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35.最強転生者、冒険者ギルドで笑いものとなる。

 目的の場所は中央広場のとても目立つところにあった。

 辺りはほとんど暗くなっていたが、その荘厳な外観は嫌でも目につく。


「ここがバルハラの冒険者ギルドですね。建物も立派です」


「ああ。でかいな」


 シグルード王国へ来る前にマモンたちといくつかの国へ立ち寄ったのだが、ここまで規模の大きい冒険者ギルドを見るのは初めてだった。


(それだけ多くの冒険者が利用してるってことだな)


 こういう大きなギルドだと冒険者の間で序列がはっきりしている場合が多い。

 高ランクの冒険者が幅を利かせて、新人が邪険に扱われるなんてことはザラだ。

 

 特に俺みたいな生産職はバカにされる傾向にある。

 一応生産職も冒険者になれる決まりだが、戦士職や魔法職を相手に街で商売をしている場合が圧倒的に多い。


(俺は勇者パーティーに入っていたからちょっと特殊なんだよな)


 ほとんどの生産職はダンジョンに入ることすらない。


 理由は単純だ。

 経験値を積んでもレベルが一切上がらないからだ。


 ただそんなことを気にしていたら冒険者になんて一生なれない。


(こんな大きいギルドを見つけたんだ。逃す手はない)


 ギルドの規模が巨大ってことは、それだけ受注できるクエストが多数存在するってことだ。

 

 ここで冒険者として登録して生活の基盤を整える。

 それが目標への近道にもなる。


「よし。中へ入るぞ」


「承知しました、マスター」


 そのまま俺はナズナを連れて館の中に足を踏み入れた。




 ◇◇◇




 ガヤガヤ、ガヤガヤ……。


 思った通り中は多くの冒険者で溢れていた。

 周りを見渡せば、屈強な男たちが自然と目に入る。


(肩肘を張ったヤツが多いな)


 誰も彼も自分が舐められないように振舞うことに必死な様子だ。

 

「ひゅ~! 見ろよ、あの女!」

「すっげーおっぱいとケツ! たまらねぇ~!」

「露出しすぎだろ、あの女。誘ってやがるぜぇ……」

「誰か声かけろって! 一発ヤれるかもしれねぇーぞ!」


 ナズナがフロアを歩くだけでそんな下品な声が飛んでくる。

 

 まったくバカな連中だ。

 あれじゃ猿並みの知能しかないって自らアピールしているようなものだ。


「ナズナ、大丈夫か?」


「はい? どうかされましたでしょうか、マスター?」


「いや。気にしてないんならべつにいいんだ」


「?」


 ナズナは自分の体が男たちから下衆な目で見られていることに気付いていないようだ。

 この姿は仮のものだから、特に気にならないのかもしれない。

 

「つか隣りの軟弱な男は誰だよ!」

「まさかアイツの女なのか? 釣り合わねぇー!」

「どうせ女に大金払って付き合ってもらってるんだろ」

「違いねーな! ブサイク野郎にあんな美女が靡くわけねーし!」


 少し騒がしすぎるな。

 ナズナと並んで歩いているだけで周りから野次が飛んでくる。


 もう夕方になっているから、酒場でエールを一杯ひっかけているヤツも多いんだろう。


 まあここにいる男共が束になって襲って来たところでナズナに敵うとも思えない。

 無視が一番だ。

 

 それから俺たちは奥の受付カウンターへと進んだ。




 カウンターの窓口は10箇所ほど用意されていた。

 それだけでもこのギルドが普通の規模じゃないってことが分かる。

 

 そのうちの一つの前に立つと、若い受付嬢がお辞儀をして迎え入れてくれた。


「こんばんは、冒険者様。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「まだ営業時間内か?」


「はい大丈夫ですよ。ただし、クエストはすべて明日ご紹介の案件となります」


「クエストの受注じゃなくて冒険者の登録がしたいんだが、それはできるか?」


「新規のご登録でしょうか? でしたらまだこちらも時間内です」


「そうか。それじゃ頼む」


「分かりました。ではこちらのギルドボードに必要事項をご記入ください。2人分のご用意でよろしいですか?」


 受付嬢がそう訊ねると、ナズナがそれに答える。


「私は付き添いになります。なので1人分で大丈夫です」


「それでは男性1名ですね。こちらをどうぞ」


 俺は若い受付嬢から魔法製のギルドボードを受け取ると、そこに自分の情報を打ち込んでいく。


「あのクソ男。ビギナーらしいぜ?」

「くはははっ! ひよこのくせに一丁前に女同伴かぁ?」

「冒険者舐めすぎだろ。おい、誰かシメちまえよ」

「女の前でボコって泣かしちまうかぁ? ヒャッハハ!」 

 

 いつの間にか俺たちがいるカウンターの周りには人だかりができていた。


(随分と危ない連中だな)


 普通ここまでギルドが無法地帯なのも珍しい。

 ひょっとするとギルドマスターが不在の可能性があった。


 こういう時はよくいざこざが起こったりする。


 ギルド側は基本的に冒険者同士の争いには関与しないっていうスタイルだから、厄介事に巻き込まれたら自分たちで解決する必要があった。


(野次ってくるようなヤツらを相手にするだけ時間の無駄だ。ここは無視でいい)


 俺は外野の声を無視しつつ、ギルドボードの入力を終えてそれを受付嬢に渡した。

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