偽りのフランス人
『どうだい?二度目の人生は』
俺の命の恩人…幽霊はにっと白い歯を見せて笑って見せた。…なんなんだ、こいつは。恩人に向かってなんだけど、すッごく変な幽霊。
「どうだい…って言われても…今さっき生き返っただけだし…」
『まぁね~。ははは』
ははは…ねぇ…。俺も良く分からずはははと笑ってみる。…すごく曖昧。ってか、なんなの、俺達。
『で。覚えてるよね?…契約の件は』
いきなりこのイケメンは厳しい目をして声を潜め言った。契約…ああ、なんかあったな…そんな話…。でも、俺は全部聞く前にこいつが生き返らせてくれたから、はっきり言って契約って言われてもピンと来ない。
「…全部聞いてない、うん。聞いてない」
『あ、そっか。君、その前に名前は?』
…こいつは人の話を全く受け付けないタイプのようだ。はぁ、と溜息をついて俺は言った。
「…槙隼吾」
『うん、知ってる』
なんじゃそりゃ。…こいつは思ったより曲者だ…。こんな短い会話でも疲労感が溜まりつつある。
「…はぁ…じゃあ、あんたは?」
『フランシス』
「嘘だッ!!!!」
『失礼な。これは俺の親がちゃんとつけてくれた名前だし』
「あんた何人だよ!?」
『フランス人』
…明らかに違う。だってフツーに日本語だし、目は黒いし、誰だって日本人だとしか思えないし。フランス人だって言う方がおかしい。…フランス人詐欺?
「じゃあ『こんにちは』は?」
『…は、ハロー?』
…バカか、こいつは。ハローは英語だよ。これくらい、今の日本じゃ幼稚園児でも知っている。
「嘘だな、フランス人って言うのは」
『…いやいや、マジでフランス人だって!OK?』
「…だからそれ英語」
『…お、俺ッ、ロシアに友達いたし?だからし、自然と英語が身についた…みたいな?』
声裏返ってますよ、おにーさんッ!ってかロシアの友達で英語が身につくって…。どんだけ万能なの?ロシアの友達。
「…もういい」
『お、折れたな。だから言ったろ?俺はフランス人だ』
…永遠に一人でやってろ、偽・フランス人。
『で?契約のことだったよ…って寝るな!隼吾!』
このフランス人会話で俺はいつもの5.1倍疲れた。俺は改めてベッドに横になり、フランシスに背を向けて、目を閉じた。後ろでギャーギャー騒いでる詐欺師はもうほっといて、寝よう。どうせ今日は何も出来ないし。そして意識がだんだん遠のいていき…。