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晴れ渡る空の下で


「よく似合っておいでですよ」

「……そうすかね……?なんかこう……『着させられてる感』が半端ない気がするのは、俺の意識の問題でしょうか……?」


顔をひきつらせながら姿見の前で腕を上げたり下げたりしていると、俺の背後、鏡面に映るセバスさんは穏やかに微笑んでいた。

今日、俺が着ているのは、式典などの場で着用する式服だ。


スーツやタキシードのようなものではなく、中世ヨーロッパの貴族が宮廷で着用するような、襟に華美な刺繍が施された式服。しかも色は赤……

深紅!というような色ではなく、ダークレッドくらいの色なのがせめてもの救いだ。


ちなみに、これでも一番地味な服ですよー……

他はケチャップのような赤だったり、刺繍ビッシリだったり、ラメみたいなキラキラ素材が織り込まれていたり……

パウロ(アイツ)は昭和の演歌歌手か何かなのだろうか……?


こちとら元はスーツですら結婚式か葬式でもない限り縁遠いオッサンだ。こんな格好、息苦しいにも程がある。

しかし、今日ばかりは駄々をこねるわけにはいかなかった。


俺達《輝く翼(ライト☆ウイング)》のメンバーは、そしてレクシオン冒険者ギルドに所属する全パーティーメンバーは、皆王城へ赴かなければならないのだ。

しかも、パウロ()、バレル、ラインズの三名は原作と同じく、代表として王様の前に立たねばならないらしい……


「……はぁ……」


気が乗らない、なんてレベルではない。本当なら逃亡したいくらいだ。

だけど……行かねばならない……

今の俺はSランクパーティーのリーダー、『パウロ=D=アレクサ』なのだから……


肩を落とす俺に、セバスさんは困ったように小さく笑っていた。



魔獣襲撃を退けた実績を「しゅごいっ!」と誉め称えるイベント。

それが今日、王城で執り行われる式典だ。


本来ならこの式典に参列するのは《輝く翼(ライト☆ウイング)》、《吠える狼(クライ・ウルブス)》、《明けの明星(シャイン・ゴールド)》の三パーティー。

そして、原作ではまだパーティー名もないジョウ達だ。


ここで、ジョウ達はパウロに濡れ衣を着せられそうになる。


「コイツらは魔獣が街の北から来る事を知っていた」

「知っていた上で手柄を独占するために黙っていた」

「もしかすると『神の耳(スキル)』を使って魔獣を操った、自作自演の可能性もある」


まぁ要約するとこんな感じの難癖だ。


だが、難癖ではあれど『勇者パウロ』の言葉。

ジョウ達はあらぬ疑いをかけられる事になる。


それを救ったのは『シャール=エルステラ』だった。


「ジョウくんや他のパーティーを街の北側と南側に追いやったのは、他でもない貴方でしょう、パウロ。手柄を自分達だけのものにしたいがために」

「ジョウくんの『神の耳』には、魔獣の声を聞く力はありません。ましてや意思の疎通など不可能です」


と、シャールがズバッ!とパウロの発言を否定し、ジョウ達の疑いは無事晴れる事になる。

もっとも、「魔獣の声を聞く力はない」というのは原作シャールのいつものポカか、お得意の設定矛盾か。

ジョウは後にとある魔獣と『神の耳』の力で普通に会話するんですけどねー。


そうしてジョウ達は喝采を、パウロは非難を浴びる結果となり、「ざまぁ」が完了するわけだ。


原作ではこうしてこの日、ジョウ達は新たな冒険者パーティーとして冒険者ギルドから、この国から認められる。

ジョウが自分で決めたパーティーの名は……《精霊(エレメント)の守護者(・ガーディアン)》……


……それが、俺がこの物語(世界)から消してしまったパーティー名だ……


もしもいつの日か、ジョウ達が《輝く翼(ライト☆ウイング)》を、俺の元を巣立つ時が来たなら、その時は彼らにこの名を贈ろうと思う。『その日』を想像するだけでちょっと泣いちゃいそうになるが……

可愛い子の旅立ちを笑顔で見送れる。そんなオッサンになりたいものだ。



太陽を真上に戴いた、晴れ渡った空の下。王城の広い中庭。


そこで俺、バレル、ラインズの三人は、この国の王である『ネフリス=アラド=セレンスティアル』の前に立っていた。


御歳42歳。某カードの(キング)そのもののような風貌。

毛先がカールした金色の髪と、綺麗な緑の瞳を持つ偉丈夫だ。

ただ……内面に関してはとある部分でのみ偉丈夫と呼びがたい人物ではあるが……

全体的にはしっかりした人格者らしいけどね。


大して歳も変わらないというのに、国王ネフリスにはオッサン()と違って威風堂々たる貫禄があった。

まぁ一国の統治者だ。そこは納得出来る。

いまいち納得がいかないのは、並び立つバレルとラインズにも何やら風格めいたものがある事です。


式服など絶対似合わないだろうと思われた熊オッサンは黒灰(グリズリー)色とでもいうべき色のシックな装いで、まるで一軍を率いる将校のような威厳を漂わせている。

金ピカの方はやたら金糸の刺繍がうるさいド派手な白基調の式服なのだが、何故かその佇まいには美術品を思わせる気品があった。


……どうにも俺だけ浮いているように感じるのは、中身のオッサン()の問題か……?

皆にはちゃんと、しっかりした立ち姿に見えているだろうか……?


