16.最強転生者、襲撃を受けている馬車の助けに向かう。
「ふぅ。いい水浴びだった」
体を布切れで拭きつつ、生産職の服に着替えて旅人のコートを羽織る。
昨日は野宿して水浴びができなかったからかなりさっぱりした。
「ナズナもきっと気持ちいいだろうな」
ちなみに順番で水浴びしているから、今はナズナの番だったりする。
あの胸元が大きく開いた鎧をどう外すかは気になるところだが、俺は女の子の裸が覗き見したいヘンタイではない。
(まあナズナの場合はかなり露出度の高い格好をしてるから裸同然みたいなところがあるんだが)
しかし、やはりこれも慣れの問題だ。
今日一日ずっと一緒にいて俺の目はあの格好に完全に慣れてしまっていた。
果実のように丸々と膨らんだ胸や透き通るように白い生脚へ目が向くことももうない。
「マスター。お待たせいたしました」
布切れで髪を拭いながらナズナが水浴びから戻ってくる。
白銀色のロングヘアはまだ水が少し滴っていて妙に艶めかしい。
昨日初めてその姿を見た時にも感じたことだが、ナズナはとんでもない美少女だ。
街を歩いていたら男女問わず皆が振り返るに違いない。
それでいて凛とした気高さも兼ね備えている。
竜姫っていうのも頷ける話だ。
「どうだった? 800年ぶりの水浴びは」
「水がひんやりとして冷たくて本当に気持ちよかったです。まるで心まで洗われたような気がしました」
「それはよかった。あと少し休んだら出発するぞ」
「はい。承知しました」
真上まで高く昇っていた陽は徐々に落ち始めている。
ひょっとすると明るいうちにバルハラへ着くのは難しいかもしれない。
(今日も野宿の可能性があるな)
べつに野宿自体は前の世界でも何度も経験しているから嫌というわけではないのだが、空腹が地味にキツかったりする。
昨日ドラゴン果実を食べて以来、食べ物をろくに口にしていない。
(ホーンラビットでもいれば皮を剥いで丸焼きにして食べるところなんだが)
そんなことを思いながらふと辺りに目を向けると。
「ん?」
野川を挟んだ遠くの田舎道の方で何か蠢く影を確認することができた。
続けて何か争うような声も微かに聞えてくる。
《天竜眼》ですぐに異変を感じ取ったのか。
すぐにナズナが近寄ってきた。
「マスター。近くの平地で賊が馬車を襲撃しているようです。いかがされますか?」
「賊の人数は?」
「全員で8人です」
それだけの人数で襲撃を受けたら相手はひとたまりもないことだろう。
もちろん、答えは決まっていた。
「助けに向かうぞ、ナズナ。ついて来てくれるか?」
「もちろんです。マスターをお護りするのが私の役目ですから」
俺はナズナと一緒にその場を駆け出した。
◇◇◇
近くの茂みに隠れて状況を確認する。
馬車の周りでは数人の護衛兵が賊の攻撃から守るように交戦していたが、人数的に不利な状況は明らかだった。
(中は誰が乗っているか見えないな)
ワゴンには黒いレースがかけられていて中が覗けないようになっている。
(馬車自体はどこにでもあるものだ。けど護衛兵をあれだけ周りに置いてるってことは要人が乗っている可能性が高い)
おそらく、カモフラージュのためにあえてグレードの低い馬車を使っているんだろう。
それすらも賊はお見通しだったっていうわけだ。
賊はたしかに8人いる。
事前に計画した上で今回襲撃したのかもしれない。
「〝聖具発現〟」
小声でそう唱えると俺は武器を出現させる。
それを手に取って、俺は頭の中で瞬時にステータスを確認した。
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【神鳥のサーベル】
〔レアリティ〕E
〔再現度〕100%
〔攻撃力〕2600
〔必殺技/上限回数〕はやぶさ斬り / 6回
〔アビリティ〕幸運Lv.1、高速攻撃Lv.1
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この剣はさっきの休憩中に作っておいたものだ。
「ナズナ。カウントで一気に飛び出るぞ。まずは敵の関心を俺たちに向けるんだ」
「でしたら私は前に出て敵の攻撃からマスターをお護りいたします」
「頼んだ」
その後。
タイミングを見計らうと、カウントを唱えてから俺はナズナと共に茂みから飛び出た。
すぐに賊たちが反応を示す。
「見ろ、あそこに誰か現れたぞ!」
「なんだあいつらは……まさか増援か?」
「剣を持ってこっちに向かって来る!?」
賊たちは一瞬、攻撃の手を止めて俺たちに視線を向けた。
「狼狽えるなお前ら! 魔法を撃ち込んで撃退しろ!」
首領らしき大柄の男が冷静に声を上げると賊は全員こちらに体を向けた。
敵の関心を引きつけることには成功したがどうやらこいつらは魔法が扱えるらしい。
少し厄介か。
「陣形を整えろ! 一斉に繰り出すぞ!」
大男の号令に賊は素早く陣形を取る。
どうやらかなり熟練された連中のようだ。
人を相手にする場合はこれが難しかったりする。
魔物と違って魔法で攻撃を仕掛けてくることがあるからな。
「マスター危険です。私の後ろにお下がりください」
ナズナは瞬時に《轟竜の護盾》を発現させると、それを構えながら俺の前に出る。
「大丈夫か? 相手は攻撃魔法を撃ち込んでくるかもしれない」
「問題ありません。この盾は《白亜の加護》というスキルを使って、火竜・水竜・雷竜・風竜・地竜から力を受け継ぎ、属性をエンチャントすることができるんです」
またすごい話を聞いてしまった。
《轟竜の護盾》は俺が想像していた以上の性能を有しているようだ。
「分かった。それなら攻撃の対処は任せたぞ」
「お任せください」
俺は一度ナズナの後ろに引き下がった。