21.褐色の元気娘と出会う。
俺は褐色の少女に向かって事情を説明する。
「街へ向かってる途中でたまたま見つけたから、それで寄らせてもらったんだ」
「そうなんだ? でもおかしいなぁ~。普通は見つけられないはずなんだけどさ」
「こいつのスキルを使ったからな」
そう言って俺はナズナに視線を向ける。
それで女の子もナズナの存在に気付いたようだ。
「あっ、お連れさんがいたんだ。ゴメン。邪魔だったかな?」
「いえ。私たちもこちらの里に着いたばかりだったので里の方に話しかけていただけて嬉しいです」
「えっと、今デート中だったりする?」
「デートするためにこの里へ寄ったように見えるか?」
「あはは……ごめんね。ボク、普段は限られた人としか話さないから。こうやって他の人と話すのも久しぶりでさ。なんて返せばいいか分からなくなっちゃったんだよ」
「それでよく声をかけてきたな」
「それはさ。なんかキミにオーラを感じちゃったっていうのかな? 話しかけなきゃって、本能的に思ったっていうか。いつもはこんな風に誰でも話しかけたりしないんだよ?」
なんていうか変わったヤツだな。
見た目は明らかに元気娘って感じなのに影に重いものを背負っているようなそんな印象を受ける。
「まあいい。俺たちは泊まれる宿を探そうとしてたんだ」
「宿? だったらボクが案内できるよ!」
「お願いしてもよろしいのでしょうか?」
ナズナが訊ねると褐色の少女は笑顔を浮かべて頷いた。
「もちろんだよ♪」
どうやらナズナに対する警戒心は解けた感じだな。
「この里の宿はね。知ってる人じゃないとちょっと見つけられないような場所にあるから」
「そうなのか?」
「うん。ほとんど他所から来る人なんていないからね。この里にはちょっとした結界が張ってあるんだよ。外から分からないようにさ」
なるほど。
だからビフレストで買った地図にもこの里について記されていなかったわけか。
「でもどうして結界なんて張っているんでしょうか?」
「この里にはちょっとした使命があるんだよ。えっとボクの口からはちょっと言えないんだ。ごめんね?」
俺はナズナと顔を見合わせた。
やはりこの里には何か秘密が隠されているようだ。
だが女の子がこう言う以上俺たちがつっこむのは野暮ってもんだ。
「分かった。それじゃ悪いんだが宿まで案内してもらえるか?」
「うん♪ こっち! ついて来て」
◇◇◇
褐色の少女の案内もあって俺たちは無事に宿の前へと到着する。
宿は大きな洞穴の中に隠れるようにして存在した。
たしかにこれじゃよそ者は見つけられないな。
「助かった。恩に着るぞ」
「このたびはご親切にどうもありがとうございました」
「お礼なんていいよ。困っている人を助けるのは当然のことだから」
女の子がはにかむと、頬にかわいらしいえくぼができた。
なんていうか、見る者を自然と元気にするような不思議な魅力がこいつにはあるな。
「そういえばまだ名乗ってなかったな。俺の名前はエルハルト・ラングハイムだ。それでこっちの連れがナズナだ」
「エルハルトか。うん、いい名前だね。ちゃんと覚えたよ♪ もちろんナズナも」
「それであんたの名は?」
「えっと、ボクの名前は――」
するとその時。
遠くの方から何やら騒ぎ声が聞えてくる。
誰かが大声で何者かを探しているようだった。
それに対して褐色の女の子は真っ先に反応を示す。
「あ、ヤバっ」
どこか焦ったように口にしたかと思うと。
「……ぅっ!?」
突然、胸を押さえてその場に膝をつけてしまう。
「っ…………こんな、時に……」
明らかに様子が変だ。
「どうした?」
「う……ううん……。ちょっと、気持ち悪くなっちゃって……」
そう口にすると、女の子はフードを外してその場でじっと固まってしまう。
どうやらかなり苦しいようだ。
「マスター。彼女を宿の中へ運んだ方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうだな。おい、おんぶしてやるから少しだけ体を動かせるか?」
「だ……だいじょう、ぶ……すぐに、治まるから……」
少女はハァハァと息を何度か荒く繰り返すと、やがて1人で立ち上がれるようになる。
宣言通り、発作はすぐに治まったようだ。
「あはは……。ごめんね2人とも。変なところ見せちゃって……」
「何があったんだ?」
「気にしないで! それじゃ……ボクはこれで。またねっ!」
俺が声をかける間もなく、女の子は手を振って遠くへと駆け出してしまう。
「あの子、大丈夫でしょうか?」
「……」
どこか不思議な気持ちになりつつ、俺たちは名前も知らない少女の背中を目で追った。
◇◇◇
その後。
俺たちは花鳥の里の宿屋で一晩を明かした。
念願だった夕食にもありつけて俺もナズナも大満足だった。
宿屋の女将は久しぶりのよそからの客にかなり張り切っていて、いろいろとサービスしてもらった。
また機会があるなら泊まりに来たいものだな。