自分の事は別にどうでもいいのだが、皆に恥はかかせられない。

そう考え、気合いを入れて背筋を伸ばすと、国王陛下は静かだが迫力ある声を中庭に響かせた。


「此度の戦い、誠に大義であった。この国の王として、貴殿らの働きに心より感謝する」


陛下からの謝辞に、俺達は右手を胸に当てて黙礼する。膝はつかなくても大丈夫らしい。

シャールさん、セバスさん、事前のレクチャーあざっす。


まぁ「こんな式典開くくらいなら戦闘に国の兵士を出しなさいよ」という気持ちがないわけではないのだが、国軍は国同士の争いに、魔獣の相手は冒険者、というのが通例らしい。一応城壁の内側で兵士も待機していたようだが。


バレル、ラインズとタイミングを合わせて頭を上げると、陛下はさらに言葉を重ねてきた。


「主軸となった《輝く翼(ライト☆ウイング)》、《吠える狼(クライ・ウルブス)》、《明けの明星(シャイン・ゴールド)》には恩賞を与えよう」

「ありがとうございます」

「感謝致します」


慣れたものなのか、バレルとラインズは顔色も変えずにまた頭を下げる。

だが……俺はそんなものを受け取るつもりはなかった。


「陛下、直言を御許し願えますか?」


思いもよらない事態だったのだろう。バレルとラインズはギョッとした顔になり、場がザワつく。

しかし、国王陛下は顔色一つ変えずに軽く頷いた。


「申してみよ」

「ありがとうございます」


『ボク耳』で見た通りの寛容さに素直に感謝しつつ、俺はわずかに振り返る。

そこには、ジョウやシャール、仲間の皆の姿が。そして、この街の全ての冒険者達の姿があった。


先程述べた通り、本来ならこのイベントにはほとんどのパーティーは呼ばれる事なく、式典の場所もこの中庭ではなく謁見の間で行われるはずだった。

だけど、それは流石にあんまりじゃないか?


だから俺は、今回の戦いに参加した全てのパーティーを、全ての冒険者を参列させるよう求めたのだ。

その結果が今のこの状況である。


陛下の方へ向き直り、俺はまず頭を下げた。


「この度の戦い、私は多くの者達に助けられました。徒労に終わる事を覚悟で背中を守ってくれた者達。皆を支えるために奔走してくれた者達。仲間を守るためにその身を盾にした者もおります」

「……うむ」


俺の話に耳を傾け、陛下は雄大な微笑を浮かべてくれる。

それから俺は、この『愛すべきバカ達』に笑いかけた。改めて感謝の意を伝えるために。


「危ないところへ駆けつけて来てくれた良き友もいました」

「お、おぉ……?」

「……パウロ……」


場の勢いを借りての礼だが、気持ちは嘘ではない。コイツらにはコイツらの思惑があったのだろうが、助かったのは本当だ。

驚きながらも、二人は照れ臭そうに表情を緩めていた。


そして俺は、俺の願いを陛下に告げる。


「先日の勝利は、レクシオン冒険者ギルドが一丸となって勝ち得たものです。ですので、どうか彼らにも陛下の御言葉を頂けないでしょうか?それが私にとって何よりの恩賞です」


そう言って陛下にまた頭を下げると、バレルとラインズの「ははっ!」と小さく笑う声が聞こえた。

目だけを動かしてチラリと横を見やると、二人も俺に続いて頭を垂れる。


「陛下、私からも御願い申し上げます」

「ええ。陛下の御言葉を皆に頂けるならば、私達にとってそれは何よりの恩賞となります」

「……バレル、ラインズ……」


まさか褒美を蹴ってまで俺に付き合ってくれるとは思ってもいなかった。

二人の男気に胸の奥がじんわりと熱くなる。


そんな俺達に、陛下は快活な笑声を上げた。


「はははっ!その心意気や見事だ!流石はSランクパーティーのリーダー達と言うべきか」


そして、道を開けた俺達の間を通り前に進み出ると、居並ぶ冒険者達に向かって右手を掲げて見せた。


「冒険者諸君!その身を賭して王都を、この国を守ってくれた事に深く感謝する!皆の者!勇敢なる冒険者達に万雷の拍手を!」


国王陛下の宣言の後に訪れた、一拍の静寂。

だがその直後、中庭には街にまで届きそうな程の大きな拍手と歓声が溢れ返った。


合わせて俺も手を叩きながら仲間達の方を見ると、驚き戸惑っていた皆も引っ張られるように手を叩きはじめる。

他のパーティーの面々も、笑い、泣きながら全力で手を打ち合わせていた。

あーあ、ラギルのヤツなんて号泣してら。


本来ならこの喝采はジョウが一身に受けるものだったはずだ。

だけど、また俺がそれを奪ってしまった。


ならばせめて、皆で分かち合おう。

それが俺のささやかな願いだ。


「あーあ……恩賞パァにしちまったよ……」

「僕より早く乗っておいて何を言ってるんですか」


「やれやれ」とばかりに首の後ろに手を当てるバレルと、拍手を止めないままにニッコリと笑うラインズ。

そんな二人にも、俺は惜しみない拍手を贈った。


「悪かったな、二人とも。今度奢るからさ、ブッ倒れるまで飲もうぜ」

「お?言いやがったな?恩賞貰っときゃ良かったって後悔させてやるからな」

「またケチくさい事を。では、僕は懐の広いところを見せるため、秘蔵のワインでも持ち出しましょうか」


そんな事を言い合って、俺達は笑い合う。



きっとこの喝采は、原作より大きくて温かいものだったろう。

うん、そうに違いない。

だって、ジョウやシャールが、そして皆が、あんなに嬉しそうに笑っているのだから。


前回の話には誤字脱字誤用仕込めなかったんで、今回は答え合わせはナシですねー。


細かい事まで書いてると、まー話が進まない。

この次の話と合わせて一話にするつもりが……

この次でお姫様でも出して、ク〇ラノベ名物『一人で出歩く偉い人』の話に繋げる予定でーす。


今回は誤字誤用仕込んでます。

……何分もつかなー……?

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