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第二話  失ったモノ 取り戻した答え

 汗が入り込んだ目が、ずきずきと痛む。


 夏が始まったかのような強い日差しが、肌にひりひりとした感覚をもたらす。


 首からかけた手ぬぐいで顔に浮かんだ汗をぬぐうと、俺は痛み出した腰を思い切り伸ばした。


 周りを見渡すと、同じ服を着た何人かの男達がクワを地面に突き立てているのが見える。


 なんとはなしにその光景を眺めていた俺だったが、地面に突き刺したクワを引き抜くと、手の中にある棒をしっかりと握りなおした。





 関東にいくつかある刑務所の一つ。


 普通に生きている人たちからしてみればもっとも縁遠く、そして、誰もが身近に感じることを余儀なくされる可能性を秘めているその施設の中で、俺は畑を耕していた。


 季節は12月。


 例年よりもよほど暖かい日差しのおかげでずいぶんと過ごしやすい日が続いている。


 もしかするとこれは、世界がだめになってしまうという前触れだったのかもしれない。


 どこかにいるであろう神様が、かわいそうな世界のために少しだけ優しさを分けてくれたのかもしれない。


 そんなことをぼんやりと考えている自分に気づき、俺の口元に笑みが浮かぶ。


 神様なんぞ信じたこともない人間が、なにを言っているのだろうか。


 自分が困っているときにだけ縋り付くような人間にはなりたくないと思っていたが、実際にはこんなもんだ。


 自分の弱さに呆れてしまう。


 自嘲が混じった笑いを貼り付けていた俺の顔、その頬に不意に何かが触れた。


 「っつ!つめてーな!!」


 口調を荒くして後ろを振り返った俺の前に、笑顔を浮かべた男が立っていた。


 「ははははっ。はい、差し入れだよ」


 差し出された手には、冷えて汗をかいたスポーツドリンクの缶。


 「まったく、普通に渡せよな〜」


 ぶちぶちと文句をいいながらも受け取った俺を見て、彼はまた笑った。


 こいつの名前は高橋和馬。


 どう見ても高校生くらいにしか見えないルックスと、いつもにこにこしているところが特徴的な21歳の男だ。


 短気な俺とは正反対の性格をしているが、なんとなく馬があってたいていは俺と一緒に行動している。


 さぼるのも一緒。


 騒ぐのも一緒。


 看守達にとっては頭痛の種だっただろうが、そんなことは全く気にせずに俺たちはバカなことをやり続けた。


 その行動に腹を立てた何人かの看守に厳重な注意を受けたのも、いまとなってはいい思い出なのかもしれない。


 あれだけ辛いと思っていた記憶を懐かしく思い起こしている自分に気づき、俺は小さく笑った。


 「な〜に笑ってんだよ、じーちゃん。気持ち悪いなあ」


 「お前なあ、人がクールに決めてるときに、気持ち悪いはないだろが。あと、俺のことをじーちゃんって言うのはやめろっていってるだろ」


 「だって、じーちゃんじゃん。名前を縮めた親しみやすい愛称なのに」


 「愛称って・・・・どうして俊司を縮めてじーちゃんになるんだよ。普通、しゅんちゃんとかしゅーちゃんとか、そんな感じだろ」


 ジト目でにらむ俺をものともせず、奴はわけのわからん持論を得意げに語り出す。


 「じーちゃん、甘いよ。チョコパフェに、溶かしたイチゴ大福をぶちまけたくらいに甘い。俺がそんな普通のネーミングをするわけないじゃん。っていうか、普通じゃないじーちゃんに普通の名前なんて似合わない。いや、むしろ、あり得ないね」


