01.最強転生者、ダンジョンに置き去りにされる。
「エルハルト! 今日限りで貴様をパーティーから追放する」
「追放?」
「そうだ。たった今てめぇはパーティーから外されたんだよ」
「待ってくれ。いきなりすぎて話が飲み込めないんだが」
「くっくっく、バカが! マヌケにもほどがあるな、エルハルトぉ?」
輝く剣を手にしながらマモンが嬉々とした表情を浮かべる。
この金髪の男は勇者であり、俺は勇者パーティーの一員だった。
「アタシもマモンに賛成よ。この無能いつも邪魔で仕方なかったわ。これ以上マモンにすがりつくような真似しないで」
聖女のビアトリスが灰色のストレートヘアを払いのけながら間に入ってくる。
「はっきり言ってパーティーのお荷物です、あなた。〝死に戻り〟なんて最初から気持ち悪かったんです。二度と私たちの前に現れないでください」
続けて口を挟んできたのは魔術師のルヴィだ。
緑色のショートヘアを揺らしながら丸縁のメガネをぐいっと上げて冷静に訴えてくる。
皆が皆、これまで抑え込んでいた感情が一気に爆発してしまったようだった。
「そうは言うが俺が抜けても大丈夫なのか? マナの提供や武器の強化はどうなる?」
俺は錬金鍛冶師っていうクラスでパーティーの中で補助役を担っていた。
固有スキルの《マナ分解》でマナを提供し、《強化付与》で武器の強化をして、戦闘面ではきちんと役に立っていたはず。
「ハッ、知れたこと! オレ様が手に入れたこの七曜の武器さえありゃ、てめぇなんぞもう用済みだ。ようやくこの日を迎えることができて清々してるぜ! 最初からずっと貴様が気に入らなかったんだ」
俺たちは任意で組んだパーティーじゃない。
王立学院の同級生で、神官の宣告によって強制的にパーティーを組まされていただけに過ぎない。
だから、いつかはこんな風になるんじゃないかって思っていたわけだが。
(けどダメだ。そんな武器じゃ魔王は倒せない)
嬉しそうにマモンが掲げるその剣が大した性能を持っていないことを俺はすでに見抜いていた。
「マモン。残念だがそいつはハズレ武器だぞ」
「あん? なんでんなことがてめぇに分かるんだよ。七曜の武器だぞ? んなわけあるか!」
やはりマモンは聞く耳を持たない。
気が短くて興奮すると話をまともに聞かなくなるのだ。
それでもここで諦めるわけにはいかない。
俺は訴えを続けた。
「考え直してくれないか? 俺はまだパーティーの役に立ちたいんだ」
「今さら悪あがきとは見苦しいわね、エルハルト。最初から分かってたことでしょ? あなたはこのパーティーから必要とされていないのよ」
「役立たずのくせに戦闘中はちょこまかと動き回って正直目障りで仕方ありませんでした」
ビアトリスとルヴィが冷たい目つきでそう言い放つ。
「素直に現実を認めろ。てめぇはここで置き去りにされるんだよ。くっくっく!」
鋭い剣先を向けつつ、マモンがにやけながら口にした。
ここはドラゴン神殿っていうダンジョンの最下層で、俺たちは七曜の武器を入手するためにここまで降りて来ていた。
最下層へ至るまでの間にはそれなりに強い魔物を倒す必要があった。
当然、自分の力だけでここまで降りて来られたわけじゃない。
というのも俺のレベルは1だからだ。
生産職はレベル1が固定で経験値をいくら積んでもレベルが上がることはない。
だから、こんなところで置き去りにされたら普通は助からなかった。
「魔物たちに寄ってたかって食い殺されるのがオチだわ。フフッ、いい気味ね」
「エルハルトさんがこのダンジョンから生還できる確率は0%です。つまりあなたの人生はもう詰んでますね」
「ざまぁねぇな、エルハルト! そのすかした態度がどこまで通用するか見物だぜ。まぁ劣等職の貴様が生還できるほどこのダンジョンは甘くねぇけどな」
「どうしても俺をパーティーから追い出すのか?」
「まだ現実を理解できていないとかコイツ頭悪すぎでしょ? こんなバカは放っておいて早く行きましょ、マモン」
「ですね。これ以上勇者様がこんな役立たずの人を相手にする必要はありません」
ビアトリスとルヴィがマモンの両脇につく。
そして、勝利を確信したようにマモンは白い歯を覗かせながら大きく笑った。
「魔物もろくに倒せない生産職のゴミ屑が! 無様にこのダンジョンで野垂れ死ねや! ヒャッハハ!」
ルヴィが唱えた〈瞬間転移〉の魔法により、3人は一気にその場から姿を消してしまった。
◇◇◇
「本当に行ってしまったか」
どうやら貢献が足りなかったみたいだな。
俺は3人が消えてしまった空間に目を向けながら考える。
マモンたちの信頼を勝ち取れなかったのがこうなってしまったすべての原因だ。
責任は俺にある。
だが、ここで立ち止まってもいられない。
俺には勇者の役に立たなければならないっていう使命が存在した。
「そのためにはまずはここから抜け出さないとだ」
レベル1の俺がどうやってこのダンジョンから脱出するか。
魔物の攻撃を一撃でも受ければ即死は免れないだろう。
けど、正直言って俺はまったく焦っていなかった。
なぜなら、俺は前世で勇者として魔王を倒して一度世界を救っているからだ。
剣聖と賢者のクラスまで経て勇者となった俺にとってこんなものは窮地でもなんでもない。
「さくっと脱出しようか」