呪いの?復活!!!!
薄暗い室内に、重い空気がいっぱいに広がる。不安と、絶望と、奇跡を望む感情が入り混じり、なんともいえない緊迫して凍りついたこの部屋の空気を一気に吸い込み、そしてゆっくりと吐いた医師が重い口は開く。
「…残念ですが、息子さんは…もう、」
手遅れです。この病院一の腕を持つといわれる医師の言葉を聞き、父親は目を見開き、絶望した。
「……そんな、」
まさか息子が、なぜ息子が、こんな目に遭わなくてはいけないのか。ふつふつとそんな思いが浮き上がり、やがて胸の中を支配する。そして目からは次々に涙がこぼれる。まだ息子には未来がある。まだ息子には遣り残したことがたくさんこの世界に溢れている。まだ息子が見たことの無いものがある。まだ息子と共にやったことの無いことがある。まだ、息子には……。そう思うと、ますます自分が無力になってくる。握り拳をゆっくりと解き、冷たくなった息子の頬にそっと触れた。
「隼吾ッ…隼吾ッ…隼吾ッ…」
母親は、そんなことあるはず無いと思った。
息子のアルバイト先の新聞店から「今すぐ来て」と一言だけ言われ、一方的に切られた電話。自分の脳裏に浮かぶ不吉な事態をそんなことは無い、と打ち消しながら駆けつけると、現場に横たわっている変わり果てた息子の姿を見た。
もし、あの時、自分がもっと早く駆けつけていたら。もし、今日だけ息子がアルバイトを休んでいたら。もし、自分が仕事へと向かう息子を引き止めていたら。もし、息子が…死ななかったら。こんな最悪な日にはならなかっただろう。いつもの平凡で、何にも無い毎日だけど幸せな朝を迎えてただろう。…息子の存在を皮肉にも、失ってから気がついた。
息子の名前を泣きながら何度も、何度も繰り返し呼ぶ。でも、もうそんな声も、この思いも、愛しい息子にはもう届くことは無い。
「親父!お袋!」
「お兄ちゃんは!?」
勢い良く入ってきたこの兄弟は、この病院では最上階のここ、5階にあるこの部屋まで階段できたのだろう、息を切らして苦しそうに顔をしかめた。
そして、変わり果てた兄弟の近くで泣き崩れる両親の姿を見て、全てを悟った。
「…ちくしょ、」
短く吐き捨てた兄は壁に向かって、自らの拳を叩き付けると、壁に背中を預けてへなへなと座り込んだ。そして虚空を見つめ、静かに涙を流した。
「…嘘、よね…???」
妹は兄に駆け寄り、もう熱を持たない、冷たい肩をつかみ、必死に揺らす。
「…目ぇ開けなさいよ!!バカ兄貴!」
…誰もが、悪い夢を見ているのだと思った。
…これは、リアルすぎる、夢なんだ。
…本当に起きてはいないんだ。
誰もが、奇跡を願っていた。
しかし、…それはもう何も意味を持たないということを悟ってい
…恐ろしいことが起きた。
「……………………………………。」
むっくりと起きる、屍。
「…………………………。」
凍りつく一同。もう流していた涙は止まっていた。…奇跡、だと思っても思えない。
「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
「…………………………。」
父も、母も、兄も、妹も、そしてもちろん、医師も。
屍が、くる、と一同に顔を向けて、引きつった笑顔を見せて小さくつぶやいた。
「…たっ、ただい」
「「「「「の、呪いだあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」」
爽やかな朝から、一家(+1)の叫びがこの街に響いていた…。