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僕らの青はめんどくさい  作者: たくあん
不思議少女とオオカミくん
4/6

3.世界は今日も私を知らずに

タイトルは好きな曲の歌詞を引用しているので特に深い意味は無いです

「オオカミさん……?」


 誰かのつぶやきで停止しかけた思考が復旧する。今目の前で言った“オオカミさん”というセリフには大いに聞き覚えがあった。

 こいつは()()()()()()()()()()()()()()


「オ、オオカミさん? 何か勘違いしてないかな?」

「いえいえ! まさか、命の恩人を間違えるはずがございません」


 彼女の純粋で子供のような視線とは別にクラスメイトの視線が突き刺さるのを肌で感じる。なんで転校してきたのに既に知り合いなの? だとか、オオカミさん? だとかそんな疑問が実態化した無自覚に冷たい周囲の視線。冷や汗が止まらない。


「ほら、あの時の――」


「あーっ! あの時のね!」


 どうしようもない状況に陥る前に強引に手を打たせてもらうことにした。


「この前の、ね! 道に迷ってた時に会った! ね?」


「え? まぁ、迷っていたと言えば迷っていたというか」


 あの時の状況の中で1部分だけを切り取って大袈裟に取り上げた。まぁ、裏道で出会ったし向こうも路頭に迷うギリギリだったしである意味間違ってない。彼女も別に正解でも間違いでもない返答に困惑気味に言葉に迷っていた。

 『迷った』のワードを少し大袈裟に言ったことで周りも、なーんだ、と各々の中で勝手に自己解決したように頷いていたりと良い反応である。今までの努力のおかげで突破口が開かれる。チャンス、ここで畳み掛けるしかない。


「いやー奇遇だね。また会えて嬉しいよ。ほら、席ここでしょ。お隣さんだね、よろしく!」


 有無を言わせる前にまくし立てるように席に座るよう促す。彼女は一瞬何かを言いたげに口を開いたがすぐに閉じて大人しく座った。九死に一生ってやつを身をもって体験した。

 ちらっと見れば、裕樹と目が合う。そして、手を横にしてヤレヤレとため息を見せられる。どうやらいつも通りの僕の行動、あるあるのハプニングだと勘違いしてくれたようだ。その向こうでは雛菜がとんでもなく目をキラキラさせてこちらを見ていた。どういう感情? まぁ、いつも通りか。

「知り合いがいたみたいですね。良かった良かった。それでは、今日の流れについてお話しましょうか」

 そう言って先生が各生徒が担当すべき委員会の種類を黒板に描き並べていく。


「どうやら訳ありみたいですね。オオカミさん」


 僕にしか聞こえない小さな声で囁いてきた彼女の言葉にゾワッと背筋に寒気が走る。壇上の上で挨拶していた時には見せなかった小悪魔のような笑顔。


「な、なんの事?」


 なんとか笑顔を崩さないように冷静を保ちながら返事をする、がそれすらも見透かすように彼女はただにっこりとこちらを見ているだけだった。

 笑顔にヒビが入った気がする。慌てて口元を覆った。


「そう邪険にされてしまうと悲しいです。私、ここには引っ越してきたばかりでまさに右も左も分からない状況でしたので、またオオカミさんに会えたことを大変嬉しく思っています。本当ですよ?」


 よよよ、と泣き真似のように目元を手で拭う仕草に頬がピクピクと動いてしまう。こいつ、やっぱりおちょくってるな。


「……あはは、僕もまさかここに会えたことにびっくりしたよ」


「ええ、まさに運命というものですね。まるで母との再会を果たした子ヤギたちの童話のようです」


 こいつ……。


「……言い忘れてたけど僕の名前は高瀬一颯。オオカミさんはアレだし、名前で呼んでもらえると助かるよ」


「これは失礼しました。よろしくお願いしますね。一颯さん。私の事は琴音とお呼びください」


「うん。よろしくね。琴音ちゃん」


 観念するように彼女の名前を呼ぶ。もう仕方がない。見られてしまったのはもう取り消せないし、この学校に在籍することが確定した時点でもう逃げることも出来ないのだ。

 だったら、あの日のことに関しては知らん顔をしてやり過ごすしかない。変に真実を無理やり隠すような強引な行動では噂を呼び、それに背びれ尾びれが着くなんて状況になる可能性だってあるのだ。だから、『あー、あの時は大変だったね。それじゃ!』と入学式で初めて話した人だけどひと月も経てばお互い別のグループで話さなくなるアレを再現するしかない。距離感を名前で呼び合う程度に置いといて、あとはだんだん離れていく、それで行こう。なんか彼女、関わったらヤバそうだし。

 いつも通り。これはいつも通りのちょっとしたハプニングだ。

 言い聞かせるように心の中で反芻して心を落ち着かせていく。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「それでは、あと15分ほどで始業式の時間になりますので一旦休憩の時間を挟みましょうか」