 「おまえなあ・・・・・」


 怒りのあまりぷるぷると震え出す俺の肩に、誰かの手が置かれた。


 訝しげに振り向くと、目の前には壮年の男性がにこにこしながら立っていた。


 彼の名は徳野文昭。


 通称徳さん。


 この刑務所に勤務して20年のベテラン看守である。


 義理と人情を信条とした人生観を持っていて、その考えは所長だろうが囚人だろうが関係なく適応される。


 相手がどんなに偉かろうとしったこっちゃない徳さんは、悪いことは悪いと大声で叫べるすごいおっさんである。


 だから、当然のように出世街道からははずされている。


 だが、そんなことは気にもせず、自分の信念を貫き通せる彼を慕う者は多い。


 犯罪者であっても、警察関係者であっても、だ。


 そんな彼は、今日も自分の業務に忠実に・・・・いや、若干どころではなく違反しているようにも思えるが・・・・俺たちの監視をし、面倒を見ていた。


 「まあ、そんなに怒るんじゃない。若いもんのやることを大目に見るのが年配者のつとめだぞ、大林」


 「徳さん、まったく、和馬には甘いんだから・・・・。それに、年配者って言ったって、俺と和馬は5つしか離れてないんだけど」


 「5つも離れれば充分だぞ。なあ、じーちゃん」


 「じーちゃんじゃねえ!!」


 俺たちの漫才とも言える会話をききつけ、作業を中断して腰を下ろしていた周りの男共から笑いが漏れる。


 その事実にむくれながら、それでも、こんな穏やかな時間も悪くないと感じていた。


 ・・・・・・昨日午前十時。

 

 世界中に一つのニュースが駆けめぐった。


 世界の滅亡。

 

 映画の題材としてはひどくありふれてしまった題材が、現実味を伴ってしまったとき、世界は荒れた。


 残された日は一日。


 たった一日しかない。


 そうおもったとき、世界中の人々は暴徒とかした。


 だが。


 人の本質は悪だけではなかった。


 人の心は、黒く染まりきってしまっただけではなかった。


 突き飛ばされて転んでしまった少女に差し出された手があった。


 寝たきりの老婦人の家に、食べ物を持って向かう青年がいた。


 ほんの少しの優しさが、絶望に染まりきった世界に白い点を残した。


 もし。


 もし後世に人類が生き残れることがあるのならば、その小さな小さな優しさのことをこう呼ぶのだろう。


 奇跡、と。


 そして、その奇跡は世界の片隅にある島国の刑務所の中でも起こった。


 収容された人物の解放。


 この、前代未聞の決定に対して、当然のように抵抗はあった。


 それはそうだろう。


 殺人のように重大な罪をおこした者をのぞくとされたとはいえ、犯罪者が自分の周りに近づいてくるかもしれないのだから。


 だが、実際にそうなってみると、そういった危惧は無用なものとなった。


 はっきりいって、それどころではなかったからだ。


 周りにくる人のことより、自分のことで皆が手一杯だった。


 そうした混乱した世界の中に放たれることになった罪を犯した者たち。

 

