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31.最強転生者、大巫女の病を完治させてしまう。

 それから。

 どれくらいそうしていただろうか。


 実際の時間にしたら数分ってところだろうが、火賀美としては決断するためのとても永い時間だったに違いない。


 やがて火賀美は口を開いた。


「エルハルト、ありがとね。大巫女の病を治すためにこれを作ってくれたんでしょ?」


「ああ」


「だったら……それには何か意味があるはずだよね?」


 他意がないと言ったらそれは嘘になる。

 特効薬を作ろうとした最初の動機は、マモンのためにっていう理由だったからな。


 でもそれは本当に最初だけだ。


(俺は単純に大巫女の命を救いたかったんだ)


 今となっては特効薬を作った理由はそれ以外にない。

 その大巫女が火賀美なら絶対に良くなってもらいたいっていうのが本音だった。


「……」


 火賀美はじっと【エリクサー】が入ったボトルに目を向けると、決心したように頷く。

 

「うん。ボクはエルハルトを信じてこれを飲むよ」


「そうか。ありがとな」


「違うって、エルハルト。お礼を言わなくちゃいけないのはボクの方だよ。大巫女のためにホントにありがとね♪」


 火賀美は笑顔を覗かせながら俺から【エリクサー】を受け取る。


 すると。

 少しの迷いも見せることなくそれを一気に服用した。


 あまりに簡単に飲むものだから俺も拍子抜けしたくらいだった。


「……ごくん、ごくんっ……んん…………ぷはぁーー! っうぅ、えぇぇ……!? なにこれ、すっごく苦いんだけどぉ……!?」


「すまん。苦ったか?」


「いつも作ってもらってた特効薬と全然違うよぉー!? ひぇ、舌がしびれるぅ……!」


 あとから苦さが来たのか。

 暫しの間、火賀美は寝台でバタバタと暴れ回っていたがすぐにパッと起き上がる。


「……え、あれ? 本当だ……全然、痛くなくないよ!?」


「なんだ? 苦いのがおさまってきたのか?」


「ううん、違うの……。体の痛みを全然感じないんだよ……!」


「そうなのか?」


「うんっ! やったよ、エルハルト♪ 本当に万能薬が効いたんだよぉ~~!」


 火賀美は嬉しそうにその場で飛び跳ねると、俺に思いっきり抱きついてくる。

 

「全部エルハルトのおかげだよぉ~~! ホントにありがとっ!」


「そうか、治ったのか。よかったな」


「うんっ♪ エルハルト、大好きぃ!」


「ちょ、おい……」


 火賀美は抱きついたまま俺を寝台に押し倒す。

 瞳に薄っすらと涙を浮かべながら、嬉しそうに俺の胸に顔を埋めた。


 これまでいろいろと辛かったんだろう。

 我慢していたものが一気に溢れ出てきてしまったのかもな。


(まあ、今日くらいはいいか)


 ぎゅっと抱きつく火賀美と一緒に寝台に倒れながら、しばらくの間、俺は胸を貸し続けた。




 ◇◇◇




「エルハルトごめんね? 苦しかったでしょ?」


「大丈夫だ。気にするな」


「あはは……ボクってばつい……。嬉しくなっちゃって、エルハルトに抱きついちゃった……」


 恥ずかしそうに頬を赤くさせながら、火賀美が先に体を起こす。

 俺もすぐに体を起こした。


「エルハルトって、案外体がっちりしてるんだね。ボク、驚いちゃったよ」


「毎日鍛えてるからな」


「ってことは、夜は激しいよね。ボク耐えられるかなぁ……」


「夜?」


「う、ううんっ! なんでもないよ!?」


 コートを払いのけると俺はその場で立ち上がる。


「それで。本当に体調は良くなったのか?」


「うんっ! もうすっかり! 実はこれまでずっと体が痛かったんだけど、不思議なくらい全然痛くないんだよ。こんなことって初めてなんだ~!」


「良薬口に苦しってことか」


「そうだね、全部エルハルトのおかげ! エルハルトはボクの命の恩人だよ!」


「それは大げさだ」


「ううん。ボクの余命はあとちょっと言われてたから。だから大げさでもなんでもないんだよ」


 その時、俺は今朝の女将の言葉を思い出した。


(そういえば余命幾ばくも残されていないって話だったな)


 こんな風に火賀美が感謝の気持ちを俺に伝えてくる意味が理解できた。

 

「そうか。そう言ってくれてありがとな。素直に嬉しいぞ」


 俺は思わず寝台に腰をかける火賀美の頭を撫でる。

 

「えへへ♪」


 火賀美は俺に撫でられると、艶やかな赤色のミディアムヘアを揺らしながら無邪気な笑みを浮かべた。

 なんともかわいらしいヤツだ。


(俺に妹がいたらきっとこんな感じだったんだろうな)


 2人でそんなことをしていると外から琴音の声が聞こえてくる。


『火賀美様。体調はいかがでしょうか? 失礼かと思いますが中に入らせていただきます』


 (ふすま)を開くと、琴音が部屋の中へと入ってくる。

 けっこう長い間待たせてしまっていたから不安に感じたのかもしれない。


「あっ! 琴音だーっ!」


 部屋に足を踏み入れるなり、琴音はベッドの上に転がった空のボトルに目を向けた。


「火賀美様、これは……」


「エルハルトのこと信じて飲んだんだ~!」


「そうでしたか。それで……お体はいかがですか? 何か変化はございましたか?」


 琴音は恐る恐るといった様子で訊ねる。

 これまでもこうして何度も火賀美に訊ねてきたんだろう。


 もちろん今回の返答は今までと違ったものだったはずだ。

 

「ばっちり治っちゃったよ?」


「え……本当ですか……!?」


「うんっ♪」


「火賀美様……。うぅっ……お、おめでとうございますっ……」


「これまで心配してくれてホントにありがとね、琴音っ……!」


 2人が抱き合って喜び合う姿を確認すると俺はひと足先に寝所を後にする。

 廊下ではナズナが静かに待機していた。


「マスター。火賀美さん、どうでしたか?」


「どうやら万能薬はちゃんと効いてくれたみたいだ」


「そうでしたか……よかったです。これでクレストオーブも守られましたね」


「ああ。そうだな」


 結果的にオーブも守ることができて俺はちょっとした達成感を抱いていた。

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