 僕がこれからの方針を固めている間にいつの間にか今学期初のホームルームは終了を迎えていた。内容は全くと言っていいほど聞いていなかったが、まぁいいか。

 まだクラス委員長も決まっていないので先生の号令で一区切り付き、クラスは朝来た時の同じくらいの騒がしさを取り戻す。

 よし、とりあえず琴音はこれからクラスメイトからの質問攻め似合うだろうからその間に僕はみんなの元に言ってそれとなく情報操作を――。


「――か……」


 か? 唐突に隣から漏れた破裂音に思考が止まる。顔がそちらを向き切る前に今日一番の金色の風が吹く。



「か、かわいぃぃぃぃぃ!!!!」



 今日の一番の風は琴音の手を覆い、ブンブンと上下に振った。風の正体はまさかの江後雛菜。急な距離の縮め方に引き気味の琴音さん。


「すごーい。お人形さんみたい! 本当に二年生? 随分前に撮影で一緒になった小学生の娘とおんなじくらいかわいいよー! 達川琴音ちゃんね? ん~と、ことちゃん! ことちゃんでいい? あ、私の名前は秀菜ね。」


 雛菜が今にも抱きつかんと言わんばかりの勢いで琴音に自己紹介をしていた。

 …………ん?


「は、はい。秀菜さんですね。あ、呼び方はお好きなもので大丈夫ですよ」

「わたしもひいなでだいじょうぶですっ!」


「は、はい」


 そんな琴音すらも置いてきぼりにしながら秀菜は彼女との距離をパワープレイで深めていく。

 ま~た秀菜のかわいいもの好きが暴走しているよ。

 ……いやいや! そうでは無い。不味い、いつもの雛菜のトンチキ行動が始まってしまった。何とかしてこの2人を引き剥がして別のクラスメイトとのグループに所属させなければ――。























「それでは! ことちゃんの歓迎会とついでに新クラスもよろしくパーティーということで! かんばぁーい」


「「「「カンパーイ」」」」


「か、乾杯」


 カランとグラスがぶつかり中のジュースが溢れんばかりに揺れる。総勢6人の色とりどりのジュースと適当に選ばれたポテトなどのおつまみで彩られたテーブルはまさにこれからパーティーが行われる景色。


「どしたの一颯。なんかテンション低くない?」


 放課後に仲間たちとすることといえば? の正解に近いこの状況だと言うのに僕があまり気分が乗れていないことを太陽に指摘される。


「そう? 気のせいじゃない?」


 すかさず笑顔で返事をする。

 あれよあれよと時は進み、全ての作戦がことごとく失敗しとうとういつものメンバーで行う予定だった放課後の新クラスおめでとうパーティーに琴音が参加するという状況にまで来てしまった。このままでは、雛菜の推しとして琴音がイツメン入りするという考えうる限り最悪の展開まで秒読みである。本当にまずい。こうなったら、あの夜のことだけでも何とか口止めできるように動かなければ。

 男女にそれぞれ分かられていてこっちが窓側から裕樹、太陽そして僕。反対側にいる女子は窓から桜兎、琴音最後に雛菜という去年から考えれば1人増えて少し目新しいパーティーとなっている。


「琴音ちゃんってそういえば引っ越す前はどこにいたの?」


「長崎県の山の中ですね」


「長崎!? 九州じゃん! めっちゃ遠くない?」


「ふふふ、そうですね。初めて飛行機に乗りました」


ここに来るまででお互いに自己紹介をおえている太陽と琴音が向かい合って会話をしている。その横ではこの前のバレーボールの大会についての話に花を咲かせている裕樹と桜兎、その反対ではまるで骨を前にした大型犬のようにまん丸とした目でことねを雛菜が見続けている。

 少し琴音も引いてるからやめさせるべきか迷う。


「じゃあこっちに親の転勤とかできたの?」


「いや、こちらでは今はひとり暮らしですね」


「え? ほんと?」


 琴音の予期しない一言に思わず声を漏らしてしまう。まだ高校2年生という未成年で、しかも女の子一人で暮らしているというのはなかなかに珍しい。


「ね。よく許してくれたね」


 同意するように太陽も頷く。


「あぁ、失礼しました。簡潔に言いすぎましたね。本当は今住んでいる家は成人している姉の家で今姉が入院中なのです。だから、今は一人暮らしという言い方をしました」


「ふーん、なるほどね」


 どうやら少し複雑な状況のようで太陽が「それは、大変だね」と気遣うように言葉を選ぶと「気にしないでください」と返される。その表情は不気味にも楽しそうでこれ以上踏み込むべきではないと心の奥の方で警告がなったので触れないでおく。


