09.最強転生者、謎の美少女から竜王と呼ばれる。
(800年間?)
とっさに疑問を感じたのはその言葉だ。
だが。
それよりも先に確認しなければならないことがあった。
「ちょっと訊きたいんだがいいか?」
「はい? なんでしょうか?」
「この場に墜落した上位竜はどこに消えたんだ? まさかあんたがさっきのドラゴンってことはないよな?」
「いいえマスター。おっしゃる通りです。私が先程の竜なのです」
「本当なのか?」
ということはさっきまで命を懸けて戦っていた相手はこの少女だったというわけだ。
「ですが、一つお伝えしなければなりません。先程までの私は自らの意思で動いていたわけではありませんでした」
「なに?」
「端的に申し上げれば自我を失っていたということです」
少女の話によれば、彼女は竜族の生き残りであるらしい。
800年間、地中の奥底で強制的に眠らされていたようだ。
(だから800年間って言ったのか)
衝撃的な話だったが、特に驚く内容でもなかった。
竜族にはそうした習性があることを俺は前世の知識で知っていたのだ。
一族が滅びるかもしれないって分かったのなら、そのような選択を取ることだって当然あるだろう。
たとえそれで気の遠くなるような年月がかかったとしても。
それが竜族なんだ。
ただ、ザナルスピラの竜族が俺が前いた世界の竜族と同じ習性を持っていたことは興味深い事実だが。
「けど強制的に眠らされていたのになんでこのタイミングで目を覚ましたんだ? それとどうして俺に襲いかかったりした?」
自我を失っていたと言ったが、それでも襲われる筋合いはない。
危うく死にかけたわけだからな。
「それは簡単です。マスターのオーラに共鳴したからです。襲ってしまったのもそのためなんです。マスターの強いオーラを感じ取ったことで私は覚醒したのです」
「俺が原因なのか?」
「はい。竜王様と出会うために私はこれまで800年間お待ちしておりました」
「竜王?」
「私は竜王様と出会うことで覚醒するように仕組まれて眠らされていました。つまり、あなた様は我が竜族のトップに君臨する竜王なのです」
胸元の前で指を組み、嬉しそうに少女が口にする。
完全に俺のことを信頼しきっている目をしているな。
(さすがに言わないとマズいか)
俺は首を横に振って訂正した。
「何か勘違いしているようだが俺は竜王なんかじゃないぞ?」
少なくともこっちの世界へ来てからはそんな力に目覚めた記憶はない。
「それはあり得ません、マスター」
「なぜだ?」
「それは私を倒されたからです。覚醒した上位竜姿の私を倒せる相手は竜王様以外にいないんです。あなた様がマスターである何よりの証拠です」
どうやら少女は俺が竜王と信じて疑わないようだ。
「それにマスターからは無限の竜力を感じます。自分でお気付きになられませんか?」
「悪いがまったく感じないな」
「でしたら……これでいかがでしょうか?」
少女はスッと目を閉じると、俺に向けて右手をかざす。
ドックン!
その刹那。
頭の中に閃光が駆け抜けるのを感じた。
「今わずかな竜力をマスターへお渡ししました。これで少し認識しやすくなったはずです。一度ご自身のステータスを確認してみてください」
言われるがまま頭の中で〝開示〟と唱える。
------------------------------
【エルハルト・ラングハイム】
クラス:錬金鍛冶師
Lv:1
HP:10/10
MP:1/1
攻撃力:1
防御力:1+5
魔法力:1
素早さ:1
幸運:1
【固有スキル】
《マナ分解》
《強化付与》
【特殊スキル】
《ヴァルキリーの技巧 Lv.2》
《金字塔の鍛造 Lv.1》
【天賦】
《碧星級竜王》
《叡智の伝授》
【武器】
なし
【防具】
生産職の服
旅人のコート
------------------------------
そこにはこれまで見たことのない項目が追加されていた。
(天賦? なんだこれは)
真っ先に目についたのは《碧星級竜王》という文字だ。
竜王……ああ、そうか。
たしか前世でこんなスキルを習得したことがあったな。
「マスターが竜王様であるとご確認いただけましたでしょうか?」
「ああ。だが、これは前の世界の――」
そこまで口にして俺はハッとする。
(そうだ。俺が転生者だってことはこの世界の住人には話しちゃいけない規律だったな)
とっさに口をつぐんだ。
「前の世界……ですか?」
「いやなんでもない。ひとまず、あんたの言うことは信じるぞ」
「ありがとうございます、マスター」
そこで少女は折り目正しく頭を下げた。
まだ状況は上手く飲み込めなかったが、理解しないことには先へ進めない。
(けど天賦か。つまり、この世界に転生した時点でこの異能は所有していたってわけだな)
ステータスに隠してあったからこれまで気付かなかったんだろう。
多分、これもあのロリ女神が仕組んでおいたものに違いない。
(こんなスキルを引き継いでいたなんてな。一応女神に感謝しておくか)
そんなことを考えていると、少女が俺の傍まで近寄ってきた。