 だが、彼らは必ずしも外の世界にでたいと思う者だけではなかった。


 全てを失った者。


 行き場所がない者。


 外の世界よりも、この閉鎖された空間の方がましだと考える者。


 そういった人たちは、刑務所に残ることを選んだ。


 堀の外の世界の人々からは想像することしかできない心境。


 その心境に至るまでの経緯の中に、徳さんの存在は切り離すことができない。


 徳さんはずっとこの刑務所の看守をしていた。


 若いときになにをしていたのか。


 家族はいるのか。


 そういったことを口にすることなく、一日のほとんどをこの場所で過ごしていた。


 彼は刑務所に収容された人々のために、優しく、そして厳しく、親身になって過ごしてきたんだ。


 この畑のこともそうだ。


 規定ではこういったものを作ることは禁止されている。


 だが、ある男の一言によって、徳さんは動いた。


 亡くなった田舎の母親を思い、畑の中で土まみれになった思い出を懐かしむ男のために、徳さんはあらゆる手段を講じた。


 情に訴えかけ、論理的な説明を行い、時には自身が持っている情報という切り札を使いながら彼は働きかけた。


 そして、裏庭に畑ができることが決まった。


 苦労して作ることになった畑も、最初は誰もが否定的だった。


 めんどくさい、なんで俺たちがそんなことをしなければいけないのか。


 そういったことを口にしながら、しぶしぶ畑仕事をする男達。


 しかし。


 やってみると意外なほどおもしろかった。


 何かを生み出すこと。


 外の風に触れること。


 土の温もりを知ること。


 それは、思いのほか楽しい作業だった。


 否定的だった男達も、しだいに変わっていく。


 初めてできた不格好なトマトをお互いに自慢しながら丸かじりする姿は、まるで子供のようだった。


 台風がきたら誰からともなく起き出し、一晩中見張りをたてる。


 本なんか大嫌いだった男が、栽培の仕方がかかれた専門書を読みふける。


 半ば冗談のような光景が、世界に広がっていく。


 男達の世界を広げていく。


 そんな経緯の中、この場所に残った誰もが、徳さんのことを実の父親のように慕っていた。


 徳さんは今日も笑いかける。


 「あ、そうそう、高橋、今日は面会の人が来ているぞ」


 「面会?」


 「ああ、綺麗な女性と、ちっちゃい女の子だが」


 不思議そうに口にした徳さんの言葉に、それまで笑っていた和馬の顔色が変わった。


 初めて見るシリアスな顔で、徳さんに問いつめる。


 「その人達、どこにいる?今どこにいるの、徳さん!!」


 「あ、ああ・・・・面会室に来てもらってるが・・・・」


 徳さんの言葉が終わるか終わらないかの間に、和馬の姿は消えた。


 風のような速さと呼ぶのがぴったりなほどの速度で、もっていたスポーツドリンクを投げ出しながら走っていく。


 後に残された俺たちは、首をひねることしかできなかった。




 僕は走っていた。


 いつも浮かべている笑みも消え、余裕のなさで顔が引きつっていくのを感じる。


 通り慣れた通路がたまらなく遠かった。


 密かに自信を持っている足の速さがひどくもどかしかった。


 この二年間でほとんど踏み入れていない面会室に向け、僕の足は速度を増す。


 そして、そこには彼女が・・・・・・由香が立っていた。


 ぜーぜーと荒い息をあげて崩れ落ちそうになる僕に気づいた視線が、心配そうなものへと変わる。


 「大丈夫?」


 「うん・・・まあ・・・微妙に・・・」


 呼吸の音に紛れてしまいそうな言葉を黙って聞いていた彼女が、いきりなり吹き出す。


 「・・・どうしたの?」


 「え、うん、だって・・・・・そんなに必死になってる和君の顔、みたことなかったから、さ」


 言い終わったと同時に爆笑する由香の姿に、なんだか納得いかない気持ちが強くなる。


 「そんなに笑うことないでしょ」


 「そうだね・・・うん・・・・だめだ、笑いがとまんない」


 息も絶え絶えなほど本格的に笑い出した彼女に、僕は相変わらず不機嫌な声で言葉を吐き出した。


 「で、どうしたの、今日は。別れたダンナになんか用でもあるわけ?」


 「え〜、そうそう、用があって・・・・くくく・・・・はははははは」


