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道を切り拓くために


陛下の御言葉を頂き、熱狂に沸いたあの後、王城の中庭は立食形式での饗宴の場になっていた……のだが……


……帰りたーい……


飯は食えない。酒も飲めない。それどころかジョウ達の所にすら戻れない。

周りを多くの人達に囲まれた状態で、俺はただただひたすら心の中で嘆いていた。頑張って笑顔は取り繕っているが。


俺を取り囲んで次々と話し掛けてきているのは、どこぞのお貴族様方や、貴族と肩を並べられる程の豪商と(おぼ)しき方々。

そして、その御令嬢だと思われるお嬢様方。


話の内容は、やれ「仲良くしましょ」だとか、やれ「支援しまっせ?」だとか、そんな内容が主だ。

それらを俺は、ひきつった作り笑顔とふんわりとした曖昧言葉で右に左に受け流し続けていた。


だって、漏れなく面倒事(しがらみ)もついて来るんでしょ?いらんて、そんなん。


そんな「俺が倒れるまで続くんじゃないの?コレ?」とすら思わされたヨイショの包囲懺滅陣が突然崩れ去ったのは、『彼女』が俺の所にやって来たからだった。

だがそれは、俺を助けてくれる救いの女神、などとは到底呼べない人物だったのだが……


「お久し振りです、パウロ様」


その存在感だけで人の壁を蹴散らし、一礼(カーテシー)を見せたのは、オッサン()にとっては「はじめまして」の女の子。

『パウロ』にとっては、すでに何度か顔を合わせた事のある女の子。


彼女が何者なのか初対面の俺にもすぐに分かったのは、その翠玉(エメラルド)を連想させる鮮やかな緑の長い髪(ゆえ)だった。

そんな髪色の少女はこの国に一人しかいない……という『設定』だから。


「……お久し振りでございます、王女殿下」


「はじめまして」と言い間違えないよう気をつけながら胸に手を当てて会釈すると、周囲の人々も同じように頭を下げていた。


国王陛下の一人娘、この国の王女。

それが彼女、『リーシティア=エィル=セレンスティアル』、19歳。


髪色とよく似た色のドレスを身に纏い、若い二人の侍女を従えた王女殿下は、若い男なら誰もが見惚れてしまうような微笑みを見せた。

流石は『翡翠姫』『セレンスティアルの至宝』などと称されるだけの事はあるのだが……俺としては笑顔がひきつらないよう気をつけるので精一杯です……


『成り上がり、無双、ハーレム』という、昨今掃いて捨てる程よくある展開の物語に美少女お姫様……と来れば、ラノベ読者なら秒で先が読めるだろう。


そうです。彼女も原作では『ハメ太郎』ハーレムの一員になる人物です。

しかも、国王陛下の一人娘だというのだから厄介極まりない。彼女の旦那になる男はイコールで次期国王内定なのだから。


「先程は感動してしまいました。やはり貴方は『勇者』の名に相応しいお方ですね」

「い、いえ、そんな事は……」


明らかに好感が込められた王女殿下の言葉につい声が上擦る。

本当なら俺は、彼女の好感度を大幅に下げる言動を取りたかったのだが……


今日までの流れで分かるかもしれないが、原作でも王女殿下は元々『パウロ』に惹かれていた。

だが、そのフラグを『パウロ』がいつもの凡ミスでへし折ってしまい、失意の彼女は『ハメ太郎(ジョウ)』と出会う。

で……あっという間に二人は合体にまで至り、「パウロざまぁw」となるわけだ……


このフラグを穏便に消滅させるためには、『パウロ』に対する彼女の好感度をXデーまでに思いっきり下げればいい。それは分かっていた。


しかしだ、原作で『パウロ』がやらかした式典での大失態を間近で見ても、彼女は『パウロ』に幻滅しないでノコノコ会いに行くのだ。

これには読者の皆さんも「は?」状態だった。


そんな女の子の恋心を折るには、ここでスカートの中に頭を突っ込むくらいやらなければ無理だろう。

ただし、それをやった時点で俺は原作『パウロ』より早く破滅する事になりますけどねー。


「もし皆様方がよろしいのなら、私もパウロ様とお話がしたいのですが……」


本当に申し訳なさそうに王女殿下が周りにいる皆さんにお伺いを立てると、皆さん「どうぞどうぞ」とばかりにアッサリと引き下がる。

偉そうな態度を微塵も見せないその謙虚さには確かに好感を覚えるのだが……


「っ!?」


うなじに突き立つ殺気の刃にハッと振り返ると、ブ厚い人の壁の切れ間にチベスナ目のシャールさんの姿が垣間見えた。


「どうかされましたか?」

「い、いえ!なんでも……ありません……」


俺の手をそっと握り、上目遣いに尋ねてくる王女殿下に必死で取り繕った笑顔を見せる。

背後から感じるプレッシャーはさらにその圧を増していた。


パウロ()の立場からすると、社交辞令の付き合いなんだから仕方なくね?

もう少し温かい目で見てくれてもよくね?



