17.最強転生者、魔法で応戦してくる賊たちを剣だけで圧倒する。
俺が後退したタイミングで、賊たちは手元に魔法陣を発現させる。
紫色の魔法陣。
つまり雷属性の魔法を撃ち込もうとしているってことだ。
ナズナもそれに気付いたんだろう。
右手で長盾を支えながら左手を真横に構える。
「〝雷竜の護りを今こそ盾に統べよ――雷属性付与〟」
そんな風に唱えると、ナズナの手元にも紫色の魔法陣が浮かび上がった。
ちょうどその時。
大男が「放てぇ!」と声を張り上げる。
すると賊たちは詠唱しながら下位魔法の〈サンダーボルト〉を一斉に繰り出してきた。
普通これだけ一斉に攻撃魔法を撃ち込まれたら盾では防げないところだが。
ギュルルルルル!
「なんだ!? あの盾は!」
「魔法が吸い取られたのか?」
「そんな……バカな!」
複数の位置から放たれた〈サンダーボルト〉は、ナズナが手にする《轟竜の護盾》に吸い込まれるようにして消滅してしまう。
(すごいぞ。なんて盾だ)
本当にナズナの盾には驚かされてばかりだ。
彼女と主従契約を結ぶことができて俺は幸運だったのかもしれない。
「こちらは問題なく防げそうです、マスター。タイミングのいいところで反撃をお願いします」
「ああ。了解した」
このまま賊たちを放っておくわけにはいかない。
連中を完全に倒さない限り、馬車を救うことは難しいからだ。
(人質を取られているような状況を考えると一気に決着をつけたいところだが)
賊たちは戸惑ったように大男に指示を仰いでいる。
相手の連携が乱れている今こそ、チャンスと言えた。
(レアリティEの武器だと少し心もとないか。それなら……)
俺は魔法袋の中に手をつっこむと【ヘラクレス紅蓮石】を取り出す。
これは荒野を歩いている最中にナズナが《天竜眼》で発見したアイテムだ。
今日、見つけた素材の中では最も希少性の高いものでもある。
【神鳥のサーベル】を縦に構えると、ブレイドの部分に【ヘラクレス紅蓮石】を当ててイメージを膨らませた。
(お前の中に宿ったマナをこの剣に付与してみせろ)
そう意識を強く集中させた瞬間、【神鳥のサーベル】は眩く輝き始める。
やがて。
光の波が収まると俺の手には新たな武器が握られていた。
すぐに頭の中でステータスを確認する。
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【赫翼の斬鉄剣】
〔レアリティ〕C-
〔再現度〕70%
〔攻撃力〕3500
〔必殺技/上限回数〕火剣四乱武 / 10回
〔アビリティ〕素早さ上昇Lv.2、不屈Lv.2
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レアリティはC-。
なかなか強そうな武器だ。
念のために必殺技もチェックしておく。
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【必殺技】
火剣四乱武
〔内容〕
敵全体に小ダメージの物理攻撃を4回ヒットさせる。
命中率が高く、使用後に高確率で敵をやけど状態にする。
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(全体攻撃が可能なのか。この状況には打ってつけの必殺技だな)
命中率が高いなら一掃することも難しくないだろう。
俺は【赫翼の斬鉄剣】をぐっと握り締めると、前方に注意を向ける。
「放て、放て、放てぇーー! 休む間を与えるなーー!」
賊の首領は声を荒げながら発破をかけていた。
周りの者たちはすぐに〈サンダーボルト〉を撃ち込んでくるが、雷竜の護りを得た《轟竜の護盾》の前では無力もいいところ。
「……」
長盾を手で支えながら、ナズナは相手の攻撃を寡黙に防ぎ続けていた。
その姿は頼もしさを感じる。
(ナズナばかりに危ないことを押し付けるわけにはいかないな)
多少の危険を冒してでも今度は俺が行動に出る番だった。
相手の攻撃が止む一瞬の隙を突くと、俺はナズナの背後から外に飛び出す。
「!? おい、男の方が出てきたぞ!」
賊の1人が声を上げると敵の注目は一斉に俺へと集まる。
ヤツらは照準を俺に合わせて詠唱しながら一斉に〈サンダーボルト〉を撃ち込んできた。
(今さら気付いたところで遅い)
戦闘面に関してはこちらの方が一枚上手だ。
アビリティの効果により素早さが二回りも上昇しているから、放たれた雷魔法の間隙を縫う形で俺は駆け抜けていく。
(魔法の軌道がすべて見えるな。まるでスローモーションだ)
〔素早さ上昇〕のアビリティは想像以上だった。
たとえ、攻撃を一度受けたとしても〔不屈〕も備わっているから即死は免れるはず。
この勝負もらった。
【赫翼の斬鉄剣】を握り締めたまま、刃先の照準を賊たちに合わせる。
(全員まとめて一気にいくぞ)
走りながら集団の懐に飛び込んだ俺は全力で剣を振り払った。
「すべてを薙ぎ払い、煉獄の彼方へ敵を滅せよ――〈火剣八乱武〉」
その刹那。
燃え盛る紅蓮の閃光が乱れ飛ぶ形で、賊たち全員を一斉に薙ぎ払っていく。
「「「うぎゃあああぁぁ~~~!!?」」」
連中は四方へと吹き飛ばされ、一瞬のうちにして気絶するのだった。




