41.最強転生者、ラギアクルガを狩る。
ホバーバレルを走らせること一時間。
想定していたよりも早くユリウス大森林に到着してしまう。
途中で何かトラブルに遭うようなこともなく、ここまでスムーズに来ることができた。
これでかなり時間を短縮できたな。
「もう降りていいぞ」
「……っ、ありがとうございます。マスター……」
俺はナズナの体を支えながらホバーバレルから降ろす。
ナズナは少しだけぐったりとしていた。
まあ、もの凄いスピードで平原を走り続けてきたからな。
最後の方なんかは、俺の背中に顔も体もぴったりと密着させてしがみ付いていたくらいだし。
おかげでナズナのぬくもりが背中にまだ残っている。
「気持ち悪かったか?」
「いえ……。初めてのことだったので少し驚いてしまいました……。あんなスピードが出るんですね」
「たしかに想像以上だったな。だが、そのおかげで早く着くことができたぞ」
「はい」
そこでナズナは両手で顔をパンパンと叩く。
どうやら自分に気合いを入れ直しているようだ。
そんなナズナから一度視線を外すと、俺は眼前に広がる大森林へと目を向けた。
(随分と威圧感のある場所だ)
ここ数ヶ月はマモンたちと一緒にさまざまなダンジョンに入ってきたわけだが、足を踏み入れる前からこんな風に感じたのは初めてのことかもしれない。
ユリウス大森林が難易度の高いダンジョンだと言われている理由も納得だ。
森の中には様々な魔物が棲息していて、希少性の高いアイテムもかなり落ちているみたいだ。
シグルード王国中から多くの冒険者が訪れるって話だったな。
けど深くまで踏み込まなければ強い魔物は出現しない。
この辺りの情報はギルド職員からいろいろと確認してきた。
(俺の目的はラギアクルガを30体狩ることだけだ)
ラギアクルガは奥地には棲息していないっていう話だし、ナズナの《天竜眼》でさくっと見つけて終わらせてしまおう。
そのまま2人で大森林の入口まで足を進めると、何かに気付いたようにナズナが声を上げる。
「本当に結界が張られているのですね」
「ああ。前も言ったように結界護符がないと中へ入れないようになっているんだ。使うからちょっと待ってろ」
「畏まりました。よろしくお願いします」
俺は魔法袋の中から結界護符を取り出す。
これは事前にギルドから預かっていたものだった。
護符を入口に向けてかざすと結界は数秒の間だけ消失する。
その間に俺たちは素早く大森林の中へと足を踏み入れた。
「マスター。少し気になっていたのですが、私も一緒に入ってよろしかったのでしょうか? 私は登録の申請をしていないので、ダンジョンに入る資格はないと思うのですが……」
「大丈夫だ。その点については心配するな」
基本的に冒険者ギルドは冒険者1人に対してクエストの依頼を出す。
依頼の達成方法については冒険者側に一任されていて、ギルドは関与しないっていうスタンスを取っている。
つまり、クエストを達成することができさえすれば手段は問わないってことだ。
それは冒険者試験にしても同じだろう。
ナズナが傍にいても注意されることはなかったからまず問題ないはずだ。
「それを聞いて安心しました。これでマスターを心置きなくお護りすることができます」
「任せたぞ」
俺はナズナと頷き合うと、草木生い茂る大森林を進んでいく。
◇◇◇
「また発見しました、マスター。あの窪んだ茂みの中に隠れています」
「了解だ」
〝聖具発現〟と唱えて手をかざすと目の前に刀が出現する。
この武器の性能についてはすでに確認済みだ。
------------------------------
【無法者の偃月刀】
〔レアリティ〕E+
〔再現度〕99%
〔攻撃力〕2750
〔必殺技/上限回数〕滅月斬 / 8回
〔アビリティ〕素早さ上昇Lv.2、防御戦術Lv.1
------------------------------
すでに必殺技は発動上限に達しているから繰り出すことはできないが、軽くて扱いやすいこともあって俺はこの刀を使い続けていた。
「「クルッシャシャシャッ!!」」
刃先を構えて2体のラギアクルガに照準を合わせると、俺は間合いを取りつつ【無法者の偃月刀】を素早く振り抜いていく。
すると、ラギアクルガは悲鳴を上げながら一瞬のうちにして絶命した。
「これで7体目と8体目になりますね」
「そうだな」
その場に倒れたラギアクルガの頭部から刀を使って納品素材となる【七色のトサカ】を剥ぎ取ると、魔法袋の中に仕舞い込む。
ここまでだいぶ順調だ。
(《天竜眼》のおかげで貴重なアイテムも拾えてるし、いい調子なんじゃないか?)
ナズナさまさまだ。
瞬時に空間を把握してしまう力が本当に素晴らしい。
「この調子でどんどん頼むぞ」
「はいもちろんです。マスターのお役に立つのが私の役目ですから。お任せください」
その後もユリウス大森林の中を進みながら俺はさらにラギアクルガを狩り続けた。