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ダイエットの嘘と方便 問題の顧客

 世良が到着した時、本社のMTGルームには既に打ち合わせ予定の4名がいた。

 高田常務、トレナーの青田と所沢。お客様窓口の汐野だ。

 青田と所沢はデスクに向かって、何かを書いている。高田常務は暇そうに携帯をいじっていた。


「すみません。15時ですよね?!」

 現在、14:44。世良は自分が時間を間違えのか、一瞬不安になった。

「いや、先にやってたんだ。大丈夫。じゃあ、始めるか。だいたい出来た?」

 高田常務は、青田と所沢に対して声をかけた。


「はい」

「だいたいですけど・・・」

「OK。じゃあ今、出来ている所まででいいからくれ」

 そう言うと、高田は二人から紙を受け取り、部屋の隅の複合機で、人数分コピーを取った。


 コピーを取りながら、高田は世良に説明をする。

「昨日、電話で話した通りなんだけどな。ダイエット指導で二人連続NGになったんだ。別にコイツらが、間違ったことしたとも思ってないんだけど、まぁ、なんか要因がなきゃNGにはならんわけで、今日やりたいのはその要因分析だ」

 高田は紙を参加者に配ると、席に着いた。


「じゃあ、始めます。よろしくお願いします」

「お願いします」

 高田の号令の下、全員が一礼する。

「お前ら初対面?」

「はい」

 と世良。

「はい。だと思います」

 と青田。彼女は終始恐縮した様子で、表情も硬い。

「初対面ですが、存じ上げてます!よろしくお願いします!」

 と所沢。彼は逆に、もう少し恐縮した方がいいのでは?というぐらい元気だった。

 二人とも外見の印象では20代半ばぐらい。世良とは一回り近い年齢差があるだろう。

「汐野はみんな知ってるよな?」

「はい」

 と全員がそろって返事をする。お客様からのクレームは、現場で直接言われる場合と、本社に行く場合がある。

 本社に行った場合に、最初に対応するのが汐野だ。彼女は年齢こそ20代後半だが、現場スタッフからは頼られ、恐れられている。

 なにしろ、汐野からの電話があった場合は、何かしらのクレームを頂いたということになる。できれば、かかってきてほしくない電話の主だが、いったんクレームを頂いてしまったら、対応に関して一番頼りになる相談相手も彼女だった。


「じゃあ、今日の進め方なんだけど」

 高田が進行をする。

「普通にヒアリングしてもいいんだが、それは二人は散々聞かれてるし、報告書もあるので、それは報告書を見てくれ。もう見た?」

「はい。一通り目を通しました」

 世良が答える。

「じゃあ、そこの共有はざくっと端折るな。今配った資料は、どんな流れで接客したかを、思い出す限り書いてもらったんだ。一回、これを元にロールプレイするから、その上でディスカッションしよう」

「ロープレですか?!」

 青田と所沢が、一瞬で緊張した。


 ロールプレイとは、お客様役、トレーナー約に分かれて、実際の接客を演じること。

 ただでさえ人前でロールプレイをするのは緊張する。ましてやクレーム案件を、世良はともかく高田常務と、汐野の前でやるのは、若い二人には口から心臓が出る思いだろう。


「紙持って読めばいいよ。俺もここに書いてあることしか言わないから。ただ、口調とか、声質とか、身振りとか、間とかはできるだけ思い出しながらやってくれ」

「常務がお客様役やられるのでしょうか・・・?」

「ああ。嫌か?」

「そんなことないです。よろしくお願いします・・・」

「おう。世良はオレが47歳、男性、身長169、体重77kgだと思って見ていてくれ」

「わかりました」



 ケース1 青田の場合


「後藤さん、こんにちは。本日担当します、青田と申します。よろしくお願いします」

「お願いします」

「シートご記入ありがとうございます。これを元にお話し伺いたいんですが・・・一番痩せていた時と比較して現在、体重で20kgぐらい増えてしまったと」

「そうですね」

「それで目標が、夏まで、だいたい3か月である程度減らしたいと」

「そうです」

「具体的な数値目標ってありますか?体重何kg減らしたいとか、ウエスト何センチ細くしたいとか」

「んーーーーんと・・・10kgぐらい落としたいかな」

「かしこまりました。後藤さんは、今まで何かダイエットってされたことありますか?」

「はい」

「どういったダイエットをされてました?運動とか、食事制限とか」

「うーーーん、しょっちゅう太ったり痩せたりしているんで、色々やってますよ。走ったり、ジム行ったり、糖抜きしたり、ファスティング(断食)したり、一通りやったことあります」

