9-3_俺たちの結婚披露宴
お陰様で年間ランキングで96位に入りました。
中々「年間」には入れないですよ(汗)
あなたのブクマと★★★★★評価のお陰です。
本当にありがとうございます。
3話連続の2話目です。
今回3話構成です
9-1_あれがない
9-2_天使が舞い降りた
9-3_俺たちの結婚披露宴←いまここ
つわりだろうが、なんだろうが、時間は止まらない。
結婚披露宴も待ってはくれないのだ。
ついにこの日はついに来た。
小路谷さんの両親は、少し早起きして佐賀県を式場の準備したバスでこちらに向かってくれている。
うちの両親は地元だから、すぐこれるので問題ない。
そして、俺達は……普通の休みの朝って感じで普通に起きた。
これから結婚披露宴をするという実感があまりなかった。
本当に静かな朝。
小路谷さんは食べられない分、少し痩せた……というか、やつれた感じはするけれど健康上は問題ない。
ただ、食べられないし、飲めない。
精神的なストレスは抱えているだろう。
披露宴では新婦にも食事は出されるのだけれど、ほとんど食べることができない物ばかりだ。
まあ、お色直しなんかで退室することもあるので、食べている時間がないと式場の人も言っていた。
俺が漠然と不安を感じているのは、今日のリハーサルなどはやっていないということ。
スケジュールは大まかなものを印刷してもらった。
小路谷さんが調子悪いからリハーサルをしなかったのではなく、元々こんな感じらしい。
人生の一大イベントという人もいる披露宴をリハーサルなしで臨んでいいものだろうか。
とりあえず、新郎新婦の後ろには黒子的な人(姿はスーツみたいな正装)がそれぞれついていて、立ち上がる場面では椅子を引いてくれるのでわかるし、次なにをするかこっそり教えてくれるようになっている。
『結婚披露宴』は『結婚式』と『披露宴』の2つを指す言葉だった。
考えてみれば、当たり前だけど、『結婚式』といいながら、イメージしているのは『披露宴』だったのだ。
結婚式は、よくテレビで見ているみたいに指輪の交換をして、誓いの言葉を言ってそんなやつ。
普通は、親戚くらいしか参加しないらしい。
テレビなんかのイメージでは、友人とかも参加してもらっていたのだけれど。
披露宴は、テレビなどで見る一般的な結婚式のイメージだろうか。
新郎新婦がひな壇に座っていて、ご飯食べてお酒を飲むやつ。
大まかなスケジュールは大体こんな感じ。
・新郎新婦入場:5分
・ウエルカムスピーチ→乾杯:5分
・ウエディングケーキ入刀:5分
・歓談と食事:40分
・お色直し:30分
・キャンドルサービス:40分
・余興:5分
・新郎・新婦の余興:5分
・両親への手紙・花束贈呈:10分
・謝辞:5分
・閉会の辞、新郎新婦退場:5分
・新郎新婦による見送り:10分
短くても2時間半はかかる。
俺達は、友達枠として、高校の時の同級生を中心に招待状を出した。
もちろん、村吉夫妻と仲原夫妻も招待した。
仕事枠は、猫ソフトの社長とその社員小池さん。
こじんまり開く予定が、親戚も合わせるとゲストは50人を超えていた。
そして披露宴が始まったのだが……まずね、暑い。
前方のひな壇でスポットライトが当てられている。
LEDが当てられる工場野菜をイメージしたのは俺だけだろうか。
俺は光合成ができないので、光はほどほどで十分です……
式が始まると、新郎新婦は立ったり、座ったりが意外に多い。
小路谷さんの体調が心配で、ちょくちょくアイコンタクトを送って、『調子どう?』、『まあまあ大丈夫』というのを何度かやっていると、司会のお姉さんから『新郎新婦は大変、仲睦まじく、度々視線を送り合っています』と揶揄われてしまった。
それを見た高校の時の同級生たちが笑っていた///
めちゃくちゃ恥ずかしくて、小路谷さんと二人しばらく下を向いてしまった。
特に、全ての事情を知っている村吉くんは、両目を掌で隠して笑いを堪えていたし、ハツネちゃんはハンカチで顔を隠して肩で笑っていた。
絶対あとでいじられるパターンだ。
ここで、早速『紹介』が始まった。
ちなみに、司会のお姉さんは声がいい。
『それでは、新郎、光将さんのご紹介です。光将さんと新婦、美穂さんとの出会いは高校でした。3年間同じクラスで、光将さんが美穂さんのことを一目で気に入ったけれど、高校時代は秘めた思いを募らせて過ごされたそうです。』
ひな壇で、俺の1メートルくらい横に座っている小路谷さんが『ん?高野倉くんの説明あった?』というリアクション。
