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強くなるために


トッシュとエミリーは、それぞれ別々の場所で修行を開始しているはずだ。


トッシュの先生役は、多少……いや、結構な不安はあったが、ファイエルに頼んだ。


ヤツは人に技術を教えられるようなタイプではないのだが、今トッシュが鍛えるべき箇所は剣技ではない。

古臭い言い方になるが、トッシュが鍛えるべきは『根性』だ。

それにはファイエルの暑苦しいまでの性格がうってつけだった。


トッシュの特殊能力(スキル)は『憧憬の一撃(ウィッシュ)』という名で、その力は『信じた想いの強さをそのまま一撃に込める事が出来る』というものだ。

原作終盤の辺りではその熱血っぷりを剣に乗せ、『爆発する剣撃』なるものを放っていた。


しかしだ、俺は原作『ボク耳』を読んでいた時から、この特殊能力(スキル)にはもっといい使い方があるんじゃないかと思っていた。


とは言え、まずは自分の力を、自分の可能性を強く信じられる心がないと何もはじまらない。

だからその辺りを鍛えるために、俺は彼をファイエルに預けた。

あの二人の性格は割りと相性が良い……と思う……多分……きっと……


一方エミリーは、原作ではやがて『魔法弓士』なる存在へと成長する。

その名の通り魔法を使える弓士で、(やじり)に魔法を乗せ、射た相手の内部で魔法を炸裂させるというエグい戦法を使うようになっていった。

それを早めるべく、今はアイシェやエーデル達、先輩魔術士に預けている。


エミリーの特殊能力(スキル)は『神隠れ(ピーカブー)』という名で、その能力は『自身の気配や存在感を完全に絶つ』というものだ。

普通に考えれば既にブッ壊れスキルであり、彼女の弓の腕前と合わせればシモ・ヘイへもビックリの狙撃手(スナイパー)となるだろう。


が、原作では隠密行動の場面で多少使っただけで、戦闘の際にはまったくこのスキルを使っていなかった。

まぁ絵面的に映えないのは分かるんだけど……


なので、エミリーは早い段階で魔法を習得させてスキルの活用法を教えれば、それだけで一気に強くなれるだろう。


そして、もっとも重要な主人公(ジョウ)の修行は……



「どうだ?ジョウ」

「あ、ダーリン……」

「パウロさん……その……」


訓練場の隅の方にいたジョウとディーネに近づくと、二人は俺を見て伏し目がちになっていた。

その反応で実験の結果を知り、つい苦笑する。

出来なくても別に気にしなくていいと言っておいたんだけど。


「すみません……感覚的には出来そうな気もするんですが……」

「うん……でも、自分が自分でなくなっちゃうような感じが怖いって言うか……」

「ああ、いいって。俺の思いつきなんだから。気にすんな」


合わせたジョウの両手の上にペタンと座るディーネの頭を指で撫で、それからジョウの頭もグリングリンと撫でる。

まぁ俺が試させていたのは俺の思いつきなどではなく、実際はハメ太郎(ジョウ)が原作終盤で編み出した精霊魔法の究極形なのだが。


究極の精霊魔法、『神精合体』という名のその技は、ディーネ達精霊と一体化する事でジョウ自身が精霊化する、というものだ。

『合体』という単語をこの子達の前で口にしたくなかったので、俺は『合一(ごういつ)』という名前を提示させてもらったけど。


当然の事だが……


「『神精合体』!ゴー!アク……ゲフンゲフン」

「ンぎもぢぃぃぃぃぃっ!」

「『人精』じゃなくて『神精』とは……ハメ太郎は神となったのか……」

「ボク自身が……水になることだっ!!!」


……などなどと、アチコチでイジられてたもんだ……


しかし、この技を習得出来れば、ジョウは物理無効のチートキャラになる。このメリットは大きい。

だが、俺は「恐らく無理だろう」と最初からほぼ諦めていた。

何故なら、この技を成功させる条件というのが……『体ごと溶け合うような心の一体感』だからだ……


……はい、そうです……要するに、毎夜の如く「アハン、ウフン」とヤッてたから可能になった技、というわけだ。


だから正直、出来なくてホッとしたという気持ちも強い。

それに、究極の精霊魔法などと大層な看板を掲げてはいたが、原作では大して使用されなかった技だ。出来なくてもそう問題はないだろう。


なので俺は二人の意識をさっさと切り換えさせる事にした。

本題はここからなのだから。


「ま、思い出したらたまに心を合わす練習したらいいよ。もしかしたらその内出来るようになるかもしれないし。で、こっちが本命なんだけど」


手を鳴らして二人の顔を上げさせ、そして俺は自身の左胸を人差し指でトントンと叩く。

きっとこちらは上手くいくはずだ。なんせ原作のジョウは戦闘中の思いつきで、ぶっつけ本番で成功させていたのだから。


「人体のほとんどが水、ってのは知ってるよな?」

「あ、はい」

「じゃあ、全身の水を、血を魔法で強化すれば、体の機能を強化出来るんじゃないか?」


俺がそう言うと、ジョウとディーネは「あっ!?」と声を上げた。


まぁ元はジョウ本人が考え出したもので、逆輸入のような形になってしまったのは心苦しい部分もあるが、何も言わなかったらこの技の登場はもっと先になる。

俺やシャールがいない所であの黒化ゴブリンのような魔獣に再び襲われる可能性を考えたら、この技の習得は何よりも優先すべきだろう。


「……やってみます!」


ディーネと顔を見合わせてから、ジョウは力強く頷いた。

