65.その日の終わりに。
「それでチノさん。これでマスターはバルハラの冒険者として認められたということでよろしいのでしょうか?」
ナズナがそう訊ねるとチノは静かに頷いた。
「はい。今この瞬間をもってエルハルトを当ギルドのSランク冒険者に認定するのですよ」
チノがそう宣言すると周りからは大きな歓声が上がった。
「すっげぇー! 彼、最速でSランク冒険者になったぞ!」
「ひょっとして勇者様よりも強いんじゃないか? バルハラの誇りだな」
「きゃーエルハルト様ぁ~! 最強の生産職様ぁ~!」
「こりゃ伝説的な瞬間を目の当たりにしてるぞ、俺たちは!」
ディーネも拍手しながら一緒に喜んでくれる。
「おめでとうエルハルト君~♪ これで一緒のギルド所属の冒険者だね。お姉さん嬉しいな」
「ああ。これからもよろしく頼む」
「エルハルトならきっと追試を乗り越えられるはずっていうチノの考えは間違っていなかったのですよ」
「でもそれは結果論なんだからね、チノ? もうエルハルト君を試すような真似しちゃ絶対にダメだよ?」
「ぅっ……。それは十分に承知しているのですよ……。チノはすべてを出し切って全力で挑みました。でもエルハルトには敵わなかったのです。認めるしかないのですよ」
「ふふっ♪ これから忙しくなりそうだね、エルハルト君!」
「俺としてもそれは望むところだ。どんどん難しいクエストを回してもらえると嬉しい」
「もちろんなのですよ。さっそく明日からエルハルトにはお願いしたいクエストを紹介するのです。覚悟しておいてほしいですよ」
「そいつは楽しみだ」
◇◇◇
それから俺たち4人は一緒にバルハラの街へと戻った。
ディーネ同様にチノの生命力も凄まじいものがあって、結局俺が背負って運ぶ必要がないくらいにまで回復していた。
冒険者ギルドの前で2人と別れると、俺とナズナは宿屋へ向かって歩き始める。
「今日は一日お疲れさまでした、マスター。チノさんを倒された時の卓越した剣捌きは本当に惚れ惚れしてしまいました」
「ナズナが【シルファリス竜輪】をくれたおかげだ。あれがあったおかげで強力な武器を作ることができたわけだからな」
「見たところ竜剣を作られたのでしょうか? そんな代物を扱えるなんてマスターはやっぱり竜王様なんですね。竜姫の私でもあの武器は絶対に扱えないと思います」
俺は普通にしてるだけなんだが。
ナズナは依然として俺のことを竜王だって勘違いしているようだ。
ただ本当のことを言うわけにもいかず、俺は黙ってナズナの話に耳を傾けた。
「マスターが凄いのはそれだけじゃありません。以前から思っていましたがマスターが扱う武器の腕前は超人レベルです」
「そうか?」
「はい。とてもレベル1の方が扱える武器捌きではないです。初めてお会いした日からずっと気になっていました。どこでそのような技術を習得されたのでしょうか?」
真剣な表情でナズナがそう訊ねてくる。
(どうしてそんなに強いのかって、さっきチノにも同じようなことを訊かれたな)
前世での剣聖としての経験が役立っているんだと思うがそれを口にするわけにもいかない。
だから俺に言えるのはやっぱりこんな言葉だった。
「悪いがそれは話せないんだ」
「そうですか……残念です」
さすがにナズナは何か勘づいているのかもしれないな。
これだけ一緒にいるわけだから俺が普通の生産職とは違うって気付かない方がおかしいか。
だが。
ナズナは俺が予想していなかった言葉を返してくる。
「ですがこれでマスターをお護りする理由がまた一つ増えました」
「なに?」
「私はマスターのことをもっと知りたいです。そのためにもこれからもお傍でお護りして、マスターについてどんどん知っていきたいって思います」
どこか嬉しそうにナズナは笑顔を覗かせる。
その笑みを見ていると、俺はなぜかあのロリ女神と初めて出会った時のことを思い出した。
すべてはあの瞬間から始まったんだ。
(こっちは上手くやっているぞ、シルル。だからちゃんと見守っていてくれ)
ナズナと並んで歩きながら俺はそんなこと考えて夜空を見上げた。