『何にもなかったんだよ』と目で答える。
そう、ボッチで過ごした俺に高校時代のエピソードなんてなにもない。
司会の人、すまん。
なんとかしてくれてありがとう。
『…ご卒業後、光将さんがご友人を招いた交流会のときに、美穂さんが再会した光将さんの魅力に気づき、その後、お二人で愛を育んでいかれました』
小路谷さんが『ご友人を招いた交流会って合コンのこと?』と視線で聞いてきたので、『こういった場では言葉を両親に聞かせても恥ずかしくない言葉に変換するんだよ』と目で返した。
一度前を向いた小路谷さんだったけど、再びこっちを見て『愛を育んだってDVDを一緒に見たってこと?』と聞いてきたので『そうなるね』と返したが、合点はいってないようだった。
その点、同意だ。
『……胃袋をしっかりつかまれた光将さんが何度も美穂さんにプロポーズして、なんとか口説き落としたとのエピソードがございます』
小路谷さんが瞬きしてこっちを見ていることから、『合コンで見つけた男にモーションかけて、胃袋を掴んでプロポーズさせた挙句、何度も断ったって、ちょっと頭のおかしい女になってない?私』と不満を視線で送ってきたので『そうなるね』と返したら、『あとでぶん殴る』というジェスチャーだと思うけど、テーブルの下のみんなから見えないところでこぶしを握り締めていた。
これはもう、逃げるしか回避方法を知らない。
『紹介』という名の羞恥プレイが終わると、ぐったりと疲れた。
次は、『歓談と食事』の時間だ。
究極対至高の対決ならば、料理を食べ比べるシーンなのだが、うちの披露宴は普通の料理だ。
ただ、みんな『例の事件』の時には助けてくれた人たちばかりで、お礼の気持ちを込めて料理と引菓子など奮発しておいた。
その料理の合間に、高校時代の同級生がテーブルにやってきてくれる。
「高野倉くんは、高校時代は密かに思いを募らせていたんだねー」
「愛をは育んでいたんだねぇ」
などなど、めちゃくちゃいじられ、女子たちがニヨニヨした目で見てくる。
もう死にたい。
一刻も早く死にたい……
涙目で小路谷さんに助けを求めようと視線を送ったら、『ざまぁみろ』とばかりにすまし顔で姿勢よく座っていた。
こんなにきれいな顔で相手に強力ダメージを与えられる人を、俺はこれまで見たことがない。
ダメだ、味方がいない……
さらにゲストたちが次々来て、コップにビールを注いでくれる。
テーブルの足元にはバケツが準備され、飲み残したビールを捨てることができるようになっているけれど、折角お祝いで注いでくれたビールなので、1口、2口だけでも飲んで……と思っていたらすぐに酔っぱらってきた。
小路谷さんは『それ飲み過ぎじゃね!?』って顔をしている。
多分、俺は真っ赤な顔をしているのだろう。
『ペース間違えた』って顔で返しておいた。
ここで、失敗したな、と思ったのは飲み過ぎたこと。
これが後で利いてくることになろうとは。
お色直しで小路谷さんが退室した。
新婦が不在の間も、高校時代の友達がわいわい来てくれている。
「おめでとうー」
「おめでとー」
「みぽりんきれいだったねー!」
男子たちと連絡がつかない関係で、高校の時の同級生は女子が多い。
新婦が不在の今、新郎のところに同級生たちが集まる訳で、結婚式だというのに新郎が女性に囲まれて、ちやほやされるという変な状態になてしまっている。
「ねね、独身でお金持ちの友達はどの人?」
「名簿見たら、参加者に社長が多くない!?」
「高野倉くん、独身社長たちが2次会に参加するようにお願いしといて」
女性陣の狙いは、独身の友達の方だった……
別に、モテなくていいんだけどさ。
ちなみに、例の『県人会』のつながりで仲の良くなった若い社長たちが参加してくれている。
ベンチャーのタクシー会社の社長とか、有名喫茶店チェーンを誘致した石油会社の2代目社長とか、高級外車ディーラーの支店長とか、ぺらっぺらだった俺の人脈に箔を付けてくれていた。
式場に花を卸している会社の2代目が、たまたま県人会に参加していたので、通常の2倍くらい多めに花を出してくれていて、会場も華やかになっていた。
そういう事もあって、女性陣のテンションも上がっているようだ。
例の司会のお姉さんに『新郎が女性のご友人に囲まれております。日ごろからのお人柄の良さが見て取れる微笑ましい光景となっております』と再度揶揄われると、慌てて女性陣は逃げるように自分の席に戻っていた。
