プロローグ 『オーラのソフォス王』
「半神の王と神造人間」という作品の改変です。
ソフォス王は玉座にて、自らの治る国であるオーラを眺めていた。
彼は目をつぶっている。にも関わらず、遠くを眺めるなどおかしな話である。
しかし、おかしくはあるが、彼にはそれが可能なのだ。
王は千里眼と呼ばれる目を開眼していた。あらゆるものを見通す超常の目である。
王はその目に、この国の姿を写し出していたのだ。
カルガという、家畜として飼われている大きな鳥が、しきりに嘴で地面をつついているのが見える。
草原で羊がゆったりと歩いているのが見える。
鍬を持ち、農地を耕している農民が見える。
海や川で魚を獲っている漁師が見える。
動物の毛や石や木を加工し、道具を作っている職人が見える。
弓を手にウサギを追い回す狩人が見える。
家を建築している最中の大工が見える。
商いをする商人が見える。
溢れんばかり笑顔を振りまき、大いに遊んでいる子ども達が見える。
――この国に生きる人々の営みが見える。
それらを眺める事こそが、ソフォス王の生きがいであり、細やかな幸福であった。
「今日のオーラも実に壮観である」
彼は愉悦に満ちた顔で、玉座にて頬杖をつきながら高らかに笑った。
その年齢、実に60を超える。にも関わらず、その外見は20台のそれと変わりなく、若々しい。
彼こそがオーラ王ソフォス。
天神と人間の血を継ぐ半神半人にして、優れた知恵と全てを見抜く目を持った至高の王。
王になるべくしてこの世に生まれ、神と人とを繋ぐ楔の役割を持つ存在。
そんな彼の治るこの地に、ある変化が訪れつつあった。
「ソフォス王、秘書官のロゼ殿よりご報告がございます」
「やっとか、待ちわびたぞ。言動を許す、聞かせよ」
膝をつきこうべを垂れていた従者は、王の言葉によって立ち上がり、己が持ってきた要件を述べた。
「例の者の、魂と肉体との同化が完了いたしました」
「ほう……」
ソフォス王は期待に満ちた目で笑みを浮かべ、玉座から立ち上がった。
「我らが王よ、これでようやく……」
「あぁ、これでようやく完成したわけだ」
興奮で固唾を呑む従者に同意するように、ソフォス王は言葉を続けた。
「神々により創り出されし万能の化身、神造人間がな」
王が手をかざす。ただそれだけで、王室の扉は物音を立てながらひとりでに開門される。
魔力溢れるこの世界、ソフォス王程の膨大な知識があれば、いとも容易く魔術を行使する事ができるのだ。
「今からヤツの様子を見に行く。だが同化直後だ、何が起こるかは分からん。しばらくは誰も近づくなと、王宮の者達に伝えておけ」
「了解しました、ソフォス王」
それだけ言い残し、ソフォス王は歩み始めた。
――鳥が歌い、花が舞うこの日、ソフォス王に素晴らしい出会いが訪れる。
心地よい風を浴びながら、ソフォス王はその場所へと向かう。
新たな神話の始まりだ。