酒と涙と男と男
大騒動になった日の夜。
俺は以前バレルとラインズの二人と約束していた飲み会を急遽開く事にした。
急な話に二人は戸惑っていたが……残念!二人とも強制参加でーす。
何故ならこれは、当初の予定である「二人を労う会」ではなく……「皆が俺を労う会」になったからだっ!
会場は、郊外にある《吠える狼》の拠点。
ここを会場に選んだ理由はただ一点だけ。
《吠える狼》は女っ気がまったくないパーティーだからですっ!
それ即ち!心が傷ついた今の俺にとってはまさに楽園っ!心のオアシスッ!
《輝く翼》からの参加は、主催者&主賓の俺、酒さえ飲めれば何でもいいファイエル、逃げ遅れたところを俺に捕獲されたラギルの三名だ。
ジョウやトッシュはこんな汚い大人の集まりに来ちゃダメ。
今夜《吠える狼》の拠点は……地獄と化すだろう……
というわけで、狂乱の一夜は幕を開けた。
◎
「おらー!飲んでっか!?テメーらっ!」
『うぃぃぃぃぃすっ!!!』
ジョッキを掲げてお伺いを立てると、《吠える狼》のむさ苦しいパーティーメンバー達はノリ良く応えてくれた。
そんな仲間達の様子に反し、前フリなく自分の巣を宴会場に使われたバレルの表情は曇っていたが。
しけたツラしてんじゃねーよ、熊。
熊よりさらに表情が死んでいるのはラインズだ。
その小綺麗な格好も、持参したメチャクチャ高級そうな数本のボトルも、この場にまったく合っていない。
西部劇に出てくるボロいバーのようなこの拠点には、紙パック酒やワンカップの方がむしろ似合いそうである。
そんなクッキリとした温度差のある拠点の中、俺は『俺が楽しむため』に、バレル達と同席するラギルのハゲ頭をペチペチと叩いた。
「おらー。飲んでっか?ラギルゥ?」
「酒クッサッ!?リ、リーダー……ちょっと飲み過ぎじゃないっすか?」
「あんだとー?俺の酒が飲めねぇってのか?」
「言ってねぇし酒の席で一番嫌われるヤツ!」
ウザ絡みにも律儀に付き合ってくれるラギルの頭を抱え込み、ゲラゲラ笑いながらハゲ頭に噛みつくと、ラギルは「やめろぉぉぉぉっ!?」と絶叫していた。
一齧りしたラギルをポイッと放り出し、今度はバレルに絡む。
「へいへーい?元気がないぞー?バレェェェル?俺を後悔させるくらい飲みなさいよ?ああん?」
「……おい、顎ヒゲ触んな……イテェッ!?抜くなっ!」
触るなと言われたのでヒゲを抜いて遊ぶと、バレルは怒鳴り声を上げる。
その隣ではファイエルが、ラインズが持ってきた高そうな酒の栓を遠慮なく抜き、躊躇なくラッパ飲みで飲みはじめていた。
「あああっ!?なんて飲み方をっ!?それは味と香りを楽しみながら少しずつ飲むものでっ!」
「ウメーな、この酒。そっちのもくれよ」
「最悪だっ!《輝く翼》のメンバーは最悪だっ!!!」
一瞬で一瓶を空にしたファイエルが「おかわり」と手を差し出すと、ラインズは持参した酒を抱え込んでテーブルに突っ伏す。
その様子を肴に、俺はゲタゲタ笑いながらジョッキの中身を一気に飲み干した。
いいぞファイエル、もっとやれ(笑)
俺とファイエルの自由さに、バレルはうんざりした雰囲気で嘆息する。
「お前……なんで今日はまたそんな面倒臭い感じになってんだ……?」
「んー?まぁ……色々あってだなー」
犬にするように顎を優しく撫でながら答えると、熊オッサンは鬱陶しそうに俺の手を振り払った。
舌打ちしてバレルの隣に座り、空になったジョッキに度数が高いだけの安酒を手酌で注ぐ。
今の俺にはこの安酒のチープな味がたまらねぇぜ!
