新たな『イベント』の始まり
明けまくっておめでとうございます。
間空いて本当に申し訳なく……orz
今年もどうぞよろしくお願いします。
( ´∀`)ノ
ある日の夕方、いつものように賑わう拠点内。
事務室から出た俺は、騒ぐ皆に向けてパンッ!と大きく手を打ち鳴らした。
雑談をピタリと止め、全員がこちらを見てくれる。
いつもなら、稽古から戻った俺はラウンジにいるメンバーと軽く挨拶を交わし、事務室でその日の報告を受け、あとは皆に混じって軽く一杯やりながらバカ話をする。
この日、そのルーティンが崩れたのは、オーリ経由でギルドから届いた報告を聞いたからだった。
それは俺がギルドに頼んでいた、『とある場所』で『何か』が起きたらすぐに伝えて欲しい、という曖昧なお願い事に対するアンサーだ。
「楽しんでるところ、ゴメン。そのままでいいからちょっと聞いてくれるか?」
「あ?なんかあったのか?」
ジョウ、トッシュ、ラギルの三人と同じテーブルにつき、仰け反るように椅子の背もたれにもたれ掛かりながらファイエルが聞き返してくる。
行儀の悪いファイエルに頷いて応え、チラリとカウンターに一人で座るシャールを見ると、彼女はわずかに暗い表情で目を逸らしていた。
読者を除けばこの中で唯一人『これから何が起きるのか』を知っているシャールに若干の申し訳なさを感じつつ、俺は話を再開する。
「先日、ドワルフ島で大きめの地震が起きて山のあちらこちらが崩れたらしい」
ドワルフ島。
それは、この王都レクシオンの西、平野を越えたその先にあるユーグ海に浮かぶ孤島の名前だ。
俺が何を言いたいのかまだ分からないらしくザワつく皆に、さらに話を続ける。
「皆知ってるだろうが、ドワルフ島は質の良い鉱石が採れる採掘と鍛冶の島だ。だけど、今ある鉱床は採掘量が年々減少しているらしい。そこに今回の山崩れだ。山が崩れれば新たな鉱床が発見される可能性がある。恐らく冒険者ギルドにも探索の依頼が入るだろう」
仮定の話として話してはいるが、これはほぼ間違いなくこの通りとなるだろう。
原作設定を思い起こしながら、俺がどうしてこの話をしているのかを皆に伝える。ただし、これはあくまで表向きの理由なのだが。
「これは知らない子もいるだろうけど、新たな鉱床を最初に発見した者は採掘量に応じたマージンを継続的に貰えるんだ。あの島は竜鉱が、主に地竜鉱がよく採れる所だから、大きな鉱床が見つかれば……ぶっちゃけかなりの金額が転がり込んできます」
わざと悪どい顔をして、イヤらしく指で丸を作って見せると、皆は楽しそうに苦笑していた。
地竜鉱とは、圧倒的な硬度を誇る代わりにかなりの重量がある鉱石、らしい。
軍事的な方面で重宝される素材であり、力自慢の冒険者等は武器や防具の材料として使う事もあるという。
原作では、この時点で資金繰りが悪化してきていた《輝く翼》を立て直すために、パウロはシャール、ファイエル、アイシェの三人を半ば無理矢理引き連れてドワルフ島を目指す。
そして、新パーティーを立ち上げたばかりのジョウ達も。
だが、正直なところ今の《輝く翼》は資金面において全く心配はない。非常に健全経営の状態だ。
それでも俺がドワルフ島へ行こうとしているのには、ある理由があった。
それは、あの島にはジョウと契約する新たな精霊が、『大地の精霊ノーム』がいるから、だ。
それを知りながらも俺が予定を早められなかったのは、ノームが山崩れによって見つかった新たな鉱床の奥にいる、という設定だったからである。
つまり、『地震による山崩れ』というイベントが発生しないと目的地に辿り着けない仕様になっていたわけだ。
しかし、ここからは後手に回る必要はない。
この物語の先を知っている俺ならば、対応を間違えなければ余計なイベントをすっ飛ばして隣国との争いを終わらせる事が出来る。
そのためのロードマップは、既にハッキリと見えていた。
「新たな鉱床を発見すると言っても、普通なら簡単な事じゃない。かなり博打の要素が強い、一攫千金の宝探しみたいなもんだ。だけど……《輝く翼》にはこういった探索に滅法強い、優秀なヤツがいるからな」
そう言って、ニッと笑いながら俺は『彼』を見る。と、全員の視線も一気に『彼』へと注がれていた。
皆の視線を一身に浴びて、ジョウは恥ずかしそうに身を縮ませる。
「あ、あう……」
「そうか、お前の『神の耳』なら小動物や虫の話を聞いて……お前、マジで凄いヤツだな……俺は本当に馬鹿だったよ……」
「そ、そんなことないですよっ!?前までのボクは皆さんに守られてばかりだったし……!」
今さらながらに『探索能力に優れている』という事がどういう事なのかを理解したのか、ラギルはハゲ頭をピシャリと叩いて項垂れる。
