67.最強勇者、女神から並列異世界の存在を聞かされる。
「その並列異世界っていうのはなんだ?」
「そうか。たしかに並列異世界で暮らす其方たちにはほかの異世界のことは認知できないからのぅ~。当然の疑問じゃな。ほれ、これを見よ!」
再びシルルがパチンと指をはじくと真っ白な空間は突如漆黒に覆われる。
そして。
「!」
俺はその周りに広がった光景を見て思わず息を呑んだ。
(なんだ……これは)
俺とシルルの周りには大小さまざまの天体が浮かんでいたのだ。
しかも数えきれないほどに。
「そのうちの一つは、其方がいた世界――ミズガコレルの天体じゃ」
「なに?」
シルルが指さす方へ目を向けると、そこには大きめの天体が浮かんでいた。
これが俺がいた世界の天体……?
「このようにそれぞれの天体ではそれぞれの異世界が広がっておるのじゃ。もちろんこれらの天体はイメージに過ぎぬ。視覚的に分かりやすいよう其方に見せているだけじゃな」
急に話がぶっ飛びすぎて理解が追いつかない。
マジで言っているのか、この話。
「並列異世界では常に勇者と魔王が誕生しておる。我ら神族は魔界族とこれらの並列異世界をどちらが多く取るかで覇権を争っておるのじゃ」
ということは下位界には俺と同じような勇者が無数に存在するってことなのか?
「どうじゃ? ここまでの話理解できたかのぅ~?」
「いや……まだ難しいな」
「ふむ。さすがの勇者レオでもこの現実を受け入れるのは容易ではないか。たしかに下位界の者からするとあまりにもショッキングな現実じゃからのぅ。ほれ、紅茶でも飲んで一度冷静になるとよいぞ」
◇◇◇
それから俺がこの現実を理解するまでには暫しの時間が必要だった。
そりゃそうだろう。
俺たちが暮らしている世界とは別の世界が無数に存在するなんて、これまでそんなことは一切考えずに生きてきたわけだからな。
それに上位界なんてものが存在するって分かれば少しは混乱するってもんだ。
だがシルルが勧めるように紅茶を一口飲むと頭がすっきりとする。
(オーケーだ。受け入れるぞ、この現実を)
俺は改めて目の前に座るシルルに向き直った。
「もう理解できたのかのぅ?」
「ああ、大丈夫だ」
「ほぅ! 物分かりがよくて助かるぞぉ~! それでこそ妾が見込んだ男じゃよ♪」
目の前の幼女は嬉しそうにツインテールを左右に揺らす。
そんなシルルのことも俺は女神として完全に受け入れていた。
改めてシルルが指を鳴らすと真っ黒だった空間は元に戻って天体も姿を消した。
「あんたが俺をこの上位界に召喚したのは分かった。でもどうして俺を呼んだ? 理由はなんだ?」
何度も言うが俺は平和にスローライフを送りたかったんだ。
よく分からない連中の覇権争いなんかに巻き込まれたくないっていうのが本音だった。
「うむ。単刀直入に申すとな? そなたには別の異世界へ転生してもらおうと思っておる。その世界で勇者が魔王を倒す手助けをしてほしいのじゃ」
「魔王を倒す手助けか。さっき並列異世界じゃ常に魔王が誕生してるとか言ってたな。それは魔界族とやらと関係があるのか?」
「さすがはレオ・アレフ! 其方の観察眼は本当に鋭いのぉ~。簡単に言えば、魔王とは魔界族が並列異世界に送り込んだ刺客のようなものじゃな」
「てことは勇者は神族が生み出しているってことか?」
「その通りじゃ~! 勇者が魔王を倒すとその並列異世界は我が神族の支配下に置かれることになる。そうやってこれまで気の遠くなる長い時間の中で魔界族と争いを繰り広げてきたのじゃよ」
なんだかスケールがデカすぎて想像するのもしんどいな。
できればこんなことは知らずに静かに余生を送りたかったぞ。
「というかあんた。俺の味方だったんだな」
「今さらそこをつっこむのか、其方はっ!?」
「いやだってよく分からなかったし」
そもそもこれまで神なんて存在に祈りを捧げたことすらなかったわけだしな。
「まあよい。そんな裏表のないところも含めて妾は気に入っておる! それでどうじゃ? 妾の頼みを聞いてくれんか?」
「まだ肝心な理由が聞けていないぞ。どうして俺なんだ? ほかの異世界にも勇者は無数に存在するんだろ?」
「それはさっき言った通りじゃ~。其方が並列異世界の勇者の中で最速で魔王を倒したからじゃよ! しかも超絶的な力を手に入れた完璧な状態でな♪」
「あれって普通じゃなかったのか?」
「ほ、ほぁぁーー!? 普通なわけあるかぁぁ~~!?」
シルルはたまらずといった感じで、宙に浮かび上がって顔を真っ赤にしながら叫んだ。