「分かりました。それでは最初に計測からやりますね」


「よし、ここまででOK」

 高田が声をかけた。

「ありがとうございます」

 青田は多量の汗をかいていた。


「カウンセリングがこんな感じで、後は筋トレして有酸素で自転車やって、最後は食事指導で糖抜き提案って感じか」

「そうです」

「そんで、その日は普通に帰られて、汐野の所に電話が行ったと」

「はい。担当を変えてほしいとのことでした。怒っている様子ではないのですが『あの子新人ですよね?申し訳ないのですが、頼りないので料金に見合う指導が受けられると思えないです』とのことでした。口調は穏やかですが、言ってることは手厳しいですね」

「すみません」

 青田は、消えてしまいそうだった。

「いや、別に悪くないぞ。OK。次、所沢。こんな感じで最初のカウンセリングの所まででいいや」

「分かりました!」



 ケース2 所沢の場合


「後藤さん、こんにちは。本日担当します、所沢と申します。よろしくお願いします」

「お願いします」

「最初に申し訳ありません。前回、十分な対応が出来なかったと伺っております」

「いえ、彼女も、頑張ってくれてたのは、分かるんだけどね。ちょっと、お金取るレベルではなかったなぁと。我儘ですみませんね」

「とんでもないです。青田の行ったメニューの共有を受けておりますが、具体的に、ここが合わなかったというものは、ありますでしょうか?」

「全体的にふわっとしてたんでね。筋トレして、自転車こいで、最後に糖抜き指導されて。全部当たり前すぎて、これなら、わざわざパーソナルつけなくても、自分でジム通うのと一緒だなと」

「ごもっともです。申し訳ありません。。」

「とんでもない」

「今のお話もそうなんですが、お見受けしたところ、かなりしっかり筋肉もついているので、少し先日のメニューでは物足りないかもしれませんね。。。」

「そうですか?ありがとうございます」

「そこで、一つ、目標の確認なのですが、3か月でだいたい10kg減目標と」

「いや、聞かれたから答えただけなので、そこまで10kgにこだわりはないです」

「とすると、他に減量したい理由ってあります。何かスポーツのパフォーマンス向上とか、見た目が気になるとか、健康上の問題とか」

「お腹落としたくてね。。。走ると揺れるし、子供につつかれるし」

「なるほど。かしこまりました。そうしたら、後藤さんの場合は、まずしっかり筋肉をつける方がお勧めですね」

「筋トレですか」

「はい。胸と背中とお尻、腿の筋肉をしっかりつければ相対的にお腹は目立たなくなります。そうしつつ筋肉量を増やして基礎代謝を上げて減量していくというのが、後藤さんに合っていると思います。本日は、そのように進めたいと思いますが、いかがでしょう?」

「わかりました。お願いします」


「よし、ここまででOK」

 高田が声をかけた。

「ありがとうございます」

 所沢は、やり切ったような清々しい表情をしていた。ロールプレイ全般見ても、青田と比較すると自信にあふれていた。


「カウンセリングがこんな感じで、後は筋トレメインで、最後は食事指導で、やっぱり糖抜きか」

「はい。でも糖抜きとは言ってません。筋肉の為に、タンパク質をしっかり採りましょうという言い方をしました」

「なるほどな。で、やっぱり普通に帰られて、汐野の所に電話が行ったと」

「はい。やはり口調は怒ってはいないのですが、自分には合わないので、変えてくれとおっしゃられてました。合わない理由をお伺いすると、一方的すぎる、彼が筋トレが得意なのは分かるがダイエットで来ている。あの運動では痩せないし、結局糖抜きしろと言われただけ等、やはり手厳しいものでした」

「糖抜き、バレてるじゃん」

 と高田。

「すみません。。」

 と所沢。

「いや、別に間違ってないよ。これで成果出る人もいるだろう」

「ありがとうございます」


「こんな感じだ。世良」

「はい」

「ここまでで、一つ、お前の意見を聞きたいんだけど・・・」

 全員が世良に注目した。


「この方の職業なんだと思う?」

 高田が聞いたきたのは、ロールプレイの感想や指摘事項ではなかった。

「職業ですか・・・」

 会議資料として共有されている、カウンセリングシートの職業欄には『会社員』とだけ書いてあったので、それ以上を想像しろというのが、高田の求めている答えだろう。


「ぱっと思いついたのが、チェーン店のエリアマネージャーとかですかね。接客業の管理職なのかと思いました。ひょっとしたら同業かもしれません。同業といっても広く、スポーツ、健康、ダイエット関係業界って感じですが」


「だよな。オレもそう思った」

 高田が同意した。


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