 涙まで浮かべて笑っている彼女に呆れながら、必死で走った自分の立場を思って深い深いため息をついた。


 由香・・・・滝沢由香とは四年前に出会い、そしてなし崩し的に結婚した。


 子供ができたからではない。


 小さい頃に両親と死に別れた僕が、家族を作ることを望んでいたからだ。


 若すぎる結婚。


 周囲、特に彼女の父親はものすごく反対した。


 それはそうだろう。


 17歳の自分の娘が、18歳の若造と結婚するというんだから、いま考えると僕だって反対する。


 だけど、当時の僕は必死だった。


 納得してもらうために仕事を探し、彼女の実家の近くに部屋を借り、週末になると彼女の家に通った。


 親父さんには何度も殴られた。


 彼女と彼女の母親がとめに入らなければ、大けがをするところだったときもある。


 でも、譲れなかった。


 僕にとって彼女はとてもとても大切だったから。


 そして、最後の日。


 僕はそれまで話も聞いてくれなかった親父さんに居間に通され、ビールをつがれた。


 あまり得意ではないその味に苦労しながらも、ようやく飲み干した僕に向かって彼は頭を下げた。


 娘を宜しく頼む、と。


 正直感動した。


 それまでの苦労を思って。


 親父さんの行動に打たれて。


 なによりも、彼女との仲を認めてもらえたことが嬉しくて。


 その夜のことははっきりと覚えていない。


 覚えているのは、真夜中に親父さんと肩を組んで熱唱した六甲おろしと、次の日に襲いかかってきた二日酔いのことだけ。


 でも、それでもよかったんだ。


 そして、二人の新しい生活が始まった。


 子供ができた事を知ったとき。


 辛く当たっていた会社の先輩が、実は僕のことを心配してくれていたのを知ったとき。


 初めての結婚記念日。


 とても嬉しくて、とても幸せで・・・・・だけど、それは永遠ではなかった。


 酒の席でのほんの些細な言い争い。


 ちっぽけなそんなきっかけのために、僕は犯罪者となった。


 傷害罪のため、執行猶予のない懲役三年。


 それが重いのか軽いのか、知識のない僕にはよくわからない。


 だけど、僕はどんな罰でも受ける覚悟を決めた。


 そんな僕に告げられた、もっとも重い罰。


 彼女との別れ。


 それが告げられたとき彼女の姿はなく、彼女の父親がこの面会室に来ていた。


 僕はどこか人ごとのように彼の話を聞いていた。


 実感がなかった。


 心の中が空っぽだった。


 ぼんやりと視線を彷徨わせていた僕の目の前で、下げられる頭。


 「・・・・すまなかった」


 血を吐くような声。


 僕は彼のそんな声を初めて聞いた。


 そして、彼の苦しみと悲しみを知った。


 だから僕はなにも言えなくて・・・・離婚届に判を押した。


 それからは父親にも、彼女自身にも会ってはいない。


 この場所に来るのも、それ以来のことだ。


 そんな状況の中、急いできてみると、待っていたのが元妻の大爆笑。


 僕じゃなくても腹は立つと思う。


 なおも憮然としながら、自分にできる精一杯不機嫌な声で僕は彼女の名前を呼んだ。


 「今日はどうしたんだ?」


 口調が変化したことに気づいたのだろう、彼女の笑いも自然に止まり、背筋を伸ばして僕を見つめる。


 「あなたに会いたいって人がいるから、こうやって案内してきたの」


 「会いたい人?」


 不思議そうに眉をひそめる僕から視線をはずし、彼女は入り口に向かって声をかけた。


 「おいで、紗英ちゃん。恥ずかしがってないで、ほら」


 重い扉をゆっくりと開き、その声に導かれるようにして小さな女の子が隙間から顔を出した。


 僕の方を一瞬見た後、顔を下に向けてちょこちょこと由香に向かって走り寄ってくる。


 由香の背後に隠れた後、何か怖いものでもみるかのように彼女の足の後ろからこちらをのぞき込んでくる女の子。


 「あれ、由香、もしかして・・・・・」


 「そう、この子が紗英。あなたの娘だよ」


 「うわ〜、そっか〜、こんなにおっきくなったのか〜」


 驚きのあまり声を大きくしながら、僕は女の子の目線に会わせるようにしゃがみ込んだ。


 紗英とは僕と由香の娘だ。

 

