21話「戻ってきた教官たち」
ワイバーボックスに乗って丸一日。休憩も挟みながら、ウエストエンドのダンジョンに帰ってきました。
冒険者たちが数人、中に入っていくのが見えたので、私たちも後から入っていきます。
序盤はゴブリンたち熟練者たちがきれいに負けて奥へと誘っていましたが、新人のウェアウルフやミノタウロスは、普通に冒険者を失神させています。
「それじゃあ、もう来ないじゃないですか? また来たいと思わせるようにしなくちゃいつまで経っても赤字のままです」
私たちの登場に、ミノタウロスたちが驚いていました。
「ようやく来たのか? いい加減、体力作りはうんざりだぜ」
「早く訓練をつけてくれ」
「あら? ようやくお帰りですか?」
最後の言葉はハルから出た言葉だ。ハルはすでに気絶した冒険者たちを触診。折れた骨を戻し、回復薬を塗っています。
「仕事ができるようになりましたね」
「ミキモトさんに鍛えられていますから。ほら、そっち持って、入口に捨てに行くよ」
ハルは新人たちに指示を出して、すっかりダンジョンでは中堅どころのようです。
「ゴブリンの方たちも、武器の整備をしておいてくださいよ。人間の骨は意外に脆いですから」
先輩たちにも声をかけています。
「その方は?」
「私はハーピーのモズクだよ。このダンジョンでは昔話の戦いを再現すると聞いて、2人に雇われたんだ」
「そうですか。お二人とも、旅の疲れはあると思いますが、マスダさんとアライさんが待っていますよ」
ハルはそう言って、気を失っている冒険者たちを運んでいきました。
「すっかり熟練だな」
「ええ。冒険者としてもランクが上がったそうですぜ」
「これ、土産だ。固い干し肉だが、炙れば美味い」
サキチがゴブリンたちにお土産を渡していました。共に、屋敷を補修している仲間なので、気心が知れているのでしょう。
「あれ? これは蛇肉かい?」
「ああ、疫竜の村まで行ってたんだ」
「そんな遠くまで? ご苦労さんだったな。旦那たち」
「そのお陰で、いろいろ町は取り込めた。明日から訓練始めるぞ。お前たちも気を引き締めて行け」
「「「了解」」」
ゴブリンたちと一緒に私たちも魔物の抜け道を通って、アライさんの工房へと向かいます。
「ようやく帰ってきたか。ずいぶん遅かったね。おや、そのハーピーは?」
「ただいま戻りました。彼女は美味しい麺料理を作る料理人でありながら、魔物の国の各地に眠っている民話の収集家で……」
「モズクと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしく。悪いね。おじさん2人に付き合わせちゃって。給料は出すから、しばらく面倒見てあげて」
「いえ、そんな。お世話になっているのはこちらの方です。一応、確認しておきたいんですけど、このお二人は本当に人間なんですか?」
モズクは未だに疑っていたらしいのです。
「人間だよ。化け物染みてはいるけどね」
アライさんはモズクにダンジョンの施設を案内してくれるようです。
「あ、ミキモトさん。ありがとうございます。ハルが随分、成長していました」
通りかかったミキモトさんにお礼を言うと、手を振って「全然」と謙遜していました。
「本人のエネルギーが有り余っていたから、方向をちょっと変えてあげただけよ。それだけで伸びるんだから、才能ね。そうだ。サキチさん、言っていた回復薬も調合したわ」
「ありがとう。助かるよ」
サキチがなにかを頼んでいたようです。
「ああ、効果の薄い回復薬を頼んでいたんだ。成長する痛みもちゃんと覚えないとな」
「教官らしいですね」
「マスダさんが部屋で首を長くして待っていますよ」
「「はいはい」」
私たちはモズクをアライさんに預け、ダンジョンマスターの部屋へと向かいました。
コンコン、ガチャ。
特に返事は聞かなくてもいいらしいです。
「ただいま戻りました」
「遅いよ!」
