10.最強転生者、竜姫の使命を知る。
「マスター。それでここからが本題なのですが」
間近で見るとかなり大胆なプロポーションをしている。
上半身の鎧と露出した真っ白な肌のアンバランスさがなんとも官能的だ。
目のやり場になかなか困る。
「その前にまずはお互い自己紹介しないか? 俺はあんたの名前すら知らないんだ」
「これは大変失礼しました。ご挨拶がまだでしたね。私は竜姫のナズナと申します」
「竜姫のナズナ? あんたお姫様だったのか」
なるほど。
お姫様なら竜族の生き残りとして地中の奥深くで匿われていた理由も納得できる。
概ね魔王軍が侵攻して来た際に一族の命運を託されて地中深くに匿われたんだろう。
(けっこう過酷なものを背負っているよな)
俺はナズナに少しだけ同情した。
「マスターのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「俺の名前はエルハルト・ラングハイムだ。訳あってドラゴン神殿へとやって来ていたんだ」
「エルハルト様ですね。とても素敵なお名前です」
「それでその本題というのは?」
「はい。単刀直入に申し上げますと、私と主従契約を結んでいただけないでしょうか?」
「主従契約?」
「私がマスターに仕えるための契約です。こんな風に人の姿に変わったのもそのためなんです」
このザナルスピラでは、竜族が人族の姿に変身するっていうのは特別に珍しいことじゃなかったようだ。
800年前、竜族はこの中央大陸で人の姿となって人族と仲良く共存していたっていうしな。
「だがどうして俺が竜族の生き残りのお姫様とそんな契約を結ばなくちゃならないんだ?」
「理由は単純です。竜姫には竜王様をお護りする使命があるからです」
その話なら前世でも聞いたことがある。
俺は前の世界で竜族を統率して魔王軍に戦いを挑んだ経験があるから、そういった話も聞いたことがあった。
ちなみに《碧星級竜王》のスキルはその時に習得したものだ。
このスキルは竜族の力を底上げすることができるからかなり重宝されたな。
ひょっとするとさっき戦った上位竜姿のナズナもこの恩恵を受けていたのかもしれない。
どうりで強かったわけだ。
「竜王を護る使命か。けど俺を護ったところであんたにメリットはない気がするが」
そもそも、俺は竜王なんかじゃないわけだし。
たまたま勘違いさせるような天賦を所有しているだけに過ぎない。
しかし。
ナズナは俺が予想していなかった言葉を返してくる。
「そんなことはありません。私はマスターと主従契約を結ぶことで十分すぎるほどの見返りをいただけます」
「見返り? なんだそれは」
「主従契約を結べば、私はマスターのお傍にいるだけで強靭な竜力を授かることができます。それは先程私がお渡しさせていただいたものとは比べものにならないくらいの膨大な力を秘めた竜力なんです」
「そうか。てことは俺が何かする必要はないんだな」
「はい。マスターから自然と溢れ出る竜力を私が受け取るだけになります」
「でもそんなものを渡して何か意味があるのか?」
「私にはもう一つ、竜種を残して一族を復活させるという使命があります。竜姫は竜王様から受け取った竜力で多くの子孫を残すことができるんです」
それは初耳だ。
多分、前世の竜族にはそんな力はなかったはず。
「性交渉しなくても子孫が残せるってことか」
「そうですね。竜姫はそのような体となっております」
これはある意味安心な言葉だ。
男を誘惑するようなこんな格好で迫られたらたまったもんじゃないからな。
すると突然。
ズシュピーン!
ナズナの目の前に光を帯びた漆黒のシールドが出現する。
それはこれまで見たことのない巨大な盾だった。