 最後にあったとき、彼女は一才になるかならないかで、立つこともできやしなかった。


 そんな娘が、自分の足で立ち、走ることもできるようになっている。


 時間の早さを感じ、彼女の成長を近くでみれなかったことが哀しくて、でも、少し嬉しくて、僕はくしゃくしゃになった顔のまま紗英の方を見つめた。


 恥ずかしげに母親の後ろで顔を隠した少女は、今度は由香の両足の隙間からこちらの様子をうかがっている。


 しばらく見つめ続ける僕に、由香が声をかける。


 「この子がどうしてもお父さんに会いたいって。幼稚園の父親学級で自分のお父さんがいないことがとても寂しかったらしくて、この前からずっと言ってるの。だから・・・」


 その言葉に少しうつむいたまま、僕は彼女に言葉を返す。


 「でも、僕はもう・・・・。由香にはいないの?そういう人が?」


 「・・・・私だって何度も思ったわよ。でも、しょうがないじゃない。甘えんぼで、寂しがり屋で、頼りにならなくて、でも、大切な者のためには勇気を振り絞ることのできる、どっかのバカのことがたまらなく好きなんだもん、しょうがないじゃない・・・・」


 切れ切れになった言葉の替わりに、彼女は右手を差し出す。


 その手には、一枚の紙切れ。


 あのとき震える手で書き上げた、僕と彼女を他人にする証。


 「それにね、なんなのよ、元妻って。私はいまでもあなたの奥さんなのよ。こんなかわいい奥さんと、こんなにかわいい娘がいるんだから、幸せに・・・おもってよ・・・・ね・・・」


 泣きそうになりながら、それをこらえながら、彼女は笑う。


 強くて、哀しくて、そしてなによりも優しい笑みを彼女は浮かべる。


 嬉しくて切なくてこっちまで泣きそうになっている僕のことを、かがみ込んだ視線の先にいる小さな小さな彼女が見つめた。


 照れたように、花びらが零れるように、彼女が笑う。


 涙が伝う頬を必死になって動かし、僕はいままでの人生で一番の笑顔を浮かべた。


 いろいろなことがあった。


 辛いことだってあった。


 だけど僕は言い切れる。


 僕は幸せだ。


 世界中のどんな人よりも、僕は幸せだ。




 三人の世界を壊さないように、俺はそっと扉を閉めた。


 柄にもなく、涙が止めどなく流れ落ちる。


 柄でもない奴らが、涙を止めどなく流している。


 酷く滑稽な光景が、たまらなく嬉しく思えて、俺は叫びたい衝動を必死に押さえた。


 誰もが無言のまま肩をたたき合い、抱きしめ合っている。


 「なんていうか、さ」


 徳さんが弱い涙腺をさらに弱くして、涙声で呟く。


 「どうしようもない世界で、どうしようもない人生を送ってきたけど・・・・・悪くないな、こういうのも。人生最後の日に、こういうのも、悪くない。家族を亡くした俺が、こんなたくさんの息子達や、孫までできたみたいで、嬉しくて嬉しくて・・・」


 「徳さん、その息子からお願いがあるんだけど・・・・涙をぬぐうのもいいけど、鼻水も一緒にでてるぞ」


 その声に、あわてて鼻をすする徳さん。


 誰もが笑った。


 声を出して、でも出し過ぎないようにして、腹を抱えて笑った。


 家族に会えない奴らも。


 人生に絶望した奴らも。


 人なんか信じないと言い切った奴らも。


 みんな、みんな、笑いあった。


 「よっしゃ、しゃあねえ、あの幸せな奴らに、俺たちのまっずい手料理でも食わしてやろうぜ!!」


 俺が叫んだ言葉にみんなが叫び返し、妙にハイテンションな状態で各自が畑に向かって飛び出していく。


 冬だとはいえ、食べられるものがそこにはある。


 作ったことはないけれど、とりあえず大根のみそ汁でも作ってみるかと思いながら、俺自身も駆けだしてみた。



 

 幸せだと思うことは難しい。


 幸せだと思えるようになることも難しい。


 だけどそれは意外と簡単で。


 だけどそれは意外と単純なことなんだって、気づけたことが、たまらなく嬉しかった。


 この世界の片隅で、消えゆく灯火を感じながら、そんな単純な事で幸せになれる人生が、たまらなく愛しかった。


 

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