翻訳すると『そろそろ新婦のお色直しが終わって、再度入場するので、席にお戻りください』ということだったのだろうが、実に巧みに言葉を選び、言うタイミングを考えていると思った。
どこの世界にもプロはいる。
『黒子』の人に言われて、披露宴会場を一旦出た。
披露宴会場の外の扉の前で、ピンクで大量の花をあしらったカラードレスに着替えた小路谷さん会うことになった。
ドレスは一緒に選んだけど、最終的な決定は小路谷さん一人に任せていた。
その方が、新鮮な気持ちで会えると思ったからだ。
「おーうぅ」
「なに?」
「めちゃくちゃお綺麗です」
「ありがとうございます」
「おモテになられるんでしょうね」
「先ほども、この指輪をオトコから貢がれましたのよ?」
さっき結婚式で交換した指輪を見せてくる。
「それは相当いい指輪でございますね」
「モテてモテて困っておりますの」
なぜか、小路谷さんとインチキ敬語で会話してしまった。
ちなみに、扉の前で横並びに立っているので、それぞれ扉に向かって話している状態。
「体調はいかがですか?姫」
「吐き気が止まらなくあそばしていますよ?」
「……やっぱりでございますか」
「でも、食べてないので吐き気は控えめでございます」
「人はCCレモンだけで生きていけるものなのですね」
「クエン酸が入っていますからね」
「クエン酸を過信していませんか?披露宴もあと半分なので、もうちょっと耐えてください」
「承知しました」
バカバカしい会話をしていた時、黒子の人が入場の扉を開き、司会の人の『新郎・新婦入場です!盛大な拍手でお迎えください』という声と共にまた大量のスポットライトが当てられた。
スポットライトのせいで目の前が真っ白で何も見えない。
今度こそ光合成してしまいそうだ。
それでも、小路谷さんをエスコートして、入場する。
女性人から『わぁーーー!!』という歓声が飛び出る。
上座のひな壇に戻る間、かわいい、かわいいと聞こえる。
我が家の姫は、黙っていればとても良い見た目をしていらっしゃるから。
口を開けば下ネタしか出てこないのだけれど……
お色直しが終わったら『キャンドルサービス』だ。
歓談の時の様にゲストたちを呼ぶのではなく、こちらから行くので気は楽だ。
各テーブルのキャンドルに火をつけて回るのだが、それに集中すると各席の人との会話を忘れそうになる。
これはきっとろうそくメーカーの陰謀だと思ったら、あとで調べたら本当にそうだった。
まあ、何かしらの大義名分がないと各テーブルを回りにくいので、必要だったのかもしれないけど。
ただ、俺みたいに根がまじめというか、面白くない人間としては、火をつけることに集中してしまう。
効率よく火がつけられないかと放火魔みたいなことを考えてしまい、人との会話を忘れがちになってしまう。
『余興』は別に芸人とかではないので、苦し紛れに質問コーナーにした。
あんまり質問は出ないと踏んでいたのだ。
だから、5分とかしか時間を取っていなかった。
質問も最初の方はよかった。
「美穂ちゃんのどこがよかったのですか?」とか「高校時代はなぜアタックしなかったのですか」とか、恥ずかしくて答えにくい質問はあったが、まあなんとかなっていた。
村吉くんが「最近入っていただいた保険ですが、満足していただいていますか?」と聞いてきたので、「入ってよかったと思います。みんなも入った方がいいと思います」と返し、さりげなく宣伝を入れるとともに、みんなの爆笑を取って行った。
その後だ!
問題はそのあとだった。
俺が予想外にビールを飲んで酔っ払っていたこともあり、小さなトラブルが発生した。
「お付き合いも長いということですが、赤ちゃんはまだですか?」
「うっく……」
祝いの席で嘘をつくのもどうかと思って、言い淀んでしまった。
酔っていたのも良くなかった。
頭が回らなかったのだ。
変な間が開いたので、司会の人が気を利かして質問を小路谷さんに振ってくれた。
『それでは、このご質問は新婦、美穂さんお答え願えますかぁ?」
「えー、いやぁー」
『なかなか照れ屋なお二人みたいです。それでは、そろそろお時間となりましたので……』
こっちもダメかと判断してくれたらしく、うまく司会の人が誤魔化してくれたけれど、同級生たちのテーブルでは、きゃいきゃいいっている。
ご懐妊説が流れ始めてしまった。
全部知ってる村吉家は二人そろって下を向いて笑いを堪えている。
もう、それ答えになっちゃってない!?
