72.最強転生者、勇者パーティーに加わり魔王討伐の旅に出る。
「ビアトリスとルヴィか! 納得のパーティーだな!」
「まさにアベンジャーズね」
「強者のみで結成されるパーティー。一度でいいから入ってみたい人生だったぜ~」
「このメンツなら魔王も絶対に倒してくれるはずだわっ!」
ステージへと上がって、マモン・ビアトリス・ルヴィの3人は手を振って皆の期待に応える。
キラキラとしたオーラを放つ勇者パーティーの姿を見て生徒たちは思い思いに祝福の言葉を投げかけていた。
だが、最後のメンバーの名前が明らかになると会場の熱は急速にクールダウンする。
そう。
俺の名前が呼ばれたんだ。
「それでは勇者パーティーに名を連ねる栄光ある最後の者を読み上げたいと思います。えっと、なになに…………は? えっ? えええええぇっ!!?」
神官は目を白黒とさせてあたふたとその場で動き回る。
「どうしたんだろう、神官様?」
「つかめちゃくちゃ血の気引いてないか!?」
「神官様があんな取り乱すの初めて見るぞ……」
「一体誰の名前が石板に示されたんだ?」
会場が戸惑いに包まれる中、ついにその名前が口に出された。
「……え、え、ェ……エルハルト・ラングハイム……です……。彼が……勇者パーティー最後のメンバーです……」
「はぁ!? なんであんなヤツが!」
神官の言葉を耳にして真っ先にステージで声を上げたのはビアトリスだ。
続けてルヴィも混乱したように口にする。
「私たちは悪夢でも見ているのでしょうか? せっかくの勇者パーティーなのにあのような能力の低い人が入るなんて……」
ビアトリスもルヴィも聞き間違いであってほしいと願っているようだった。
当然マモンも黙っちゃいない。
神官の胸倉を掴むと強引に迫る。
「おい、嘘だろ! もう一度ちゃんと確認してくれッ!」
「い、いえ……。私も信じられないのですが……。石板にはこう示されているのです……」
「取り消したりできねーのかよ!」
「せ……石板が示したパーティーは神のご意思であり、ぜ、絶対ですから……。これを破ると……魔王を倒せなくなるかもしれません……。私にはどうすることも……」
「くっ……」
ドスン!
神官から手を離すとマモンは祭壇を大きく蹴りつけた。
その後。
俺はステージで固まる3人のもとへ駆け寄った。
こういう時は変に気を遣っても仕方ない。
「マモン。いろいろあったがこれからは仲間だな」
「なんでてめぇなんだよ!」
「必ずパーティーの役に立ってみせる。だからどうかこれからよろしく頼む」
俺は頭を下げてから手を差し出した。
「チッ! ふざけんなッ!」
マモンはあからさまに大きな舌打ちをして俺が差し出した手を振り払う。
「あなたみたいな劣等爵とパーティーを組まなきゃならないなんて最低よ」
「しかも大ハズレの生産職だなんて……。勇者様の足を引っ張らないか、今から不安でなりません」
ビアトリスもルヴィも深いため息をつきながら俺を睨みつけた。
そんな2人に対しても俺は頭を下げて手を差し出す。
「迷惑をかけるつもりはない。これから仲良くしてほしい」
「迷惑をかけるつもりはないって……そんなの分からないでしょ!? いい加減なこと言わないで!」
「悪いですけどあなたと仲良くするつもりなんてこれっぽっちもありません。あなたさえいなければ完璧な勇者パーティーだったのに……。はっきり言って最悪な気分です」
「オレ様はてめぇを絶対に認めねぇーからな! ビアトリス、ルヴィ! 行くぞ!」
結局、俺は最初から3人にメンバーとして認められることはなかった。
◇◇◇
それから俺たちはアスカ帝国を出ると、中央大陸の国々を渡り歩いてさまざまなダンジョンに入って力をつけた。
「おいノロマッ! 早くオレ様の武器を強化しろや! 貴様にできることはそれしかねぇだろが!」
「分かった」
「こっちにも早くマナを提供しなさいよ! マモンを回復してあげられないでしょ!?」
「今すぐやる」
「そんなところにいたら邪魔で魔法が撃てません! 即刻どこか消えてください!」
「すまん」
こんな調子で俺はパーティーの補助役に徹していた。
戦闘ではきちんと距離を取って待機し、何か言われたらすぐに対応できるようにする。
気付けばそんな風に旅を続けて数ヶ月が経過していた。
なんだかんだありながらも俺はパーティーに貢献できている実感を得ていた。
だが。
どうやらそれは俺の勘違いだったらしい。
七曜の武器をマモンが手に入れたあの日、ギリギリのところで保っていた均衡が崩れてしまったんだ。
◇◇◇
(……ん、朝か?)
バルハラの宿屋で目を覚ました俺はベッドから体を起き上がらせる。
隣りのベッドではナズナが静かに寝息を立てて眠っていた。
(夢だったのか。随分と長い夢だったな)
どうやら俺は眠りながら回想してしまっていたらしい。
昨日の夜はチノにSランク冒険者に認定されてようやく落ち着いたところだったからこんな夢でも見たのかもしれない。
とにかく初心を思い出すことができた。
今こうしてマモンたちと別々の行動を取ってしまっているのは、3人の信頼を勝ち取れなかった俺の責任だと言える。
(だからこそ、最強の無双神器を作ってそれをマモンに渡さないとな)
今の俺にできる手助けと言ったらこれくらいしかない。
過ぎてしまったことを嘆いても時間の無駄だ。
大事なのはこれからどうするか。
そう考えると自然と気合いも入るってもんだ。
(よし。今日から気を引き締めていくぞ)
俺は大きく伸びをすると、そのままベッドから立ち上がる。
目標に向けて新たな一日の始まりだ。