そしてディーネを自分の肩に移動させ、拳をグッと握って目を閉じる。


確か原作では……


「心臓からはじめて、大きな血管から末端の毛細血管に至るまで力を張り巡らせるイメージで……って感じなんじゃないかなー?」


つい断定的なアドバイスをしてしまいそうになり、言葉を濁すと、ジョウは目を開けないままで頷いて応えた。

心臓や血管に負担がかからないかと考えるとハラハラするが、今は静かに見守ろう。


「……ふぅぅ……」とゆっくり呼吸しながら、ジョウはこれまで外に向かって放出していた力を体内で練り上げる。

その力の圧が鈍い俺にもハッキリと分かるくらい大きくなったその時、ジョウの手や顔、露出した皮膚の表面に、赤い炎を模したタトゥーのような紋様が浮き上がってきていた。


原理はサッパリ分からないが、これは『ボク耳』のジョウがこの技を使用した時に出現させていたものと同じものだ。

つまり「成功した」という証である。


……古い人間(オッサン)としては子供がタトゥーを入れたようでちょっとショックなのだが……ま、まぁ、技を解除したら消えるし……


「……で、出来……た……?」

「マスター!すごいっ!出来てるよっ!」


目を開け、自身の手の平を眺めながら呟くように言うジョウに、ディーネは宙を舞いながら称贄の言葉を贈る。


原作でも、ジョウはいつもこの手の新技をぶっつけ本番の一発勝負で見事成功させていた。

ご都合主義だから、と言ってしまうとそれまでなので、ここは「実はジョウは才能溢れる少年だった」としておこう。


が、しかしだ。


「出来ました!パウロさん!」

「よし!落ち着け!まだ動くな!」

「えっ!?」


歓喜の表情でこちらに駆け寄ろうとしたジョウに掌を見せ、まずはその動きを押し止める。

多分あのままジョウが俺の方に走り出していたら、俺は彼にハネ飛ばされ、キリモミ大回転で空を飛んでいたんじゃないかな?


これもまたお約束だが、原作ジョウもはじめはこの力を上手く使いこなせなかった。初使用時は使いこなせてたのにねー。


だからこの力を我が物とするために訓練するのだが……制御出来ない力に振り回されてアチコチに突っ込み、公園の木々や設備を薙ぎ倒すわ街の建物を破壊するわ、散々やらかすのだ。

それでもジョウの評価は下がるどころか上がるのだが。


まぁこの訓練場内なら多少物をブッ壊しても構わないのだが、今のジョウはそれを気に病んでしまうだろう。

そのために、俺はどう訓練するかも考えておいた。


「まずは街の外のだだっ広い所で試してみたらいいよ。急に身体能力が上がるとまともに動くのも難しいだろうから」

「は、はい。分かりました」

「あとは柔らかいボールを投げたり蹴ったり、その状態で紙に文字を書いたり。そんな感じで繊細な力の使い方を覚えていったらいいんじゃないかな」


そう告げると、頷いたジョウの体からはあの紋様が消え去る。

素直に言う事を聞いてくれる少年に笑いかけながらその頭を撫でると、彼は嬉しそうな顔でこちらを見上げてきた。


「あの、この魔法の名前は何て名前にしたらいいですか?」

「ん?んー……そうだな……」


ジョウから問われ、顎に手をやって考える。

確か原作では『紅血纏鎧装』みたいな字にブラッディ……なんちゃら、というルビを振っていたはずだけど……


徐々に空に向けて顔を上げながらしばし悩み、そして俺は再びジョウと顔を見合わせた。


血装(けっそう)……で、どうかな?」

血装(けっそう)……血装(けっそう)ですね!分かりました!ありがとうございます!」

「うんうん。いいと思うよー。さすがダーリン!」


キラキラと輝くジョウとディーネの瞳に思わず苦照れ笑いが出てしまう。

それを隠すためにも、俺はまた二人の頭を撫でた。


「それじゃ、まずは二人で頑張ってみろ。上手くいかなかったら俺にでも他の誰かにでも相談していいからな」

「はいっ!」

「うん!まっかせて!」


その元気な返事に、俺は安心して微笑んでいた。

この二人なら大丈夫だろう、と。


それから、マスク着用で訓練場の外周を走っているシャールとサラにも声を掛けた。


「それじゃ、俺はちょっと出掛けてくるよ。後の事は頼んだ、シャール。無理しなくていいからなー、サラ。少しずつでいいんだから」

「はい、分かりました。いってらっしゃい」

「は、はひ……が、頑張りまひゅ……」


まだ余裕があるシャールとは違い、サラの方はすでにヘロヘロになっている。そんな姿に肩を揺らしつつ、俺は皆に手を振ってから歩き出した。



ジョウ達の訓練を皆に託したのは、俺が自由に動ける時間を作るためだ。


ジョウ達が強くなるのも必要な事。

だが、誰よりも、何よりも強くならなければならないのは……俺だ。


そのために何をするべきか、どこへ行くべきか。

自身の記憶を頼りに、俺はその答えを見つけ出していた。


「ざまぁ」要員の悪役勇者だから戦う力は必要ない。

もうそんな事を言ってはいられない。


俺も強くなろう。大事な皆を守れるように。


ヨイショの包囲『懺』滅陣が突然崩れ去ったのは


『懺悔』の『懺』ですね、この字は。

正しくは『殲』。


うぇぇい、くるぐつさん、元気一杯に正解でーす。

腹筋したったわ。


しばらく修行パートです。

皆コツコツ頑張りますよー。

修行ってそんなモンだと思う。


今回も誤字でーす。

なんかこう……禍々しいヤツを仕込んでます。

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