次は『両親への手紙と花束贈呈』だったので、誰も茶化したりせず進んだ。
一応カンペは準備したけれど、それを一言一句読むのではなく、言いたいことを箇条書きにしただけのメモ。
ただ、言いたいことのほとんどは自分に子供ができたから実感できたことばかり。
普通の感謝の言葉を言うに留まった。
本当の感謝の言葉はまた別の機会に伝えることにしよう。
最後は『謝辞』。
これはちゃんと言いたかった。
前回の事件の時に助けてくれた人ばかりだったから。
立ち上がってマイクを持った。
すぐ横に小路谷さんがきてくれた。
「人は一人では生きていけないなんて言いますが、ここにいる皆さんもご存じのようについ先日、本当にひどいトラブルに遭いました」
会場がシンと静まる。
式場の人が気を利かせて静かなBGMに切り替えてくれた。
「一人だったらもうダメだと思ってしまう程の酷いことでしたが、ここにいる小路谷さん…ああ、もう、小路谷さんも高野倉さんだった」
会場が爆笑した。
わざとじゃないんだよ。
つい癖で…
「えー、美穂さんが元気づけてくれ、ここにいる皆さんが手と知恵を貸してくれたので、私は今、この場にいることができています。これまでも、色々あったけど、彼女と二人ならなんとか乗り越えて行けると思っています。皆さんにも本当に感謝しています。ありとうございました」
(パチパチパチパチ)
社交辞令ではなく、本当に助かったと思ってる。
だから、逆にここにいるみんなに何か起きた時は、自分が力になれたらと思った。
『以上を持ちまして…』
いい具合に司会の人が締めてくれるみたいだ。
新郎新婦は、会場入り口に移動して、みんなの帰りを見送る仕事が残っている。
退室するゲストたち全員と握手をした。
こんな機会は他にないので何となく新鮮だった。
2次会は、高校の時の同級生のうち有志がすぐ近くの店を予約してくれていたらしい。
正直、披露宴のことでいっぱいいっぱいだったので、助かった。
ただ、2次会に行くと絶対あれについて聞かれる。
ついさっき懐妊説がささやかれていたのだから。
それぞれ着替えを終え、控室でコーヒーを飲んで一息入れた。
片付けなんかは式場の人がやってくれるので、俺たちはもう帰るだけ。
「これからは『美穂さん』でいくわ」
「呼び方?ふぅん。私は……光将くん?いや、あきくん?あっきー?あきまー?」
なんか悩んでいるらしい。
「じゃあ、『あきくん』で」
新しい呼び名が決まったらしい。
でも、子供が生まれたら『パパ』『ママ』になり、子供が成長したら『お父さん』『お母さん』と変化していくのだろう。
『美穂さん』と呼べるのは意外と短い期間になりそうだ。
今のうちにたくさん呼んでおこう。
『呼び方問題』は解決したので、『2次会で懐妊をどう誤魔化すか問題』の方を考えないと。
実は、子供のことは聞かれると思って、事前に小路谷さんと打合せしていた。
一応、6カ月の安定期に入るまでは、なにがあるか分からないから秘密にしておこうという話になった。
だから、2次会で質問された時のために『回答マニュアル』も作っておいたのだ。
ところが、2次会用に考えていたので、披露宴ではきれいに飛んでしまっていた。
酔っぱらっていたのもあるかもしれない。
そのマニュアルが今、役に立つ。
俺達は、2次会会場に移動した。
「マニュアルの再確認したけど、大丈夫そう?」
「バッチリ!」
美穂さんは、自信ありげだ。
これなら大丈夫だろう。
扉を開けて2次会会場に入ったと同時に、入り口で待っていた元同級生たちが、聞いてきた。
「実際、赤ちゃんどうなの?」
俺は、美穂さんとアイコンタクトで確認した。
あれだけ回答の練習をしたのだ。
大丈夫、乗り切れる。
みんなが見守る中、美穂さんが口を開いた。
「お腹に赤ちゃんがいます!春には生まれます!」
「「「わーーー!」」」(パチパチパチパチ)
やっぱり彼女は彼女だった。
謝辞
元々短編で1万文字未満のお話の予定でしたが、すごく多くの方にアクセスしていただいただけではなく、こんなに感想を多くいただける作品は初めてでした。
無事(?)、彼らが結婚できてよかったと思っています。
応援してくださった方、本当にありがとうございました。
今後ももっと面白いものを書けるように頑張ります。
猫カレーฅ^•ω•^ฅ