と、そこで俺は、原作『ボク耳』でチラッとだけ見た『ある設定』を思い出していた。
「……そういやバレル、お前って嫁と子供いるんだっけ?」
「忘れてたのかよ……ああ、いるぞ。だから早く帰りてぇんだけどな……」
言葉で紹介されてただけの存在だが、確か年下の美人な奥さんと7歳くらいの娘、だったはずだ。
本気で帰りたそうなバレルを横目に、俺は安酒を一口飲む。
「やっぱ幸せな感じ?熊オッサンのくせに?」
「……テメェ……ああ!そうだよ!幸せだよ!羨ましいか?」
俺の言葉に顔をひきつらせたバレルは、それから鼻を鳴らして胸を張った。
そんな酒が不味くなる話に「ふぅん……」と返し、俺は小学生がするように前後逆の形で椅子に座り直す。そして、熊の仲間達に向かって右手を上げた。
「バレルん家知ってる人ぉー、手ぇ上げてー」
俺がそう問い掛けると、ギルメン達はざわつきながら互いに顔を見合わせ、やがて半数くらいが手を上げてくれた。
ポカンと口を開く熊の隣で、俺は手を上げた彼らにニチャリとした笑顔を見せる。
「よっしゃ。誰か今からバレルの家に案内してよ。奥さんと娘さんに挨拶してくるから……「旦那の浮気相手でぇす」って」
「……ラリッてんのかっ!?テメェェェェェッ!?」
瞬間、床を踏み抜かんばかりに立ち上がったバレルは俺の襟首を両手で掴み、軽々と俺の体を吊り上げていた。
だが、俺は顔を真っ赤にしている熊に「フヒヒヒ……」と笑いかけてやる。
「俺ぁよぉぉぉ……いっそ「男好き」って噂が立った方が楽になれんだよぉぉぉ……一緒に地獄に堕ちようぜぇぇぇ?バレェェェル?」
「ふざけんなオラァァァァァッ!?」
ガクガクと揺さぶられ、往複ビンタを食らう。
それでも俺は歪んだ笑みを絶やす事はなかった。
だって、俺は今『無敵の人』だから。
どよめく拠点の中、俺の壊れた様子から何かを悟ったか、バレルは慌ててある方向を指差した。
示すその先にいたのは、抱え込んだボトルを強奪しようとするファイエルと熾烈な攻防を繰り広げていたラインズだ。
「道連れが欲しいならアイツにしやがれっ!!!髪長ぇからちょうどいいだろうがっ!?」
「……は……はぁぁぁぁぁぁっ!?」
突然のご指名にラインズは一瞬動きを止め、その隙を見逃さずファイエルはボトルを一本奪取する。
確かに熊オッサンより金ピカとの『危険な噂』の方が周囲は盛り上がるだろう。しかし、俺はその提案にいまいち乗り気ではなかった。
何故ならば……
「えー?アイツ独り身じゃん?お前より失う物少ないだろうし……」
「こんのクズ野郎がぁぁぁぁぁっ!!!」
「そんな理由っ!?あっ!?いえっ!そ、その通りですよっ!うん!」
思わずツッコミつつも、俺の言葉に乗っかった方が災難を回避出来ると即座に判断したのだろう。残りのボトルを抱えたままラインズは何度も頷く。
が、俺を「クズ野郎」呼ばわりしながらも、この熊も十分に「クズ野郎」だった。
「おう、心配すんな。アイツ、婚約者いるからよ。メチャクチャ美人の、いいトコのお嬢様だ」
「バレェェェルッ!?」
「ラインズくーん、あーそーぼー?」
「あああああああっ!?こんな所に来るんじゃなかったぁぁぁぁぁっ!!!」
頭を抱えて絶叫するラインズと、その隙に全てのボトルを強奪するファイエル。
デカい図体のラギルは必死に空気になろうと頑張っている。
ようやくバレルから解放された俺は、満面の笑みでラインズのそばに椅子ごと躙り寄った。
「まぁまぁ、心配すんなって。天井のシミ数えてたら終わるから………………お前の人生が……」
「終わらせてたまるかぁぁぁぁぁっ!?」
囁くようにそう言うと、ラインズはテーブルに激しく拳を叩きつける。
いいねぇ、ツッコミにキレがあるねぇ。
そんなラインズの肩をバシバシ叩きながら、俺はわざと悲しそうな表情を作った。多分半笑いの状態になってたと思うけど。
「まったく……キミ達には友達を想う気持ちってものがないのかね?俺が不幸なのに自分達だけ幸せって、不公平だと思わない?」
『言ってる事がまるで理解出来ないっ!!!』
仲良く声を合わせ、息を合わせ、バレルとラインズは同時にテーブルを叩く。
その様子に「ウヒャヒャッ!」と大笑いしながら、俺はジョッキの中身を一気に喉の奥へと流し込んだ。
あー、安酒が美味しい。
◎
翌朝、俺達は警備兵の詰所で目を覚ました。
なんでもあの飲みの場にいた全員が、街のあちこちにパンイチの格好で転がっていたらしい。
昨夜の記憶は途中でプツリと途切れているため、いったい何が起きたのかまるで分からないが。
バレル達《吠える狼》の面々を迎えに来たのは若い美人さんだった。どうやら彼女がバレルの奥さんらしい。
パンイチの荒くれ者どもがシュンとなって説教を食らう光景は、なかなかに面白い見せ物だった。
ラインズを引き取りに来たのはテレサだ。
剣呑な気配を纏う美女に優男が淡々と説教されるという様は俺の心に平穏を与えてくれたが、刺すような殺気をこちらにも向けられたため差し引きゼロで……
で……《輝く翼》の回収に来たのは……シャールさんでした……
説教の前に何故か俺だけ頭をひっぱたかれた……不公平だ……
年下の女の子にガッツリ怒られ、ラギルは乙女のように半泣きになっていたが、ファイエルは耳をほじりながら欠伸をするだけだった。
そんな心の強さが俺も欲しい……
とまぁ、ヒドい締めくくりとなったのだが、男だらけの乱痴気騒ぎは楽しかった。
やはり騒ぐ時はとことんハメを外さないとね。
きっとこれで俺達の友情もグッと深まった事だろう、うん。
まぁ……それから数日、熊オッサンと金ピカは会いに行っても顔も見せてくれなかったが。
キエルちゃん情報『綱』によると、かなり信憑性のある噂だって……
はい、『網』じゃなくて『綱』ですねー。
つな!しゃけ!おかか!ですねー。
嘴さん、正解でーす。
ホント、よくすぐに分かるもんですなぁ。
今回の話は昼に投稿する話じゃないすね、うん(笑)
年末、仲間内で集まると大体毎年こんな感じです。今年は皆帰ってこられないと思うので、代わりに。
嫁の浮気で離婚して二年くらい前に再婚した友達に「今度はいつ離婚すんの?」「次の嫁はどこに不倫旅行行くの?」って聞いて、今年も掴み合いしたかったなー……
若いコがこれ見てるかは知らないけど、男なんて40、50になってもこんなモンだからなっ!?
「歳食ったら大人になる」とか幻想だからなっ!?
はい、今回も誤字仕込んでまーす。