「あ! じゃあ今日は私の家に来ない?」


「え? あはは……、気持ちはとても嬉しいんですけどまだ家の荷物が片付いてないもので」


 少しでも迷ったふうな仕草を見せたのが琴音の優しさだろう。雛菜の提案に遠慮する琴音は少し戸惑った表情で正直見ていて楽しい。


「じゃあ私がことちゃん家に――」


「まぁまぁ、雛菜。今日あったばっかだし。お泊まりの約束はもう少し時間が経ってからじゃない?」


「……ぶー。はーい」


 僕の言葉を素直に聞き入れて、いや、ただ琴音に嫌われることを避けるように引き下がるブー垂れている雛菜。どうも出会った当初からいつにも増して積極的な距離の詰め方を見せている雛菜は可愛もの好きで、琴音の容姿と仕草が刺さったようでその関係は正しくアイドルと厄介なオタク。結局あの後も雛菜が琴音を独占してほとんど他のクラスメイトと琴音は話せていなくて、僕の計画も完璧に滞っている。雛菜の天真爛漫でワガママな行動はいつも通りではあるが今回は本当に厄介に機能している。

 しょうがない。仕掛けるか。


「そういえば琴音ちゃんは部活動とか考えてないの?」


 題して、熱中することに集中させて別のグループに所属させる作戦。僕たちは太陽と桜兎以外部活に入ってないし、これでもし所属するのであればそれだけで僕たちと接する機会は減って他の人といる時間が増えてくれるはず。つまり、僕らのグループからいなくなってくれる可能性がそれだけで増えるということ。


「うーん。今のところは考えていませんね。前の学校でも何も所属していませんでしたし」


「何か気になってるなーもない感じ?」


「そうですね。特には……。そういえば皆さんは?」


「太陽がバスケ部で、桜兎がバレー部。あとは、私も一颯も裕樹もなんもやってないよ」


 僕の代わりに雛菜が答えてくれる。


「まぁ、うちは結構ゆるい部活多いしとりあえず入るとかいいんじゃない?」


「えー、それ一颯が言う?」


 琴音に誘導するように言葉を選んで太陽にツッコまれる。確かに、無所属が「とりあえず部活入れば?」なんて言うのはおかしい。……むずかしいな。


「あはは、確かに。でもほら、琴音ちゃん茶道部とか似合いそうじゃない?」


「え! ことちゃんの振袖めっちゃみたい! ……ん? うち茶道部とかあったっけ?」


「あー、そういえばなかったね。茶道部」


「もー、何言ってんの? 一颯」


 どう話を動かしても上手くいかない会話に涙目になりそうになる。とうとう雛菜にすら心配されてしまう始末だ。


「部活なんて特にやりたいこともなければ入る方がデメリットだろ」


 そこで話に加わってきたのは大会の話を終えた裕樹だった。面倒くさがりな裕樹らしいものぐさな意見だ。あ、目の前の部活ガチ勢の桜兎に蹴られた。


「うーん。先程も言いました通り、部活動は所属はしないと思いますね」


 作戦の失敗にため息が漏れそうになるのを必死に抑える。


「それでも、クラスの人たちとは仲良くしていきたいと思います。それもみなさんみたいに全員とおしゃべりできるほどには」


 お?


「買い被りすぎだろ。誰彼構わず喋れる異常なのはそこの雛菜と一颯くらいだろ」


「確かに。相手がどんな人であれ変わらずに接せれるのは2人くらいだよね」


「……実際に2人は頼られることも多いしね」


「え、急になになに? みんな」


 急に褒められて雛菜と共に気まずく視線を迷わせてると琴音が意を決したように口を開いた。


「でしたら……、尚更おふたりを見習って私も頑張りたいです」


 それは、仲間内での語らいにしては随分と覚悟が詰まった物言いでとても口先だけに聞こえなかった。今まで見せてこなかった新しい表情。なんだか……苦しそうで。


「だったら任せてよことちゃん! 私がことちゃんの友達作り精一杯手伝わせてもらいます!」


 琴音の手を取り堂々と雛菜そう宣言した。

 あ、待って。良くない流れだ。非常にまずい。


「確かに琴音ちゃんは引っ越してきたばかりだから色々と不安だろうしね! 俺も手伝うよ」


 それに感化されて太陽が胸を叩く。

 それを見ている裕樹と桜兎は否定をしないでただ見守っている。つまり、2人からすればそれは肯定を意味している。その時点でもう詰んでいることが確定する。

 上久佐琴音は今年から僕らのグループの1人。それが決定した瞬間だった。


「も、もちろん。僕も手伝わせてもらうね。琴音ちゃん」


 言ってて泣きそうになる、がもう遅い。

 目が合った彼女はそれはそれは嬉しそうに、僕を見て笑った。その笑顔はまるで僕を嘲笑うかのようだったのは気のせいだと思いまたい。


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