自業自得の針ムシロ
アイシェのスキル『重なる魂』は、複数の呪文詠唱を同時に行える、というスキルだ。
つまり彼女は、一度に複数の魔法を扱えるという稀有な魔術士である。
得意とするのは二つ名からも分かるように氷属性の魔法で、風属性の魔法と合わせれば大抵の魔獣は体の芯まで一瞬の内に凍りつく。
……のだが……
「霜天の青!凍てつく息吹!我願うは」
「す、水弾!」
バチャッ!
「わぷっ!?」
「はい、終~了~。ジョウの勝ち」
勝負開始直後、水を顔面にかけられる事でアイシェは詠唱の中断を余儀なくされていた。
そこで俺は手にしたタオルを掲げ、即座に決着を宣言する。
先程のような歓声は起きない。訓練場はシンとしたままだった。
お兄ちゃんも顔を片手で覆ってガックリと項垂れている。
まぁ、そうなりますよね。
ただ、当の本人は納得いかないご様子だった。
「ひ、卑怯よっ!今のはナシッ!やり直しっ!」
「何が卑怯だ。このバカタレ」
手で顔を隠しながらキャンキャン喚くアイシェの顔面にタオルを投げつけると、彼女はまた「わぷっ!?」と声を出した。
嘆息しながら、俺はアイシェにダメダメポイントを突きつける。
「お前、この訓練場全体を巻き込むくらいの大魔法をブッ放そうとしてたよな?それを「完成するまで待ってね」って言うんなら、その方がよっぽど卑怯だろうが」
「うっ……」
「お前は、兄貴とジョウの勝負の何を見てたんだ?その気になったらほぼノータイムで高威力の水魔法をブッ放せるジョウ相手に、なんで突っ立ったまま詠唱済ませられると思ったんだよ?」
「ううっ……」
俺のダメ出しに、アイシェはタオルで顔を隠してどんどん小さくなっていく。
流石に可哀想になってきたので、俺はもう一つため息をついて説教を止めた。
「別にお前が弱いってわけじゃないんだよ。相性の問題だ、相性の。それと、顔に水かけろってのは俺の指示だからな。ジョウを恨まないでやってくれよ?」
「わ、分かったわよ……」
顔を隠したまま渋々と頷くアイシェに苦笑して、そのままジョウの方へと振り返ると、彼も困ったように笑っていた。
その頭の上でふんぞり返るディーネは、ビックリするくらい意地の悪いドヤ笑いを浮かべていたが。
さて、それでは最後の改善点だ。
当初の予定通り、俺は様子を見守っていたキエルとオーリを手招きで呼び寄せる。と、彼女達は満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。
「それじゃ、化粧直してきなさいな。ただし、化粧直しはキエルとオーリに任せる事」
「えっ?」
「了解です!」
「ふふっ。前から勿体ないと思ってたんですよね」
「ち、ちょっとっ!?」
俺の指示に従って、キエルとオーリは楽しそうにアイシェを拉致していく。
残された仲間達は皆、呆然としたままその様子を見送っていた。
あのスキー場のゲレンデみたいな顔でずっと、ってのはちょっとねー。
薄暗い所でバッタリ出会ったら腰抜かしちゃいそうだし。
それじゃあ、頼みましたよー。
◎
『……か、可愛い……』
「と、年上相手に「可愛い」とか言うんじゃないわよっ!」
全員が訓練場からラウンジに戻った後、遅れて事務室から出てきたアイシェを見た途端、ジョウとトッシュは顔を赤らめて口から感情をダダ漏れにしていた。
アイシェは恥ずかしそうに腕で顔を隠しながら、相変わらずキャンキャン言っているが。
「いやー、いい仕事しました!」
「いつもあんな化粧してるのに、あんなにお肌キレイだなんて……羨ましい……」
「ははっ、お疲れ様。二人に頼んで良かったよ。スゲー可愛くなったもんだ」
アイシェの後を追って事務室から出てきたキエルとオーリに労いの言葉を掛けると、それを聞いたアイシェはうつむき加減ではあるが腕を下ろした。
「……本当に?ヘンじゃない?」
そう言うアイシェは、やはり思った通りの美少女だった。
二十歳の女の子相手に美『少女』は失礼かもしれないけどね。
だが、無理のないナチュラルメイクを施された小柄なアイシェは、パッと見ではジョウより年下に見えるのだから仕方ない。シャールと比べると、シャールの方がずっと年上に見えるくらいだ。
いつもほぼノーメイクのシャールが気合いを入れたメイクをしたら、下手をすれば親子くらいの歳の差に見える事だろう。
すっかり変わった妹の姿に、ファイエルは苦笑いで嘆息した。
「だから、あの化粧はやめろっていつも言ってただろうが」
「だってぇ……パウロ、大人っぽい女の方が好きだって言うから……」
「……そっかー……あれ、大人メイクのつもりだったのかー……」
髪をいじりながらモジモジするアイシェの発言に、ついつい渇いた笑いが漏れる。
そして、やはり問題の根源は『パウロ』か……
まぁ、パウロもあのメイクには対応に困っただろうなー。
今のメイクを固定化するべく、改めて『俺』がフォローを入れる。
「ま、女の子はさらっと化粧するくらいが一番だよ。ジョウ達の反応も良かっただろ?」
そう言いながら「なぁ?」と同意を求めると、ジョウとトッシュをはじめとした野郎共はコクコクと頷いていた。
ただ、ジョウ達のそばにいるサラ、エミリー、ディーネは少しむくれた顔をしていたけど。
どこにも角が立たない魔法の言葉はないものでしょうか……
俺の言葉と野郎共の反応に、アイシェの様子にも少し自信が見えてくる。
「パウロもこの方がいい?」
「ああ、いいと思うよ。似合ってる似合ってる」
「……へぇ……」
「至極一般的な意見ですからねっ!シャールさん!」
今度はシャールのご機嫌がナナメになりやがったっ!
