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イベント改編開始


無事に一夜を越えて朝を迎え、俺達は水門橋で合流した。

まずは皆揃っての軽い朝食と、今日の予定について最終確認だ。


昨夜、しばらく話をしてから眠ったジョウは朝からスッキリした顔をしているが、たっぷり眠りこけていたはずのディーネはまだ眠そうだった。


シャールとアイシェはすでに準備万端といった様子だが、トッシュ、サラ、エミリーの三人はまだ若干ボンヤリとしている。慣れない街の慣れない宿屋、そして今日の予定も相まって、寝付きが悪かったのかもしれない。


俺は結局一睡もしないまま朝まで自主トレをこなしていたのだが、体調はまったく問題ない。むしろ絶好調なくらいだ。

休憩所に戻ったジョウが気づいて持ってきてくれた、あの差し入れのおかげでもある。


誰の心遣いかはすぐに分かったので、合流したシャールにこっそりお礼を言うと、彼女はちょっと申し訳なさそうな顔で「昨夜はお疲れ様でした」と笑っていた。


……あの差し入れを見つけ、シャールが来ていた事に気がついた時は背筋が冷えたが、幸いにも聞かれるとマズイ話は聞かれていなかったらしい……


「シャールさん、怒ると引くくらい怖いよ」とか「シャールさん、縞パンだったよ」とか、調子に乗ってジョウに喋ってたからなー……

まぁアレを聞かれてたら、十中八九あの場にシャールさんが降臨なされてただろうけど……


昨夜の話は野郎二人の秘密なっ!ジョウッ!



かくして和やかな朝食は終わり、装備を整え、ヴェイルの冒険者達も水門橋に到着して、いよいよ決戦の時は来た。


『尺稼ぎ大水害』と揶揄された意味のない災害は、必ずこの物語(世界)から消滅させる。

これは、ジョウが本当の英雄へと至る第一歩だ。



原作ではこの時間、ジョウ達はヴェイルの港にいた。

ドワルフ島へ向かう船は朝と昼の二便あり、朝の便に乗船する予定だったのだ。


が、そこで街を鉄砲水が襲った。


ちなみにシャールを除くパウロ一味は、この時点ですでに濁流に飲み込まれていた。

ヴェイルの冒険者を引き連れて涸れた川の上流、魔獣が潜む森を意気揚々と目指していたところであのダムが決壊したのだ。


アイシェはともかく、パウロとファイエルの身体能力なら直前で気づいたとしても逃げられると思うんだけど……

ざまぁ役のマイナス補正、酷すぎじゃない?


そして、ジョウはジョウで何をしたかというと……

トッシュ達と手分けして、街の人達を避難させるべく奔走をはじめました……


俺は思った。感想欄の読者(みんな)も思ってた。

「いや、水魔法で何とかしろや」と。


だが原作のジョウは、街に被害が出ているにもかかわらず地道な避難勧告を続け、合流したサラとエミリーが襲いかかった濁流に飲まれそうになった段でようやく水魔法を使ってくれた。