そんな男に、ジョウはワタワタしながら必死のフォローを入れていた。
ラギルは少々卑屈になり過ぎのきらいもあるが、互いの力を理解して互いの役割を尊重出来るようになったのは、パーティーとしては大きな進歩だ。
だから、俺は安心してしばらくこの拠点を留守に出来そうだった。
「というわけで、ドワルフ島の探索にはジョウ達に行ってもらう予定なんだが、今回は俺も同行しようと思うんだ」
『えっ!?』
シャール以外の皆からすれば、俺の発言は想定外のものだったのだろう。揃って驚きの声を上げる。
金に困って一発逆転を狙った原作展開ならいざ知らず、普通は戦闘系のパーティーリーダーが自ら出張るような案件ではないのだから。
理由は当然ジョウを守るため。そして原作シナリオを越える動きをするべく、ジョウ達を導くためだ。
が、それを素直に言うわけにもいかず、俺は事前に考えておいた『それっぽい理由』を皆に披露した。
「新しい鉱床が見つかれば色々と手続きが必要になるからな。それに、ドワルフ島の鍛治ギルドとは繋がりを持っておきたいし。なら、俺が直接行った方がいいと思ってな」
俺の嘘理由に、「あぁ、なるほど」といった空気がラウンジに広がる。
それに申し訳ないと思いつつ、勘繰る事をしない素直な仲間達に感謝しつつ、俺は再び手をパンッ!と打ち鳴らした。
「出発は依頼を受けてからだが、恐らく明日明後日には冒険者ギルドに探索依頼が届くだろう。ジョウ、トッシュ、サラ、エミリーは、早速明日の内にでも準備を済ませておいてくれ」
『はいっ!』
「ダーリンッ!私はっ!?」
「あー、はいはい、ディーネさんも準備よろしく。予定としては……十日ってところかな?大荷物にならないよう、必要な物だけ用意しとくように。話は以上だ」
元気良く返事するジョウ達と、サラ達のいるテーブルで抗議の挙手をするディーネに苦笑で応じて、俺は話を締める。
それでラウンジはまたワイワイとした喧騒を取り戻していた。
本当ならば依頼の受注を待たずに《輝く翼》独自で動いた方が早いのだが、それをすると恐らく俺達はドワルフ島からすぐに戻って来られなくなる。
この国からドワルフ島へ向かう唯一のルートである臨海都市『ヴェイル』で、まず一悶着が起きるからだ。
原作『ボク耳』ではそのせいでドワルフ島へ向かうのが二週間程遅れる事になり、その二週間程で余計な戦いも起きる。
ジョウが強くなるためのイベントならショートカットするのは一考の余地ありなのだが、俺の記憶が確かならいつもの「ジョウくん、すごいっ!」イベントだ。
ならば無駄な戦いは避けた方が余計な被害を出さずに済むし、その時間を中身のある修行に当てる事も出来る。
俺が小さな粗も見落とす事なく、細心の注意を払ってジョウ達を導けば、きっと無用な戦いを回避してまたここに戻って来られるだろう。
ただ一つだけ、不安な要素があるとしたら……
「……んー……」
賑やかなラウンジ内を眺めてから視線を『彼女』に移し、俺は腕を組む。
皆の明るい雰囲気とは真逆に沈んだ様子のシャールは、俺の視線に気がつくとすぐに顔を逸らしていた。
……彼女には前もって伝えておいたのだが、シャールには今回の一件から外れてもらっていたのだ。
俺の事情を全て知っているシャールに同行してもらえれば、本当はこれ以上ない程に心強い。
きっと今の彼女なら、事前に危険なポイントを伝えておけば上手く回避してくれると思う。
だけど……それでも彼女を連れていくわけにはいかないのだ。
何故なら原作『ボク耳』で『シャール=エルステラ』は……ドワルフ島にて……
「……ふぅ……」
シャールに助けを求められない不安、上手くジョウ達を導かなければならないという重圧に、思わずため息が漏れる。
だけど……進まなければならない。
進む以外の選択肢は存在しない。
またこの場所に戻ってきて皆と笑いながら騒ぐために、俺は一人手の平に拳を打ちつけ、覚悟を新たにしていた。
「やはりしっかりとした方に『師事を仰いだ』のは正解だったようですね」
『師事を仰ぐ』は『師事する』と『指示を仰ぐ』がゴッチャになった間違いですね。
くるぐつさん、正解でーす。
腹筋しましたが、正月の間にダルンダルンですわ。
二人目の精霊ちゃん登場を匂わせてますが、登場はもうちょい先になる予定です。
一発ク〇ラノベネタを挟みつつ、真面目な話を挟みつつで。
そうそう、またレビューを頂けました。
「おーきなのっぽのふるどけい!」さん、素敵なレビューをありがとうございます!
励みにさせていただきます!
是非感想欄でも絡んでやってくださいな。
m(_ _)m
今回の誤字は……『とある方』がやった誤字ネタをパクらせていただきました(笑)
ク〇ラノベですからねっ!パクりますよっ!
 




