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旅の支度は万全に

間空きまくってスミマセン。

そしてヒッソリ投稿……(コソコソ)


「……これは……」

「あ……あー……その節はどうもー……」


稽古の終わり際、師匠宅の稽古場に姿を見せたのは《槍の聖女(テレサ)》だった。

数日前に向けられたあの物理的殺傷力がありそうな『眼刺し』を思い出し、つい尻がキュッ!となる。


が、すっかり様変わりした稽古場の風景に唖然となっているテレサの頭からは、あの乱痴気騒ぎの後始末の事はスッポリと抜け落ちてしまっていたようだった。

心底ホッとして思わず尻の筋肉も緩む。


「テレサか。今日はどうした?」

「い、いえ……様子を、と思い来たのですが……」


稽古終わりのため、左手に俺が使っていた模擬槍を、右手に自身が使っていた模擬槍(主に折檻用)を持った状態で師匠が問い掛けると、テレサはハッとなって(かぶり)を振った。


彼女が呆気に取られたのは間違いなく、俺が作って持ち込んだ数々の器具のせいだろう。

それは言わば、『神鷹天槍流槍士養成グッズ』だ。


物干し台と物干し竿のような物を複数用いて、そこに吊り下げられたいくつもの腕輪。

模擬槍の穂先が通る程の穴をいくつも空けた木製パネル。

その他にも、説明がなければ用途が分からないであろう器具の数々。


これらは全て、俺が考えて手作りしたり、引いた図面を元に職人に依頼して作製してもらったりして稽古場(ここ)に持ち込んだ物だ。

パウロ()の屋敷の裏には試作品が同じようにズラリと並んでいる。


何故こんな物を作りも作ったのか?

それは(ひとえ)に……


「いやー、だって師匠の指導って感覚派過ぎて……「空を舞う鷹が獲物を狙って急降下するように」とか言われても、凡人には何が何やら……だから、『正しい動きを覚えるための器具』を色々作ってみたんだよ」

「ふん!貴様の理解力が乏しいだけであろうが」


肩を落としながらテレサの疑問に先回りして答えると、師匠は不満げに鼻を鳴らした。

「このジジィ」という怒りを笑顔に隠し、俺は慇懃無礼な軽口をお返しする。


「はっはっはっ。俺の知ってる偉い人はこんな事言ってましたよ?子供にも分かるように説明出来なければ、それは正しく理解しているとは言えない、って……おっとっ!」


全てを言い終えるより早く師匠が右手の槍で俺の腹を狙ってきたため、俺はわざと体を『く』の字に曲げて突きを躱す。

両手持ちだったらここから胴打ちを食らっていただろうが、片手突きならこれで十分だ。

稽古終わってまで折檻食らう理由はないですぅ!


悪ノリで『海中で揺らめく昆布』のようにユラユラ体を揺らして見せると、師匠は苦虫を噛み潰したような顔で盛大に舌を打った。


最近の俺と師匠の関係は大体こんな感じだ。

稽古の最中は槍対槍の肉体言語でアツく議論を交わしたりもします。

そんな俺達の様子にも、テレサは唖然となっていた。


「さて、それじゃあ明日の準備もあるんで、俺はそろそろお(いとま)しますね。帰ってきたら稽古の続き、お願いしやすっ!」

「はんっ!貴様が野垂れ死ぬ事を神に祈っておいてやるわっ!」

「はっはっはっ!その時は師匠が泣いて謝るまで枕元に立ちますねー」


あまり煽り過ぎると二槍流で襲いかかってくるかもしれない。

そう危惧してバックステップで距離を取りながら、俺は「さようなら」の皮肉(挨拶)を投げる。

そして、いつもの鋭さがないテレサにも手を振った。


「それじゃ、テレサさんもまた今度。依頼終えて帰ってきたら《明けの明星(シャイン・ゴールド)》の(ネスト)にも顔出すよ」

「あ、ああ……承知した……」

「では師匠、お疲れ様でした。五ノ型『羽々斬(はばきり)』、バッチリ習得して帰ってきます!」

「……はぁっ!?」

「やかましいっ!さっさと帰らんかっ!」


何故か素っ頓狂な声を上げるテレサと、地団駄を踏むように足で地面を叩く師匠。

そんな二人に笑いながら今一度手を振り、俺は駆け出した。


明日はいよいよ出発の日だ。



「……師よ……」


パウロが颯爽と去ってからしばらくの沈黙を破り、テレサが口を開く。

愛弟子(テレサ)が何を言いたいのかをとっくに理解していた師匠(ウォード)は、気まずそうに視線を逸らしていた。


「い、言っておくがな、あやつに槍の才はない。それは紛れもない事実だ」

「で、では何故……?」


この短期間で五ノ型の習得に挑んでいるのか?

テレサのそんな言葉にならない言葉を汲み取り、ウォードは一つ息を吐いた。


神鷹天槍流には一から九までの九つの型が、そして秘奥である『(つい)ノ型』が存在する。

師は弟子に一から順に型を伝授していき、師が認めれば次の型の伝授に移る、というのが基本の流れだ。


つまり、パウロ=D=アレクサという男はこの短期間で、たった数週間にも満たない時間で一から四までの型を修めた、というのだ。

それは神鷹天槍流史上最高の天才と称されたテレサにとって、それどころか自ら教えの槍を振るっているウォードにとってすら信じ難い事だった。


才ある者でも一から九までの型を修めるのに十年はかかる。そして『(つい)ノ型』、即ち皆伝に至る者はその中でも一握りだけ。

それが神鷹天槍流という流派なのだから。


「才はないが、あやつはひたすらに儂の動きを見て、常に止まる事なく考え続けておるのだ。そして儂では思いもつかないような発想で、あっという間に正しい動きを身につけおる」