そして、濁流をまるで水の龍のように操作して街を救い、尚且(なおか)つそれを利用して街に迫っていた魔獣の群れすらも撃退してしまうのだ。


なぜ魔獣の襲撃に気がついたのかはまったくの謎ですけどね。作者()の啓示でもあったんじゃないですかね。


こうしてジョウは街の人々からの「す、すごいっ!」という称賛と、その夜のサラとエミリー、ついでにディーネからの「しゅごい!」をまとめて手にする、というわけだ……


あと、パウロ達はジョウが鉄砲水をコントロールしたおかげで何とか生き延びる事が出来ていた。

まぁ、まだまだ『ざまぁ』し足りないから「生き延びさせた」と言う方が正しいのかもしれないが……


この結果、街と港は大きな被害を受け、ジョウ達のドワルフ島行きは延期される事になりましたとさ。

めでた……くねーわ。もうメチャクチャだわ。



そんな悲惨なエピソードを思い起こしながら涸れた川の上流を目指していたその時、森が見えてきた辺りで、俺の耳はイベント開始の合図を捉えていた。

それと同時に、森から鳥達が次々と飛び立っていく。


「……来たっ!皆!ここで止まれ!水が来るぞ!」


すぐさまその場の全員に号令を飛ばし、俺は肩にディーネを乗せたジョウと一緒に川原へと降りる。

事態が動いたらどう行動するかは、すでに打ち合わせ済みだ。

だから皆の動きは素早かった。


ヴェイルの冒険者達は川の北側、上流を見据える俺から見て左手側に展開。南側に人員を配置しないのは、そちらがこれから安全であり、かつ危険な領域になるからだ。

俺から簡単に事情を説明しても、《輝く翼(俺達)》以外は半信半疑の表情だったが。


トッシュとサラはヴェイルの冒険者達の後ろに位置取った。

積極的に参戦するのではなく、戦闘ラインを抜けてきた魔獣がジョウの所へ行かないようにするために。


アイシェとエミリーはさらに後方。俺が偵察の際に見た、飛行能力を有する魔獣を叩く役目を任せてある。

さらにアイシェにはもう一つ、もしもの時は氷魔法で防壁を作るという役目も頼んでおいた。

鉄砲水を完全に防ぐのはまず無理だろうが、川に対して斜めに氷の防壁を作れば多少は流れを逸らす事も出来るだろう。


そして、シャールには俺達が形作る三角形の中心辺りに位置取ってもらった。

その位置なら、どこに不測の事態が起きても即座に対応出来る。


こうして全員の配置が済んだところで、俺はジョウの肩に手を置いた。迫る濁流の音は、もはや誰の耳にも分かる程に大きくなっている。


「それじゃ、任せたぞ。ジョウ、ディーネ」

「はいっ!」

「まっかせて!ダーリン!」

「おう。お前らは鉄砲水にだけ集中すりゃあいい。それ以外の事は俺達に任せろ」


正面を見据えたまま力強く返事するジョウと、こちらを見てガッツポーズを作るディーネに笑いかけ、数歩だけ後退する。


原作の展開を考えると俺がここにいるのはまずいのかもしれないが、退くつもりはない。

彼らを信じ、彼らを守り抜く事が、俺の仕事だ。


そして、森の木々を薙ぎ倒しながら厄災は遂にその姿を現した。

轟音を上げながら、黒く濁った大量の水が津波の如くこちらに押し寄せてくる。


「お、おいっ!やべぇって!!!逃げろっ!!!」


土手の上で誰かが焦り含みの大声を上げるが、それを耳にしても俺は(いささ)かの恐怖も感じなかった。目の前、ジョウの小さくて大きな背中にも、恐怖の影はまるでない。


そして、ジョウはゆっくりと左手を正面に、右手を南西方向に向け、自らに与えられたその力を臆する事なく行使した。


「曲がれっ!!!」


力強いジョウの声が響き渡る。

と同時に、俺達を呑み込もうと迫って来ていた濁流は、まるで人の気配に気づいて逃げる蛇の如く進行方向を変えた。生き物のように土手を這い上がり、そのまま南西へと、海の方へと流れていく。


その異様な光景に、土手の(へり)にまで近づいていたヴェイルの冒険者達は、皆揃って唖然とした顔を並べていた。


どうよ?うちの子はスゲーだろ?

などと親バカ気分でフフン!と胸を張り、邪魔にならないようジョウに声を掛ける。


「そのまま例の排水路に誘導してくれ。ある程度勢いが治まってきたら、あとはこの川に流していいからな」

「はい。大きな石や木は、どこかにまとめて集めておきますね」

「うん、よろしく。打ち合わせ通り、魔獣が出てきたら巻き込んで流してやったらいいからな。魔獣の探知は任せたぞ、ディーネ」

「おっけー!頑張るから、後でご褒美よろしくー。ダーリン」

「はいはい、分かった分かった」


普通なら死を覚悟するような濁流を目前に、そんなほのぼのとした会話を交わして笑い合う。

そろそろ追い立てられるように森から魔獣が出てくる頃合いだろうというのに、こちらを見る冒険者達はまだ呆然と突っ立ったままだった。


はい皆さん、お仕事お仕事。



「ジョウくんの方は心配なさそうですね」

「だな。このまま何事もなく済めばいいんだけど……」


土手の中腹辺りに立っていた俺にシャールが声を掛けてきたのは、戦闘が始まってしばらくしてからの事だった。


呑気に思われるかもしれないが、戦っていないのは俺とシャールだけではない。

トッシュとサラも、アイシェとエミリーも、それどころかヴェイルの冒険者達も半数は戦闘に参加していない状況だ。


この川を境に魔獣の群れも分断されるはずだから、直接叩かねばならない魔獣の数は実質原作の半分程度だろう。

そう予測していたのだが、実際は南側の方に多くが集まっていたらしい。


俺の立つ位置からは多くの魔獣が街に向かっていくのが見えているのだが、その(ことごと)くがジョウの操る黒い水の龍に呑み込まれて消えていた。

ちょっと気の毒な気もするけど……今は無駄な怪我人を

出さずに済みそうだと喜ぼうか。


森から後続が出てくる気配はなく、水の勢いも徐々にだが弱まりつつある。

ジョウにも疲労の色は見えず、状況は順調過ぎるほど順調だった。

それでも俺とシャールが神経を尖らせているのは、いつあの黒化魔獣が出てくるかも分からないからだ。


とは言え、絶対に出てくるという保証があるわけでもなく、見上げる先のシャールは軽く息を吐いて肩の力を抜いていた。


「……今回は取り越し苦労だったでしょうか?」

「んー……そうだな……」


シャールからの問い掛けに、槍を肩に掛けて頭を掻く。

明確な答えなど返しようもないため、俺が返せるのはあくまで『俺の勘』レベルの話だ。


「理由も理屈も、まだまるで分からない話だからな。今回も現れれば、少しは法則も見えてくるかと……」

「……パウロ?」


ふと言葉を切った俺に、シャールは小首を傾げる。


……やはり彼女には、この物語(世界)の人間には感じられないらしい……

この、何かが背筋を這うような、形容しがたい不快感を……


槍を強く握り締め、その場でグッと膝を曲げる。


「……思ってたら……やっぱ来たな」

「えっ!?」


驚くシャールの声を聞きながら思いきり地面を蹴り、跳ぶ。目標は川原に立つジョウ。その直上。


しばらくぶりに感じたあの不快感は、遥か上空から一直線に、ジョウの所へと急降下してきていた。


「させるかよっ!!!」


気配の動きにタイミングを合わせ、目視で捉えた黒い影がつき出す手を槍で受け止める。と、辺りにギィンッ!と硬い音が響き渡った。



さぁ!俺の仕事の始まりだっ!

ジョウ達には指一本たりとも触れさせないっ!


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