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29.最強転生者、褐色の元気娘が里の大巫女だと知る。

「火賀美様。今日はきちんとお休みするとお約束したはずです。どうして寝所から起きて来られたのですか?」


「えー? だって何か騒ぎ声が聞えたからさ。どしたの? 何かすごく怒ってたみたいだけど」


「いえその者たちが……」


 そこで女の子は俺たちに目を向ける。


「あー! キミっ!」


 彼女は大きな瞳をぱちくりとさせて俺の名前を叫んだ。


「エルハルト! なんでここにいるの!?」


「? 火賀美様、この者たちとお知り合いなのですか?」


「うんっ! 彼がボクの運命の人だよ!」


「この者が……」


「ねっ? 昨日話した通りでしょ? かっこいいよね?」


「……はぁ、火賀美様。私は昨日の件をまだ許したわけではないのですよ? また勝手に1人で下町まで遊びに行って、途中で具合が悪くなったらどうするつもりだったんですか」


「あはは……ごめん。今回はちゃんと反省してるんだよ。でも今はそんなことよりさ!」


 火賀美と呼ばれた女の子は本殿を下りると近くまで駆け寄ってくる。

 そして、俺の手を握って笑顔を弾けさせた。

 

「エルハルト! また会えたね♪」


「ああ。まさかあんたがこの里の大巫女だったなんてな」


「えっ? ボクのこと知ってたの!?」


「いや、今初めて知った。でも実際にそうなんだろ?」


「えへへ……。昨日は無断で下町に下りていたから本当のことが言えなくてさ。ごめんね?」


 だから、フードをかぶって姿を隠していたのか。

 大巫女が1人で下町に遊びに来ているなんてことがバレたら、里民も大騒ぎするだろうしな。


「火賀美さん……でよろしいのでしょうか?」


「あ、うん。そっか。昨日はボクの自己紹介がまだだったよね」


「はい。お名前を知ることができて嬉しいです」


「ボクもまたエルハルトとナズナに会えて嬉しいよ♪」


 屈託のない笑みを見てしまうとこっちまで元気が出てくる。

 本当に不思議なヤツだ。


 宮司の女はもう一度短くため息をつくと、緑色の魔法陣を構えていた黒づくめの少女たちに手で合図を送る。


「お前たちもう下がっていい」


 少女たちを建物の奥へと引き下がらせると、女は本殿を下りて俺たちの前までやって来た。


「私は琴音と申します。あなたたちは火賀美様のお知り合いだったんですね。でしたら最初からそれをおっしゃっていただければよかったのですが」


「こいつがこの里の大巫女だっていうのは今初めて知ったんだ」


「? だったらどうして……」


 不思議がる琴音に対して、ナズナが盾を亜空間に収納しながら説明する。


「今朝、水明山の特効薬について耳にしたのでそれを作って渡そうとされたんです。マスターは心の優しい御方です。たとえ面識がなくてもそれを普通にやられてしまうのがマスターなんです」


「ナズナ。そういうのは他人に言わなくていい」


「はい、申し訳ありません。マスター」


 ナズナの話を聞いて琴音は何かを考えるように黙り込む。

 対して火賀美はというと、その話に引っかかりを覚えたようだ。


「どーゆうこと? なんでエルハルトが水明山の特効薬について知ってるの?」


「宿屋の女将から聞いたんだ。あんた、小さい頃から病を患っているんだってな」


「え? あっ……うん……」


「悪かった。昨日はそのことに気付けなくて」


 多分あの発作はその病が原因だったんだろう。

 こんな風に明るく振舞っているが、またいつあんな感じになるか分からないに違いない。


「そっか……聞いちゃったんだ。でもエルハルトが気にすることじゃないよ? 昨日のあれもたまたまだし、今はすごく元気で――」


 火賀美がそう口にしたところで琴音が間に割って入ってくる。


「火賀美様、それは嘘ですよね?」


「……っ、琴音?」


「もう何年お付き合いさせていただいていると思っているんですか。火賀美様、もう無理はなさらないでください」


「ボクは……無理なんかしてないよ」


 火賀美はそこで片腕をぎゅっと抱きしめる。


 どうやら琴音の言っていることは間違いじゃないらしい。

 本当は今も立っているだけで辛いのかもしれない。


「エルハルトさんと言いましたね?」


「ああ」


「病の話は本当です。火賀美様は他の同世代の少女たちと同じように健康的に見えると思いますが、実際は体の節々が痛くて仕方ないのです」


「琴音、やめてよ……。ボクはそんなことないから」


 火賀美が間に入ってくるも琴音は話を止めなかった。


「火賀美様はとてもお強いのです。こうして私どもに心配をかけないように昔から我慢する癖がついてしまっているんです」


「っ」


 それを聞くと、火賀美は片腕を抱きしめながら少し俯いてしまう。


「エルハルトさん。先程のご無礼をどうかお許しください。火賀美様のために作られたというその特効薬をいただくことはできますか?」


「もちろんだ」


「ありがとうございます」


 俺は【エリクサー】を琴音に渡した。

 だが当の大巫女はというと、それをどこか心細そうに見つめている。


 今しがたまで天真爛漫に笑顔を振り撒いていた女の子の姿はそこにはない。


 そして。

 くるりと踵を返すと唐突に本殿へと引き返してしまった。


「ボクはそんなものなくても平気だからっ……!」


 突然の出来事に俺もナズナも驚きながら火賀美の後ろ姿を見送った。

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