イケメン幽霊おまけ憑き。
「脈も正常…。…こ、これは奇跡(呪い)…としか言い様がありませんね…」
「あははははは…」
引きつった笑いを見せながら、俺と医師は顔を見合わせた。まさか、この道30年を迎えたこの先生でも、俺みたいに生き返ったヤツは見たことも聞いたことも無いだろう。…俺も無い。
「ホントにご迷惑をおかけして済みませんでした…」
「いやいや、良かったですね…」
父ちゃんと母ちゃんが二人で医師と看護師に頭を下げる。明らかに引きつっている、笑顔。曖昧に笑うしか手段がないのだろう。…だって、一度死んだ人間が生き返るんだもんな、そりゃ複雑だよ。俺だって気味悪りーよ。…まあ、それが俺だけど。
「じゃあ、これで…」
「あ、はい、お大事に…」
そういって、俺達は部屋を出た。外には苦笑いをした兄、槙 遼悟と明らかに不機嫌な顔で窓の外を眺めている妹、槙 由宇が待っていた。
「…よ、良かったな…」
「…まぁ…」
兄貴が俺の肩をポン、と叩いて階段の方へ向かって歩いていく。後ろから見る兄貴の背中は、とてつもなく疲れているように見えた。…ごめん、兄貴。俺が死ななかったら…。
「…心配してホント、損した」
後ろから苛立った声が聞えて振り返ると、俺をギロッと睨み付けた由宇が立っていた。…ん?『心配した』…?…このツンデレ少女、生まれて初めて兄に心配してくれました…ッ!!!!これは人類の進化!?なんだか今日はおかしいぞ!?赤飯だ!赤飯もってこいッ!!!
「…あ、ありがとう、由」
「バカ兄貴」
ぬおおおおおおおお!!!!!!可愛い!可愛すぎるよ由宇チャンッ!!!!顔を真っ赤にして走っていく妹を見て、俺のアドレナリンはMAXで分泌されている。でも、お兄ちゃん、廊下を走ることはいくら由宇だって許さないからなッ!!
「隼吾、行くよ」
「お、おう」
「先生、ホントにありがとうございました」
「お気をつけて…あはははは…」
そういって、俺と父ちゃんと母ちゃんは曖昧に笑って医師達と別れた。
病院の玄関へと来ると、もう兄貴の運転する車が待っていた。
俺が助手席に乗り込み、兄貴と目を合わせようとすると、兄貴はその恐ろしく整った顔で曖昧に笑った。そして
「早く学校行かねーと講義間に合わねーよ」
と嫌味っぽくつぶやく。
「ごめん、俺が…」
というと、兄貴は昔よく見せた優しい笑顔で「もう俺を泣かせんじゃねーぞ」と言った。俺はこんな兄貴を持って幸せです!!!!!!こんな兄貴が大好きです!!!!!!こんな兄貴を大切にします!!!!!!
両親が乗り込むと、車はゆっくりと走り出す。
病院から家までは車で15分ほどかかる。その間、車内はものすごい空気になっていた。父ちゃんからの『ばっきゃろう!!』という視線。母ちゃんからの『親不孝者ッ!!』オーラ。兄貴からの『遅れた責任取れ』コール。由宇からの『死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね』気迫。一気に一人で受けるのはあまりにも辛いです。ううう…ごめん、皆ごめん!!!
「隼吾」
か細い母ちゃんの声。俺には『…ゅ…ご』位しか聞えなかった。でも、『振り返れ、俺!』という俺の第6感が働き、すぐ後ろの母ちゃんを見た。
「今日は、…学校休みなさい」
…意地でも行きたかったが、『これ以上困らせると…どうなるか分かってるね?』という家族からの重圧からか、「分かった」としか言えなかった。
ああ、終わった…小中高無欠席という記録…。
がちゃん
乱暴に部屋のドアを開けた。そして今まで着ていた血や泥で汚れたジャージを脱ぎ、Tシャツとジーパンに着替えてベッドに横たわり、ちら、と壁時計を見る。…7時56分。普通ならもう登校している時間だ。下からは慌てて食事の用意をする音、シャワーを浴びる音、水洗トイレを流す音など色んな音で溢れかえっている。兄貴は講義に間に合うだろうか。由宇は遅刻だろうか。父ちゃんは電車に間に合うのか。母ちゃんはパートへ行くのだろうか。そんなことを考えながら窓の外を見つめた。
青い空がどこまでも広がっていた。この空に、俺はバカみたいに飛び込んでいったのか。そう思うと本当に自分てなんだろうと思う。
『ホント、君って一体なんだろうね??』
いきなり顔を覗き込まれて俺はぎょっとした。…誰だ?誰なんだ?お前は一体なんなんだ!?俺は起き上がると、顔を覗き込んだ人物を見た。
栗色の髪。
兄貴に負けないくらい整った顔。
スラッとした長身。
そして、なぜか見えない…足。
…こいつには見覚えがあった。
「おまッ、あのときの…!?」
そう、あの時。俺が、一度死んだとき。
『君~。命の恩人に向かってお前は無いでしょうが』
俺と契約する代わりに生き返らせてくれたあの…幽霊がそこに立っていて、にししと笑っていた。