《輝く翼》のリ・スタート
ベッドの上で半身を起こして左側を、窓の外をボンヤリとしながら眺めると、今日も良い天気だった。
目覚めも四度目になれば、少しは慣れてくるものだ。
今朝は多少混乱するだけで割りとすぐに状況を受け入れることが出来ていた。
まー、相変わらず納得は出来ませんけどね。
ただ、今日は目が覚めて状況を把握した後、大きな落胆と一緒に小さな安堵があることを感じていた。
多分それは、あの少年少女に感じ始めた親愛の感情から来るものなのだろう。
彼らと過ごす日々が長く続いたとしたら、やがて夢から覚める日が来た時、俺は大きな大きな落胆を覚えるかもしれないな。
そんな風に思う自分に苦笑が漏れる。
「……さて、『その日』が来るまで、出来ることをやりますか」
誰に伝えるわけでもなく呟き、支度をするべく薄手のブランケットを足元の方に追いやる。
と……俺の頭の中は……真っ白になっていた……
「いやん。ダーリンのエッチ」
「……」
俺の右隣に寝転がる、水色髪が美しい裸の美少女の笑みに……
本日の始業の合図は俺の絶叫でした。
◎
「ジョウッ!!!ジョウはどこだっ!!!」
Tシャツにトランクス一丁、さらに小脇にはブランケットでグルグル巻きになった美少女。
そんなザマで階段を飛び降りてきた俺に、ざわついていたラウンジはさらに騒然となっていた。
まぁですよねっ!そうなりますよねっ!
でもこっちは、んなこたぁ知ったこっちゃねぇんだよぉぉぉぉっ!!!
きっと鬼の形相になっていたんだろうと思う。
必死に拠点内を見渡していると、皆素早く俺から目を逸らしていた。
そこへ、慌てた様子でジョウが駆け寄ってくる。
「デ、ディーネッ!?どこへ行ってたのっ!?まさか、パウロさんの所へっ!?」
「そのまさかだっ!このヤロウッ!つーか!なんでいきなりエロモードになってんだよっ!?コイツッ!?」
空いている手でディーネをズビシッ!と指差しながら詰め寄ると、ジョウは「あうう……」とのけ反っていた。
原作でディーネが突然人間サイズになるのは、女の子の仲間が出来てハーレムが徐々に構築され始めた頃のはず。
ぶっちゃけ、テコ入れでエロ路線に走り始めた頃だ。
俺の勢いに押され、ジョウはまたおどおどした少年に戻っていた。
「ボ、ボクも昨日の夜に大きくなれるって聞かされたばかりで……「ダーリン喜ぶかな?」って……痛っ!?パ、パウロさんっ!?痛いですっ!」
ジョウが悲鳴を上げたのは、俺が空いている手でコイツの顔面を鷲掴みにしたからだ。
思わず力が入っていたか、小脇に抱えるディーネはイモ虫の如くジタバタともがいていた。
「ダ、ダーリン……もっと優しく……」
「テメーらっ!!!そこ座れぇぇぇぇぇっ!!!」
建物を揺らす俺の怒声に、ラギルを含めた何人かはそそくさと拠点を飛び出していった。
◎
「……」
固い床に正座する少年と、その頭の上で名実共に小さくなって正座する精霊。
そして、その正面で自分も正座して、雑な講談師のように床をバンバン叩いて話のリズムを刻むパンツ一丁のオッサン。
そんな光景だったのだから、人垣を割ってやってきたシャールが絶句するのも致し方ないことだっただろう。
「ちゃんと責任持って面倒見るってパパと約束したよねっ!?」
「す、すみません!パウ……パパッ!?」
「……何を……やっているんですか……?」
声を出すのも必死、といった感じでシャールが状況の説明を求めてくる。
ババン!と床を叩き、俺はジョウの頭の上を指差した。
「コイツがっ!朝起きたら俺のベッドに潜り込んでやがったんだよっ!人間サイズになってっ!素っ裸でっ!」
「……グスン……ダーリン、喜ぶかと思って……」
「ええ!かもしれませんねっ!人によったらねっ!でも!俺には朝起きたら隣に見知らぬ女、ってのはトラウマなんだよぉぉぉぉっ!!!」
正直言うと、すでに自分でも何を言ってるのか分からない状態になっていた。
手の平ではなく握り拳で床を叩き、口と感情を直結させる。
「そう!あれは忘れもしない!節度を知らない二十歳そこそこのガキの頃っ!記憶をなくすまでベロンベロンに酔っ払った俺は!朝、目を覚ますと見知らぬホテルにいてっ!と、隣には……見知らぬオバチャ……わあぁぁぁぁっ!?」
「……本当に何を言ってるんですか?貴方は……」
あ、ヤベ。
シュッ!と平静になれたのは、冷たく鋭いシャールの気配に水をブッかけられた気分になったからだ。
おかげで目が覚めました。ありがとうございます。
だから、その氷の剣の如き視線で刺すのヤメテ。
落ち着いてみると、他のパーティーメンバー達も不思議生物を見るような目で俺を見ていた。
それでも疑問点を口にしないのは、俺にビビっているからか、はたまた本気でアホだからか。
『パウロ』の評価はどうでもいいのだが、流石に『俺』が少々恥ずかしくなり、「んんっ!」と喉を鳴らして話をまとめに入る。
「とにかく……ジョウはちゃんと『マスター』をやりなさい。自由にさせてやる優しさも大事だけど、締める所はちゃんと締めようぜ?」
「はい……気をつけます……」
「ディーネも、はしたない真似はやめなさい。ちゃんとマスターの言うことを聞くこと」
「はーい……」
「ん、なら良し。さ、これで話は終わりです。はい、解散解散」
立ち上がり、ジョウを立ち上がらせてパンパン!と手を叩くと、まだ腑に落ちないという気配を引きずりながらメンバー達は思い思いに離れていった。ま、でしょうね。
さて、それではそろそろパンイチは卒業しましょうか。
そんな思いで俺はシュタッ!と片手を上げる。
……だが、彼女は俺を許してはくれませんでした……
「……着替えが終わったらすぐに下りてきてくださいね、パウロ……貴方へのお説教は私が行いますので……」
「……う、うっす……」
まるで巨大な氷山を前にしたようなシャールからの圧力に、俺は返事をしながらフイッと目を逸らす。
あっれー?このコ、こんなに『パウロ』に絡んでたっけー?
