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2話「就職活動はダンジョンで」


 駅馬車を乗り継ぎ、5日。

 ウエストエンドの町は、活気とは無縁で人よりもヤギの方が道では目につきます。

静かな町には教会があり、鐘の音だけが出迎えてくれました。


 宿を取り、荷物を置いて、伸びた髭を剃ります。白髪が混じり始めた髪を後ろになでつけ、杖を持ってダンジョンへと向かいます。武器と言えば、杖の先に付けた小さなハンマーくらいなもの。小型の魔物なら対処できるようにしています。

 

 町から北へ伸びる坂を上り、森の中を進みます。キノコ狩りに出かける町の人や、薬草の採取に向かうご婦人など、およそ冒険者が入る隙があるようには見えません。

 ただ、この先にはダンジョンがあります。初心者用のダンジョンと呼ばれていますが、西の辺境にあるため初心者が来ることは滅多にありません。もちろん、中堅や熟練の冒険者は、よほどのことがない限り用がないダンジョンです。


 誰もが知っているのに、誰も行かないダンジョン。

 幾何学模様が描かれた石柱が並び、苔が生えた石畳を抜けると、ダンジョンへと続く遺跡の穴が空いています。


 ダンジョンの中に入れば、空気の質が変わり、湿度が重くのしかかってくるような気になります。人の心を少し不安にさせるダンジョン特有の空気です。


 すえた汗とカビの臭いがする仄暗い通路を抜けると、緑が深い森の部屋に出ました。


「変わっていませんね」


 以前、来たことがあるのですが、この森の地面の草をはがすと能力やステータスを測る装置が埋められています。その数値を基に、ちょうど良い魔物を送り込んでくるわけですが、通常のダンジョンにはそんな装置はありません。

 

 装置自体が、このダンジョンが魔物の初心者用、または訓練用であることを示唆しています。

 私は毒を飲み込み、ステータスを下げ、森の中に入っていきました。


 すぐにポイズンファングという中級の狼が壁から出現しました。ダンジョンでは魔物だけが使える通路が数多く存在し、ダンジョンマスターの思うがまま冒険者は翻弄されるわけです。

つまりダンジョンとは本来、入った時点で相手の土俵の上で戦っているようなもの。たとえ、最下層にいるボスを倒したとしても、地形を弄られれば一生出られない罠となることもあるわけです。


 ガウッ!


 噛みついてくるポイズンファングの顎を杖の先についた小さなハンマーで振りぬくと、あっさり、毒の付いた牙が飛んでいきました。


「もう少し丈夫な牙に付け替えてもらってきてください」


 なおもひっかいて攻撃してこようとするポイズンファングを組み伏せて、メッセージ付きの首輪をつけて返してあげました。


 私が殺さないことを悟ったポイズンファングは怯えながらも、壁の中へと消えていきました。

 メッセージの内容はこうです。


『このダンジョンには優秀な付与術師が要るはずです。どうか雇っていただけませんか』


 一応、自分のプロフィールのような物と宿の名前も追記しましたが、果たしてどうなることやら。挨拶は済ませたので、これにて帰ろうと思ったら、帰り道を木剣と盾を持った小鬼ゴブリンが立ちふさがっていました。


 用は済んだと思っていたのですが、ダンジョンの運営側もまともなこちらの戦力を知りたかったようです。


 子どもの素振りのような木剣の攻撃に当たってあげるほど、性格はよくないので、杖の先で盾を執拗に殴ります。これでゴブリンの方も盾の使い方を学ぶことでしょう。

 ゴブリンは誰かに学んだことを忠実に再現し、盾から顔を出してこちらの様子を見てきました。

 さて、杖を持ち換えて、盾を割ってしまうとどうなるでしょう。


 ガンガンガン!


 小さなハンマーが木の盾に突き刺さり、木目に合わせて割れてしまいました。

 ゴブリンは目を見開いて驚いています。恐怖に慄いたような顔でこちらを見てきました。


「ギャアアア!」


 勇気を奮い立たせて雄叫びを上げ、襲い掛かってきます。


「これはいけませんね」


心理が手に取るようにわかります。動きもスキルもそれほど珍しいものを使ってくるわけでもありませんから、優しく手を掴んで地面に叩きつけました。

 

 後は、討伐部位の耳を切り落とすだけですが、もしかしたら相手は同僚になるかもしれないゴブリンです。蔦で縛ってから、ステータスを測る装置の上に転がしておきました。


「調査終了。お疲れさまでした」

 誰に言うわけでもなく自分に対して労いの言葉をかけます。一人ですと意外にこういうことが大事な気がします。


 ダンジョンを出て町に帰り道、キノコ狩りの中年女性とばったり会えました。


「どうだった? ダンジョン探索は」

 籠いっぱいにキノコが入った中年女性が聞いてきます。

「牙だけですかね」

 そう言って、ポイズンファングの牙を見せてあげました。危険なことまでして、牙だけしか持ち帰ってこなかった私を、中年女性は笑っています。

「怪我がなくて何よりだよ」

「その通りです。怪我がなければ何度でもチャレンジが出来ますからね」

 キノコをお裾分けしてもらい、宿への帰路につきました。




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