その後、俺は王女殿下としばし歓談(?)して、解放された後はまた多くの人々に絡まれ、式典が終わる夕方まで飲まず食わずで精神をすり減らし続けたのだった。


痛かったし死ぬ程疲れたけど、これだったらあの戦いの方がまだ楽だったわ……



式典の翌日、俺は疲れも抜けきらぬままに早速行動を開始していた。


昨日の式典の後、俺はギルドに鑑定を依頼していたあの黒いゴブリンの魔石に関する報告を聞いた。

結果は「ただのゴブリン」との事だ。何度も調べたので間違いはないという。


だが、あれが普通のゴブリンではないという事は、実際にあれを見た者には分かるだろう。

『外部から何らかの力を付与された』と、俺はとりあえずそう判断する事にした。


黒化(こっか)魔獣』

俺がそう名付けたあの黒い魔獣は、恐らくまたジョウの前に現れる。

正直言えば、俺は「恐らく」なんて言葉は必要ないくらいの確信めいたものを感じていた。


だから、このまま何も手を打たずに漫然と先に進むわけにはいかない。

ジョウには、そして彼と多くの時間を共にするトッシュ、サラ、エミリーには、段取りをすっ飛ばしてでも強くなってもらわないといけない。

原作よりも早く。原作よりも強く。


そのためには何が必要かを、俺は知っていた。



「はあぁぁぁぁぁっ!!!」


ジャブのような左の連打から右ストレート。からの体を回転させての右後ろ回し蹴り。

そんなサラの鋭いコンビネーションを、シャールはわざと全てギリギリのところで躱し続ける。


ここは拠点裏手の訓練場。

二人は朝からこうして徒手での組み手を繰り返していた。


シャールとサラとでは実力に大きな差がある。が、二人を組ませた目的は戦闘力自体を向上させるためではない。


シャールの方はまだ余裕そうだが、サラを気遣って俺は手を叩いた。


「はいはい、休憩休憩。ゆっくり息しろよー」


俺が中断の合図を送ると、ようやく二人は動きを止める。

そして、揃って着けていたマスクを外した。


「ふぅ……なかなかキツいですね、これ」

「な……なかなかどころじゃ……ないですよ……」

「ははっ。サラの方は動きが大きいからな。ま、ゆっくり休みなさいな」


汗だくになってその場にしゃがみこんだサラに笑いかけ、それからシャールを見る。

回避に専念していた彼女も、いつもの俺との稽古より呼吸が早くなっていた。


シャールとサラ。二人の特殊能力(スキル)には似た部分があった。

それは即ち、『自身の体力が能力の強さに直結する』という部分だ。


シャールは剣士としてほぼ極致に至っている。

ここからさらに、手っ取り早く強くなるには、『帝王時間(カイザータイム)』の使用限界を引き上げた方がいい。

つまり、体力をつけさせた方がいい、という事だ。

それを兼ねて、今こうしてサラの的として動き回ってもらっている。


一方、サラの特殊能力(スキル)背水決死(ノブレス)』は少々風変わりなものだ。

簡単に言うと「息を止めて動いている間だけ身体機能が上昇し続ける」というもの。


今のサラが無呼吸で全力を出せる時間は三十秒にも満たない程で、限界ギリギリのところでもその力はシャール曰く「それなりに強い冒険者」レベルらしい。


だが、もしも一分以上息を止めて動けるようになったら?

もしも今の限界値の倍の力とスピードを出せたとしたら?


それが可能となったその時は、サラはシャール以上のスピードとラギル以上の剛力を併せ持つ化け物のような拳闘士になるだろう。

そのため今は能力を使用禁止にして体力を、肺活量を鍛えるトレーニングを積ませているのだ。


ただ、焦って鍛えてすぐ結果が出るものではない、という事くらいは俺にも分かる。

だから俺は二人に注意を促した。


「ま、一朝一夕で何とかなるもんでもないから、程々にな。まずはマスクでの呼吸制限に慣れる事だ。その内酸素……空気を取り込む力が強くなってくるから」

「は、はい……頑張ります……」


息も絶え絶え、といった様子で返事をするサラと違い、シャールは何やら思案顔で手にしたマスクを眺める。


「これを着けて走り込みをしてもいいかもしれませんね。軽く一時間くらい走りますか?」

「……ひぇぇ……」

「は、ははっ。あんまり飛ばしすぎないようにな?頼むよ、シャール先生」


相も変わらぬシャールの鬼教官っぷりに苦笑いしつつ、膝を抱えてプルプル震えるサラの頭をポムポムと叩く。そして、俺は振り返って訓練場の隅の方を向いた。

そこにいるのは、俺が与えた課題に協力して取り組むジョウとディーネだ。


恐らくだが、今ジョウ達が試している新たな力の習得は上手くいかないだろう。

なにせ習得に必要な条件を満たしておらず、かつその条件は多分この先も満たされない。この世界線では。


「うっかり習得出来たら儲けもの」くらいの気持ちで試させていただけなので、これは出来なくても問題はない。本命の技の習得はこれからだ。


そうして俺はシャールとサラに手を振り、ジョウ達の所へと歩き出した。


此度の戦い、誠に『大義』であった。


大義→重要な意義。

大儀→重大な儀式。労を労う言葉。


ここは『大儀』ですね。

あい、くるぐつさん、二分で正解ですねー……

誤魔化されんかー……


ク〇ラノベ名物お姫様を出しましたが、まずは修行パートから。

何話か先で息抜きがてら、お姫様に猛威を振るってもらいませう。


今回は誤字じゃい。

ヽ( `Д´)ノ

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― 新着の感想 ―
[一言] 『背水決死(ノブレス)』 ノブレス・オブリージュとノンブレスのダブルミーミングか……?やるじゃねぇか。 実はサラが高貴な生まれであるという伏線なのかも知れない。 いや、クソラノベにそんな高度…
2020/11/09 19:54 退会済み
管理
[一言] おはようございます! ×包囲懺滅陣が突然崩れ去った ○包囲殲滅陣が突然崩れ去った
[良い点] 感想返事やりながら書いてるんですかww お疲れ様です(*`・ω・)ゞ [気になる点] 寝る前にもう一つ >何度か面識がある 面識がある、は顔見知りであることを言うので、何度かは要らないかと…
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