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ダイエットの嘘と方便 プロローグ

 その日、世良は接客中に奥で電話が鳴ったのが聞こえた。

 スタッフの佐々木が電話を取り、すぐにメモを持って来たことで、だいたいの要件が分かった。


 高田常務よりTEL 折り返し連絡希望。


 佐々木のメモには、それだけが書かれていた。


「ありがとうございます!」


 世良は、顔が引きつらないように細心の注意を払いながら、笑顔で佐々木に答えた。

 そして、ジョギングシューズの履き比べをしている女性客の様子を、しばらく見てから声をかけた。

「いかがでしょう?」


「どっちも悪くないですね。。。でも。。。」


「良くもないという感じで」

 好みではないのは一目瞭然だった為、世良は、顧客が言いづらい否定的な意見をあえて引き出す。理屈をつけて営業することも出来なくはないが、直感で好みではないものを無理に勧めても、後々を考えるとwin-winにはならないからだ。

 すっぱり諦めてもらう後押しをするのも、シューズアドバイザーの役割である。


「いや、そういう分けではないんですけど・・・ピンと来ないというか」


「いや、分かりますよ。何か他のスポーツしてました?」


「はい。テニスを10年ぐらい」


「やっぱり。ランニングは初心者とのことなんですが、足はだいぶ出来ている印象なので。そうなると、初心者用の靴にこだわらない方が、いいかもしれません」


「そんなこと分かるんですか?」


「はい」

 世良は、回答が食い気味にならないよう、細心の注意を払った。


「ですが、そうなると、実際に走ったフォームを見て決めた方が、いいかもしれません」

「そんなことも、やっていただけるんですか?」

「はい。それなら、専門のスタッフを呼びますね。佐々木さーん!」

 近くに待機していた佐々木を呼んだ。


「フォームを見て再提案お願いします。ランニングは初心者だけど、テニス経験がかなりあるとのこと。私の見立てでは中級モデルで、ワイド幅の方が合うかもしれません。左右の動きを支える筋肉がしっかりしているので。詳細は、実際に履いて動かしていただいてください」

 矢継ぎ早に指示を出す。


「それでは、ここからは専門のスタッフに代わりますので、ごゆっくりどうぞ」

 世良は『専門の』という言葉を強調した。

 そして足早に見せないように注意しつつ、足早にバックヤードに入った。


 高田常務からの電話に対し、緊急度を聞くのはご法度だ。


「急ぎでもないものをオレが電話すると思うか?」

 と返される。


 要件を聞くのもご法度だ。


「直接電話で話す。そんなの伝言してるのは時間の無駄だ。早く伝えて、早く折り返させろ」

 とのこと。


 しかし、接客をおざなりにするのもご法度。


「接客が最優先だ。当たり前だろ」

 とおっしゃる。

 でもやっぱり、折り返しが遅れると、目に見えて機嫌が悪くなるので、額面通りには受け取れない。

 要はクリティを落とさず、スピードを上げて接客に区切りをつける必要があるのだ。

 その為には一人では当然無理なので、チームの連携力が問われることになる。実際、今回のような連携を世良たちは『高田シフト』と呼んでいた。


「あー悪りぃ悪りぃ。接客大丈夫か」

 幸い、折り返した時の高田常務の機嫌は悪くなかった。

 常務という役職に合わない口調だが、元々高田は現場上がりで世良とも年齢が近い。だから世良に対しては、こういう話し方をする。


「はい。佐々木に引き継いでもらいました」

「おー、あいつ使えるな」

「はい。おかげさまで、で、何でしょう?」

「あー、一つ、ダイエットのパーソナルトレーニングを、お願いしたいんだ。本店案件だから、本来お前に頼むことじゃないんだけど、他に適当なヤツがいないんだ。それまでの担当者が、二人連続でNGくらってんだよ」

「それは大変ですね。。。気難しい方なんですか?」

「そだな。その辺は早急に引き継ぎやりたいんだ。明日の15:00本社来れるか?」

「明日・・ですか・・・」

「何かあるか?」

「ええ。色々あるには、ありますが・・・」

「だよな。まぁ、どーーーーーーしても嫌!というなら別日で調整するけど、こっちもあんまり時間無いから、極力明日来てほしい」

「分かりました。調整します」

「ありがとう!頼むな」

 言質が取れ次第、高田は即、電話を切った。


(アンタにそんないい方されて断れるはずがないだろ・・・)


 世良は内心ため息をついた。


(というか、こっちが断るなんて1ミリも思ってないよな・・・)


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