「で、ですが、それは上辺だけのものなのでは?」


感心と呆れが()い交ぜになったような表情を浮かべるその姿に、テレサはわずかばかりの嫉妬を抱いて一歩詰め寄る。

そんな弟子の様子に、ウォードは微苦笑を見せた。


「それはあやつも分かっておるのだろう。だから正しい動きを身につけた上で、さらに儂と自らの差異を徹底的に洗い出していく。今更ながら、然りだ。形だけでも正しい動きを覚えてからの方が、わずかな違いにも気づきやすいのだな」


実のところ、先程パウロが言った言葉はウォードにとって痛い所を的確に突く言葉だった。

だから思わず槍で突いてしまっていたのだが。


「儂は今まで、儂が会得した理合を、『理解』をそのまま押し付けてしまっていたのだな。全ての者がお前のように天賦の才を持つわけではない。儂は初めて槍を手にした日の事をいつしか忘れてしまっていたようだ」

「師匠……」


自らを恥じつつ、しかしやけに晴れ晴れとした笑みを浮かべる師に、テレサの表情も綻ぶ。

師が再び槍を手にする可能性が万に一つもあるのならとパウロをここへ(いざな)った本人ですら、こんな結果はまるで予期出来なかったものだ。

そして、そんな師の意外に子供っぽい一面を知る事も。


「まぁ……あやつにはこんな事、口が裂けても言わんがなっ!」

「師よ……」


一転、キッと険しい顔になった師の元気な様子に、テレサは思わず苦笑いを漏らしていた。



稽古からの帰り道、俺は旅の準備の総仕上げに雑貨屋を覗いていた。

必要な物は概ね用意したのだが、まだ何か見落としがあるかもしれないからね。


この手の作品には珍しく、この物語(世界)には『アイテムボックス』的な能力や道具は存在しないため、荷物は全て自力で持ち運ばなければならない。武器や防具だけでもかなりの荷物だ。

そのため、荷物は厳選しなければならないし、現地調達が可能な物は現地で、というのが旅の基本となる。


それでも俺がこうして雑貨屋を覗いているのは……ちょいと恥ずかしい話だが『子供(ジョウ)達とのお出掛け』に年甲斐もなくウキウキしてしまっていたからだ。


もちろん遊びに行くわけではないし、話の流れ(シナリオ)の都合上戦闘も起きるだろう。

黒化魔獣も出てくるかもしれないし、原作とは違う行動をする以上俺も知らない未来が必ず待っている。


しかし、やはり楽しみに感じる部分もあるのだ。

ドワルフ島には確か温泉もあるしね。


程好い緊張と程好い余裕。

旅を楽しみつつも為すべき事をキッチリと為し、皆で無事に帰ってくる。


様々な雑貨を見回し、ちゃんと準備が済んでいる事を再確認しながら、自身の心の整理も出来ている事を確認する。


だが、まだ一つだけ整理しきれていない問題があったようだ。

それは『俺の』というより『彼女の』問題なのだが……


「ここでしたか、パウロ……」

「ん?」


背後から掛けられた覇気のない声に振り向くと、そこにはいつの間にか暗い表情をしたシャールが立っていた。

俺が拠点に戻る前に接触しようと俺の帰り道を逆に辿っていた途中この雑貨屋で俺を見つけた、といったところだろうか?


明日の出発までに、彼女はもう一度俺に話をしてくるだろう。

そんな予感はずっとあった。というか、この子はずっとそんな顔をしていた。

数日前、「今回の件にシャールは同行させられない」と理由付きで話した日から、ずっと。


それでも、やはりため息は漏れてしまっていたが。


「……ふぅ……とりあえず、場所を代えようか?」

「……はい……」


シャールのか細い返事にオッサン心がズキリと痛む。


この子は、ずっと俺に力を貸してくれた。今回も「力になりたい」と言ってくれた。

だけど……今回ばかりは流石にダメだ。


シャールが同行してくれるなら、こんなに心強い事はない。

きっと今の彼女ならば原作のように下手を打ったりはしないと思う。注意すべきポイントが分かっているのなら尚更に。


それでも俺が彼女を同行させられないと判断したのは……


原作『ボク耳』でシャール=エルステラは、ドワルフ島でのアクシデントにより命を落としかけるからだった……


「ドワルフ島の『鍛治』ギルドとは繋がりを持っておきたいし」


金属加工の『かじ』は『にすい』の『冶』ですね。

アッシはかなり最近まで『鍛治』だと思ってました。だって、普通に変換したら『鍛治』出てくるし……


はい、嘴さん正解でーす。

腹筋しましたよー。

間空きまくってるせいで罰ゲームと関係ない筋トレの方が回数多いんですが。


ク〇ラノベと言えば『〇〇の型!』という事で『型』を出してみました。

『技』と『型』は別物、とは言っても『〇〇の型』みたいなのはやはり厨ニ心をくすぐる響きだよなー、と(笑)

ク〇ラノベなので『〇〇の呼吸!』でも良かったんですけどね(笑)


中途半端な五ノ型の技名を出したのは、終ノ型のヒントの意味もあったり……(ボソッ)

ぶっちゃけ六以降まだ考えてないんで、その内アイデア募集します(笑)


今回の仕込みは誤字とも誤用とも言える部分です。

漢字の選択ミスですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 槍の型で剣の名前ってーことは、薙ぎ払いの型ですかね じゃあ、終はあれですね、上中下の三段切り(月並感)(いや『月並み(普通)』ではなく)(ムーン並) もしくはアメノヌボコとか?厨的にはむ…
[気になる点] では御指名により…… >とりあえず、場所を代えようか? 場所の場合は、『変えようか』が正しいそうですがいかがでしょうか……?
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