「でも、ちゃんと傭兵も地形も取ってきたぞ」
「それはいいが、時間がかかり過ぎだ。目玉の階層が営業できなくなっちゃうだろ」
マスダさんは手を揉みながら、やる気に満ち溢れています。
「目玉の階層を、もう作ったんですか?」
「ああ、もちろんだ。疫竜の村にする。リザードマンに扮した職員を、魔物の探索者たちが狩るんだ。先代の魔王の戦いを再現する」
「リザードマンは雇えなかったのか?」
サキチがズケズケと言いながら、勝手にお茶を淹れていました。
私も勝手に椅子に座っています。
「募集はかけているところだ」
「なんだ、じゃあ、ゆっくり帰ってきてもよかったじゃないですか」
「あのままミノタウロスたちを訓練しないと、ただの体力が有り余るバカにしか育たないぞ!」
「で、町のある階層は一つだけですか?」
「いや、40階層から45階層の6階層ある。疫竜の村に廃墟の塔が乱立する場所、それから大川、ウエストエンドの町、ミノウさんがいた頃のタロスのダンジョン町、インプのクリスタル工場だ。確認してみるか?」
「ええ。確認しますよ」
お茶を飲みながら、6つの階層を確認。「木材まで再現したから大変だった」とマスダさんは苦労を語っています。地形も家も再現してありますが、中までは無理だったようです。
街路樹と馬車の荷台は置かれていました。
「一応、水甕や壺くらいなら作れるんだけどな。寝床や調理場は再現していない。必要か?」
「いや、必要な時に揃えればいいと思います。屋敷の中に廃材はたくさんありますしね」
「あ、そうだな!」
「人間の冒険者は入れるんですか?」
「え? 考えてなかったな。冒険者と言ったって目的は宝じゃないのか?」
「訓練がしたいという冒険者もいるはずです」
「ハルは、うちの職員だから理解はできるんだが……」
「私たちも冒険者ですよ」
「お前たちは人間だとは思っていない」
「まぁ、体力次第だろ。付いてこられない奴は、魔物でも落とすしかなくなる」
教官であるサキチが、お茶をすすりながら言いました。
「もうスケジュールは考えてあるんですか?」
「ああ、三日演習、一日休みを10回繰り返す」
「それはまたハードですね」
「戦うにしろ、動くにしろ、体力は必要だ。はっきり言えば、疲れて骨で立てるようになってからが本番だ。技術はそのあと。今ある変な癖を直すところから始めよう」
翌朝、妙な集団がダンジョンの入り口に立っていました。
「なんか来たぞ」
マスダさんに言われて、表に出てみるとサキチの知り合いだったようです。
「教官。水臭いじゃないですか」
「いきなり、いなくなっちゃうなんて。こっちは商売あがったりですよ」
「何をやってるんだ。お前らは」
どうやら見た目から想像するに、コロシアムの剣闘士たちのようです。サキチを追ってきたのでしょう。
「悪いけど、お前たちにやる報酬はないぞ」
「わかっています。滞在費くらいは稼いできましたから」
「じゃあ、いい。今日から、ちょうど演習なんだ。みっちり基礎を鍛えてやる」
「また、稼げてしまうな」
剣闘士たちはどういう演習なのか理解しているのでしょうか。
剣闘士たちも含めて、ウェアウルフ、ミノタウロス、ゴブリン、オーク、ハルの大所帯で演習を始めることになりました。
「昨日の晩に飯を食べたなら、朝は食べない方がいいかもしれん」
「皆、『根性の腕輪』は付けましたね。気絶したら、ダンジョンの入り口から再開させます」
初めは大川のダンジョン町から始めました。
「大雨をお願いします」
天井に向けて言うと、一気に土砂降りが降ってきます。匂いまで再現されています。
環境としては最高ですね。
「じゃあ、俺たちに捕まらないように逃げ出せ。牢に入れて売られないようにな」
一斉に駆け出す、訓練生たちを見て、私もサキチも口角が上がっていました。訓練は、若い頃の自分たちを見ているようで、どうしても血が騒いでしまいます。




