ろでまとめ、知的な雰囲気を漂わせていた。シンプルながら品のある服装が、落ち着いた印象を与えていた。


「来週の金曜日の18:00から飲み会をやるんですが、参加しますか?」


圭一は迷わず「行くよ」と返事をし、そのまま帰宅した。



翌日、大学に行くと、キャンパス内には異様な空気が漂っていた。ざわめきが広がり、学生たちは不安げな表情を浮かべている。


「何があったんだ?」


圭一は近くの学生に尋ねた。


「昨日、あんなに元気だった宮内多夢奈が……自殺したらしい。」


「……え?」


信じられなかった。


「それも、首吊り自殺だったそうだ。」


圭一の頭の中に、昨日の会話が蘇る。


「来週の金曜日の18:00から飲み会をやるんですが、参加しますか?」


「自殺する人間が、飲み会の話をするか……?」


圭一は言葉を失った。


【幽霊探偵・伊田裕美登場】


旅行ルポライターの伊田裕美は、オフィスの窓際に座り、のんびりとコーヒーをすする。彼女の黒髪はショートカットで、鋭い眼差しが印象的だった。スラリとした体型に、シンプルなシャツとジャケットをまとい、知的で落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


そこへ圭一がやってきた。彼は椅子に腰掛けると、今までに起こった出来事を淡々と語り始めた。


「最近、何か身の回りで変わったことはありませんか?例えば旅行に行ったとか、何か購入したとか」


「特にないですね。あっ!ありました。縁日で人形を買いました」


「縁日は次いつありますか?」


「明日です。行ってみましょう」


すると、近くで聞いていた伝兵衛が口を挟んだ。


「余計なことをするなよ。仕事だけしてくれよ」



翌日の晩——。


裕美と圭一は縁日へと足を運んだ。しかし、目当てのりんご飴屋はどこにも見当たらなかった。


「おかしいな……昨日はここにあったはずなのに」


縁日を一回りしてみたが、それらしい屋台は見つからなかった。



圭一の家に向かい、人形を見せてもらった。


「これがその人形か……?」


裕美は静かに手を伸ばし、じっくりと観察する。柔らかな布地に包まれ、穏やかな顔をした人形だった。しかし、次の瞬間——裕美の目には、人形がじっとこちらを見つめるように見えた。


「……っ!」


目の錯覚だろうか?だが、確かにその目は、意志を持ったかのようにこちらを向いていた。



裕美が帰路についた頃、静かな夜道を歩いていると、背後から不穏な気配を感じた。


ふと振り返ると、一台の配送業者の車が後ろからゆっくりと近づいてくる。しかし、妙に不安定な動きをしている。


「……何だ?」


運転席を見ると、運転手の顔が青ざめ、虚ろな目をしていた。そして、その肩越しに——人形の霊が浮かび上がっていた。


「やっぱり……!」


次の瞬間、車が急加速し、まっすぐ裕美に向かって突進してきた!


——ガッ!!


間一髪、裕美は反射的に飛びのき、車を避けることができた。


彼女の手には、鈴、数珠、ローマ教皇ホノリウス三世のペンダント——除霊グッズがしっかりと握られていた。


「……ふぅ……助かった……」


霊はその場にとどまることなく、車とともに姿を消した。


裕美は静かにペンダントを握りしめ、深いため息をついた。「これは……ただの偶然とは思えないわね……」


【人形の正体】


その日、圭一は夢を見た。


あの少女が出てきて、圭一におんぶを迫る。


「お兄ちゃんのまわりの蛆、蚊、蝿は全て取り除くね。お兄ちゃんはあたしだけのもの」


圭一は朝起きると寝汗でぐっしょりだった。


気になり、裕美に電話をかけ、彼女の無事を確認するとひとまず安心した。



一方、裕美は図書館にいた。


彼女は古びた資料をめくるうちに、ある一つの記述を見つけた。それは、圭一が持っている人形と酷似したものについて書かれていた。


この人形は江戸時代から伝わる『禍払い人形』とされていた。しかし、その実態は決して守護の存在ではなく、持ち主に執着し、異常なまでの愛着を示すものだった。


記録によると、この人形を持った者に接触した女性には災難が降りかかり、持ち主自身も次第に周囲の人間から孤立し、最終的には不幸な死を遂げるという。


「……まさか……」


裕美の背筋に冷たいものが走った。


さらに、人形の災いを避ける方法を調べた。


【幽霊探偵と呪人形との対決】


圭一には気が合う女性がいた。その名は「斉藤由貴さいとう ゆき」。


由貴は知的な雰囲気を持つ女性で、黒髪のロングヘアを綺麗にまとめ、和服が似合いそうな端正な顔立ちをしていた。落ち着いた雰囲気と、どこか古風な言葉遣いが印象的だった。


圭一は学食で由貴に会った。

由貴は落語研究会に所属する才色兼備の女性だった。

由貴と落語の話で盛り上がった圭一は、浅草の「田村寄席」に一緒に行くことになった。



「田村寄席」に行く日——。


朝、圭一のアパートに裕美がやってきた。


人形を退治すべくやってきたのだった。


「圭一くん、全ての元凶はその人形よ!あなたは呪われているの!このままでは、あなたは殺されるわよ!」


圭一が混乱する中、どうして彼の家を知ったのか、斉藤由貴が現れた。しかし、いつもの彼女とは様子が違った。


目は吊り上がり、口は裂け、蛇のように舌を出している。そして、その手にはナイフが握られていた。


「やっぱり……!」


由貴は異様な呻き声を上げながら、裕美に襲いかかった。


裕美は素早く身をかわして、鞄から鏡を取り出すと、人形に向けて呪文を唱え始めた。



「光照万霊……悪しき魂よ、鏡に封じられよ!タムナラ!」


すると、人形と由貴が苦しみ始めた。


由貴の体が痙攣し、手からナイフが落ちる。人形も激しく揺れ、まるで何かがもがいているようだった。


次の瞬間——霊は消えた。


そこには怯える圭一と、気を失った由貴が倒れていた。


「もう大丈夫よ。これは多無平城たむならの鏡といって、人形の霊を封じ込めることができるの。急いで、人形寺で借りてきたのよ。」



【エピローグ】


人形はお寺に預けることにした。


事件が終わり、裕美は久々にのんびりとした時間を過ごしていた。


オフィスの窓から外を眺め、コーヒーを飲みながら、穏やかな風を感じる。


「やれやれ……次はもう少し平和な事件を願いたいわね。」


そう呟く裕美の表情には、どこか満足げな余韻が漂っていた。


しかし、窓の外にはまた新たな影が……

私は、日々の生活の中で人形たちと共に過ごしながら、時折彼らが持つ不思議な力に思いを馳せています。この物語を書きながら、改めて人形が持つ魅力と、そこに宿るかもしれない何かを感じました。

読んでくださった皆様が、この世界を楽しんでいただけたなら幸いです。そして、今後もさまざまな物語を紡いでいきたいと思います。

——ありがとうございました!

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