表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/81

19.竜姫、多くの女性との出会いを予言する。

「それ以上乗り出すと危ないぞ」


 両手を出してオリヴィアの体を支える。


「~~っ!?」


「ん? どうした?」


 するとオリヴィアは俺の顔を見て大きな瞳をぱちくりとさせた。

 心なしか顔も赤いように見える。


「い、いえ……。ありがとうございます……。あの、まさかこんな美男子の殿方に助けていただけたとは思っておりませんでして……」


 オリヴィアはもう一度俺を見ると、恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。

 一体どうしたんだ?


 俺が戸惑っているとたまらずといった様子で周りの護衛兵たちが声を上げた。


「オリヴィア様。これ以上民と関わるのはおやめください」

「どこに叛逆者が潜んでいるか分かりません。顔を見せるのはお控えを」

「おい! すぐに馬車を出発させろ」


 なぜか俺たちと対面させたくないらしい。

 護衛兵の男たちは、急いでこの場から離れる準備を始めた。


「マスター。この方は……」


「ああ」


 後ろからナズナが小声で話しかけてくる。

 どうやらナズナも、オリヴィアがかなり身分の高い者だってことに気付いたようだ。


「お待ちください。まだわたくしはお礼をちゃんと伝えられていません」


「オリヴィア様。この者たちが賊の仲間という可能性もございます」


「そんな……。どうしてそう酷いことが平気で言えるのでしょうか? この方たちはわたくしたちを命を張って助けてくださったのです。きちんと感謝の言葉を伝えるのがシグルードで暮らす者として当然の務めではないでしょうか?」


「民に倣ってオリヴィア様がそのようなことをされる必要はありません」

「感謝の言葉なら、先程我々が伝えておきましたから」

「さあ、早く馬車を出すんだ!」


 護衛兵の1人が声を張り上げる。

 すると、馬車の前に座る御者が手綱を取って馬を走らせ始めた。


「と、止めてくださいっ……! まだあの方のお名前も伺っていないのです……!」


 オリヴィアの制止も虚しく、馬車は平地を勢いよく走っていく。

 すぐに小さくなって見えなくなった。


「行ってしまったな」


 さすがに後を追いかけるわけにもいかず、俺とナズナはその場に留まって馬車が道の向こう側へ消えるまで見送った。

 

 ワゴンから身を乗り出してオリヴィアは最後まで名残惜しそうに俺たちのことを見ていた。




 ◇◇◇




「それにしても皆さんご無事でよかったですね。マスター」


「そうだな」


 オリヴィアが乗った馬車を見送った後。

 俺たちはバルハラを目指して再び歩き始めていた。


 陽はすでに傾きかけていて気持ち的に急ぎ足となっている。


「まさか中にあんな若い方が乗られているとは思っていませんでした。歳はいくつくらいだったんでしょうか?」


「どうだろうな。俺たちよりも年下に見えたが」


「とすると、あの若さであれだけの護衛兵をつけていたっていうことは、やっぱり高貴な身分の方なんでしょうね」


「ああ。多分間違いない」


 なぜ、連中が馬車を襲撃したのかは分からなかったが、何か人の道から外れた行為に及ぼうとしていたのは間違いない。

 

 助けることができて本当によかった。


 水浴びをしていなかったら、襲撃現場を目撃することだってなかったわけだしな。

 運が良かったんだろう。


「けどオリヴィアはどこの誰だったんだろうな?」


「そうですね。気になりますけど……でも。きっと、またどこかでお会いすることができると思います。オリヴィアさんからは縁を感じることができましたから」


「そうなのか?」


「はい。あの方だけじゃありません。マスターからも私は強い縁を感じたんです。この御方とはこれから運命を共にすることになるって」


「そんなことを思ってたのか。全然知らなかったぞ」


「それだけではないですよ? オリヴィアさんが言うようにマスターはとても美男子でハンサムな御方だと一目見て思いました」


「初めてそんなこと言われたけどな」


「そうなんですか? てっきりマスターは以前から女性にモテモテだったのかと」


「悪いがそんな過去はない」


 少なくともこっちの世界に来てからはそんな経験をしたことはなかった。


(たしかに外見はそこそこ整っているとは思うが)


 体つきもそこまで悪くない。

 昔はかなり貧弱な体をしてたが、毎日鍛錬していたら筋肉もついてきたし、この器にはけっこう満足していたりする。


「ですが私には分かります。マスターはこれからさらに多くの女性との間に縁が生まれると」


「それも《天竜眼》の能力か?」


「これはちょっと違いますね。なんとなく分かるんです。800年間も地中で眠り続けていたせいか、未来を見通す力が少し芽生えたのかもしれません」


 800年間っていったら、気の遠くなるような長い年月だ。

 ナズナの言うようなことだってあるのかもしれない。


(多くの女性との間に縁が生まれる、か)


 嫌な気持ちはしないが、あまり面倒事には巻き込まれたくはないぞ。


 そんなことを考えながら、俺はナズナと一緒にオレンジに染まる野道を歩いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