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初デート①

***



「凛くーん! こっちこっち!」



時計台の下でポニーテールをぴょんぴょん揺らした遥陽が、紺色の帽子を持って大きく手を振っていた。



約束の時間ギリギリだ……。



電車に乗るのも久しぶりだったため、真反対の出口に出てしまっていたのだ。



「ごめん遥陽……待ったよね」



「ううん、私も今来たところだから」



「あれ、同じ電車に乗ってた?」



「凛くんより一本早い電車だよ」



「じゃあわざわざズラさなくても、普通に一緒に来ればよかったじゃん」



「だってせっかくなんだから、こういう待ち合わせとかしてみたかったの」



――昨日、僕と遥陽は恋人同士になった。



あと数日で夏休みが終わってしまうという中、夏祭りや花火大会といったイベント事はもうすでに終了している。



遥陽も明日以降は部活で忙しくなるため、二人で出かけようという話になったんだけど、そこで僕たちは大変なことに気づいてしまった。



――夏休みの宿題がまだ終わっていないということに。



最初は遊園地か水族館か……どっちにしようと悩んでいたところを急遽予定変更。



僕たちの最寄り駅から五駅離れたところに、新しいカフェができたと、遥陽が以前部活の練習試合に行った時に見つけたらしい。



なので、そこの近くで待ち合わせすることになったのである。もちろんカバンの中はノート、プリント、筆記用具でいっぱいだ。



僕はてっきり一緒に向かうものだと思っていたのが、昨晩遥陽から【朝九時に現地の最寄り駅集合ね!】というメッセージを受け取ったときは、頭上にクエスチョンマークが浮かんだものである。



「……でもやっぱり、最初から一緒に来てもよかったかもね」



――うん? と僕が聞き返そうとしたときだった。僕に駆け寄ってきた遥陽に、ギュッと腕を掴まれる。



「だってその方が、凛くんといられる時間が長くなるし!」



「は、遥陽……こんな人のいるところで……」



手を繋いだり腕を組んで歩くカップルなんて、これまで数え切れないほど見てきたけど、まさかこんなにすれ違う人の目が気になるなんて……。



「むう、凛くんの恥ずかしがり屋さん。じゃあ離れるけどいい?」



えっ――。唇を尖らせながら僕を見上げる遥陽と目が合う。思わず視線を逸らしたくなるぐらい、僕はドキッとしてしまった。



どうしてこんなに可愛いのだろう。



それこそ、親の顔より見た遥陽。といっても過言ではないぐらい、僕と遥陽は毎日のように顔を合わせてきた。ただの幼なじみから彼女になっただけで、こんなにも変わるものなのか。



「……こ、このままでお願いします」



「仕方ないなあ! うちの彼氏は素直じゃないんだから!」



か、彼氏……。いやそうなんだけど、改めてそういう風に言われると、やっぱりまだこそばゆい感じがする。



僕はこんなにタジタジなのに、よく遥陽は恥ずかしからず――



と、僕の肩に顔を寄せる遥陽の耳は、先っぼまで真っ赤だった。



「遥陽、歩きにくくない?」



「大丈夫……このままがいい」



暑いからとかじゃなくて? あもりにも引っ付きすぎて表情までは確認できなかったけど、遥陽も遥陽で僕と同じような気持ちになっているのだろうか。



明るく、僕を引っ張って前を行く遥陽も素敵だけど、照れてちょっと甘えた声を発する遥陽も、とても愛おしいと感じてしまった。












***



はあ、幸せ……。



凛くんと腕を絡めながら歩く。少し前までは考えられなかったことだ。



本当にあの時勇気を出してよかった。自分でも引くぐらいの突拍子もない告白だったけど、まあ結果オーライってことで。



勝率はかなり低かったと思う。凛くんが私を選んでくれた理由を私は深くは聞かなかった。凛くんの中でどんな心境の変化があったのか。



それとも本当は最初から私のことが――ってそれはさすがに自意識過剰すぎか。でも大事なのは今なんだ。



今私は凛くんと付き合っている。凛くんの彼女で、凛くんは私の彼氏。もう過ぎたことを考える必要なんてない。



凛くんと集合した駅前の時計台から目当てのカフェまでは、歩いて五分もかからない。



最初の勢いでつい凛くんの腕に飛びついちゃったけど、いきなり頑張りすぎたかな……。



でも私からいかないと。奥手の凛くん相手にはこれぐらいがちょうどいいのだ。案の定凛くんはガチガチに緊張してるけど、それは私もだからね。



もう何年も――ずっと夢みてたシチュエーション。いざそれが現実ってなったら、もう頭の中がぐちゃぐちゃになっちゃう。



クラスや部活では大人ぶったりしてることが多いけど、大好きな彼氏と二人きりのときぐらいは別にべったりしてもいいよね。



「……ここかな。着いたよ遥陽」



えっ、もう着いたの? もっとくっついて歩きたかったのに……。こんなことなら、もっと遠いお店にしておくんだった。



今度は駅から徒歩三十分ぐらいのところを探しておこう。



「凛くんここ来たことあるの?」



「初めてだよ。昨日遥陽に名前だけ聞いてたから、ちょっと調べてたんだ」



そうだったんだね。こういうところだよ、凛くんの素敵なところは。凛くんからしたら何でもないことかもしれないけど、私のハートは無事に貫通した。



凛くんに射抜かれてドキッとしちゃうのは、もう何回目になるのかな。他の男子相手ならダイヤモンドのように硬くなるのに、凛くんだとゼリーのようにぷるんぷるんになっちゃう。



普段頼りなさそうに見える人が、いざという時に……なんてギャップに実は弱かったりするんだよね私……。



まあ、でもそれは漫画とかの中だけで、実際には凛くんだけにしかときめかないから。



「本当は私がしなくちゃいけないのに、エスコートありがとう凛くん。じゃ、入ろっか!」



オープンしたばっかりということもあって、外観はとても綺麗だった。ヨーロッパ風の、レンガ造りの建物の中に私たちは足を踏み入れた。



もちろん凛くんとは肌と肌が触れ合ったまま。



絶対に離さないからね!









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