この後、シャールさんに滅茶苦茶説教されました……
◎
「……シャール……さんって、俺にメチャメチャ当たり強くない?」
「うーん……そうですねー……でも、以前よりずっと仲良くなっているようにも見えますよ?」
「ぶー、私だったら優しくしてあげるのにー」
拠点の奥にある事務室。
空いている事務机について書類に目を通しながらボヤく俺に、ジョウは書類棚を整理しながら笑って答えた。
ディーネは俺の頭の上に寝転がっているようで、妙な振動の正体は足をパタパタさせているからだろう。
横柄なリーダーが地味な事務作業をしながら、今まで冷遇していたEランクの少年と仲良く話をしている。それも、頭に人形のような少女を乗っけて。
そんな光景なのだから、二人の事務員さんが固まるのも仕方ないことだ。
キエルとオーリ。
それがこの四十人からなる大規模パーティーの屋台骨をたった二人で支える事務員さん達の名前だった。
キエルは金色のミディアムヘアの、吊り目から猫っぽい印象を受ける女の子だ。
物語の序盤でシャールと友達のように話していた描写があったので、恐らく同じくらいの歳という設定だと思われる。
が、この子はこのパーティーがボロボロになった頃には、その存在が一切語られていなかった……
見切りをつけてさっさと辞めた、ならいいんだけど……作者の凡ミスで存在を抹消されてたりして……普通にあり得そうで怖い……
もう一人の事務員、オーリは、ブラウンの髪をアップにまとめて黒縁の眼鏡を掛けた、一見地味な感じの女性だ。
だけど、髪を下ろして眼鏡を外すと、一転エロい感じのおねーさんになるらしい。
そしてこのオーリ、実はこのパーティーに引導を渡すキャラでもある。
話の中盤くらいからコツコツ横領を重ね、トドメに残った資産も全て持ち逃げするのだ。
しかし、ネットや感想欄では「作中屈指の頭脳派」だの「キャラは作者の分身……あっ(察し)」だの、結構な好評価を受けていたキャラでもある。
まぁしかし、この二人も被害者ではあるのだ。
パウロが、作者がアホじゃなかったら、真っ当に生きられたに違いないからね。
なら、リーダーがやるべきことは、現場で槍を振り回すことではないだろう。
という判断の下で、俺はこうして椅子に座っているのだ。
……いや、まぁ『現場で槍を振り回せない』というのが本当の理由だけどねー……
仕事の手を止めて呆然と俺の方を見る二人に、俺は怒るよりまず頭を下げる。
「近い内に必ず事務員増やすんで、もう少しだけ辛抱して下さい。サーセン!」
『……』
あまりの出来事だったのか、二人からの返事はなかった。
ホンマ、サーセン!
『俺達からの『賞賛』を受けるジョウは心底嬉しそうで、俺がその頭を撫でてやると、彼の目の端で何かがキラリと光った。』
賞賛は一般的に「金品が絡む褒美」的な意味です。
この場合の「しょうさん」は「言葉にして褒める」という意味の「称賛」が正解ですね。
いやぁぁぁぁぁぁっ!残念だなぁぁぁぁぁぁぁっ!
腹筋出来ないなぁぁぁぁぁぁぁっ!(ゲス顔)
まぁ別件で腹筋百回と背筋五十回やりましたけど……
( ´・ω・`)
今回の間違いは「設定のミス」でーす。
ご新規さんも遠慮なさらず。
返事のない感想欄より楽しいと思いますよー。
( 「 ゜Д゜)「 かかって来いやっ!