「マジ面倒くせぇっ!!!」という魂の叫びを気合いで飲み込む!
だが、一応の目論見通り、アイシェはすっかり上機嫌になっていた。
そして無邪気な笑顔で俺の右腕に絡みついてくる。
瞬間、ラウンジの空気がピン!と張り詰めたのが肌で分かった。
「じゃあ、これからはこれでいくねっ!」
「う、うん……それがよろしいんじゃないでしょうか……」
全身を突き刺す女性陣の視線に冷や汗が出てくる。
そんな俺の苦悩など一切気がつかない様子で、ファイエルはバカ笑いしながらジョウの肩を抱いた。
「ハハハッ!良かったな、アイシェ。そんじゃあ、ジョウ。俺らはメシでも食いに行くか?帰ってきたら絶対行く、美味い焼肉屋があんだよ。肉食おうぜ、肉。今日の褒美に奢ってやるから」
「えっ?あ、あの……い、いいんですか?」
「ったり前だ。肉食ってもっと強くなれ。俺はそのさらに上をいってやるからな!おう!気持ち良く負けて気分がいいからな、肉食いたいヤツはついて来いよ。まとめて奢ってやるからよ」
『マ、マジっすかっ!?』
気前のいいアニキの発言に、野郎連中は色めき立つ。
そうしてファイエルとジョウを先頭に、男どもはゾロゾロと外へ向かって歩き出していた。
「そ、それじゃ、俺も……」
「この波に乗るっきゃねぇっ!」と、右腕の拘束を解こうとすると、今度は左腕に誰かが絡みつく。
恐る恐る左側を見るとそこには、いつの間にか久し振りの人間大モードになったディーネの、ちょっと怖い笑顔があった。
今日はちゃんと服有りだけどねー……
「ダーリン?何か忘れてなーい?」
「あっ!?そうだった!パウロ!お姫様抱っこ!」
「え、えっとぉ……」
「……」
分かってるっ!全面的に俺が悪いっ!!!
だからシャールさん!チベスナ目で見んといてっ!
アイシェとディーネに両腕を押さえられた状態の俺の顔に、「ビームでも出てんじゃなかろうか?」というシャールの視線が突き刺さる。
助けを求めるように首だけで振り向くと、そこには誰一人としてファイエルについて行こうとしない女性陣の姿があった……
「おーい?パウロ?お前は行かねぇの?」
拠点を出る直前でファイエルが俺に尋ねてきた……のだが……
「あ、後で追いかけるわ……」
おう?コラ?火トカゲ。テメーこの状況見えてねーのか?
……という心の叫びを押し殺し、俺は全力で笑顔を作った。
「そうか。じゃあ、早く来いよ。肉なくなっちまうぞ」
「じ、じゃあ、パウロさん、待ってますね」
すんなりと俺を見捨て、ファイエルは、ジョウは、男どもはゾロゾロと拠点を出ていく。
うん……みんなが仲良くなったなら、俺はそれで……ふぐっ!(泣)
「それじゃ、ダーリン?」
「ウチが一番だからねっ!」
「……パウロは誰にでも優しいですねぇ……」
残った皆さんが笑いながら俺に迫ってくる……
シャールさんだけは、ただただ怖い笑顔で距離を取っていたが……
……俺が解放された頃……まだ肉残ってるかなぁ……?
というか、胃が痛くて肉食えないかも……
この『針の筵』は、これからますますその針を増やしていく予定です……
うんうん、良き哉良き哉。
正しくは『善き哉』、もしくは『善哉』ですね。
甘味の『ぜんざい』と同じ字で、本来は仏教用語(褒め言葉)です。
甘味の『善哉』の由来は……
「この甘味は善き哉」という評価から餅入り汁粉に「善哉」という名がついた。
出雲地方の「神在餅」から「ずんざい」→「ぜんざい」→「善哉」へと変化した。
この二つが有力な説だそうですねー。
ちょっと意外でしたが、今回は正解者ナシでした。
ヽ( ´∀`)ノ ヤフー!
……とか思ってたら、やはり鬼門のくるぐつさん……
はい、正解でーす。
とばっちり腹筋も結構な回数やったのに……
( ´・ω・`)
今考えると今回のサブタイはアッシ自身の事でもありますなぁ(笑)
今回の誤字は「やりすぎ」「行き過ぎ」な誤字ですよー。
そういや、何となくエゴサ的に『ざまぁ勇者リローデッド』で検索してみたらどっかのランキングサイトに名前あって、覗いてみたらこの話、期待の日間と週間で七位なんですってよ。
( ´・ω・) アラヤダ奥さん。
まぁ実績のない作者集めた中でのpt獲得量が日間、週間で七番手ってだけの話ですけどね。




