アホな追放劇に鉄槌を
どこかで聞いたことがある名前、単語。
鏡に映った自分を含め、どこかで見たことがある連中。
然もありなん、だ。
実際に読んだ小説と某動画サイトにあったコミカライズ版のレビューで見聞きしたもの、全てそのままなのだから。
というわけで、今こうして目の前で起こっている騒動の登場人物、理由、その結末に至るまで、俺にはすでに分かっていた。
「ウチはSランクパーティーだぞっ!?お前みたいなEランクには不相応な場所なんだよっ!」
『そうだそうだ!』
「そ、そんなぁ……」
「やめなさいっ!ラギルッ!ジョウくんは頑張っているじゃないですかっ!」
……あー、そうそう……こんなやり取りだったなー……
縁側でお茶を飲むお爺ちゃんのように両手でコップを持ち、部外者の顔で水を啜る。
そんな俺を、騒ぎに参加していないメンバー達は唖然とした顔で見ていた。
まぁそだよねー(笑)
今の俺は登場人物どころか、このパーティーの、この騒動の中心人物なんだもんねー(笑)
「何のんびり水啜ってんねん」ってなるよねー(笑)
でも、どうせ夢だし。
「そうだそうだ!」と囃し立てるモブ達の名前までは分からないが、先頭に立って怒声を上げるゴツいハゲ頭のことは分かる。
ヤツの名前は『ラギル=イーズレウ』25歳。
このパーティーにおいて九番手、十番手辺りの実力者で、Aランク冒険者。《剛力》などというクソダセェ二つ名を持っている。
でも、俺は知ってるからね?
テメーはジャ〇アンの外見をしたス〇夫で、口癖は「ね?リーダー?」だ。
案の定、こちらを向いたラギルは「ね?リーダー?」とお伺いを立ててきていた。ほらね。
続いて、俺を呼びにきた、今ラギルと直接対峙している女の子。
このパーティーのエースであり、Sランク冒険者の『シャール=エルステラ』18歳。《白騎士》という痛々しい異名を持っている。
感想欄やネットでも「ヴァイス(独語)シュバリエ(仏語) 他の連中(英語)。草」とか散々書かれてたなー。
そして、そんな彼女に守られながらオロオロしているのが、この物語の主人公であるEランク冒険者『ジョウ=マクスウェル』。黒目黒髪の15歳。背が低い、小動物系の少年だ。
二つ名はなく、『神の耳』なんて大袈裟な名前の特殊能力を持っているが、その能力は「虫や動物の声を聞いて話が出来る」というもの。
ただし、それは『今は』の話だ。
この後、パーティーから追放された彼は偶然水の精霊と出会い、精霊の声も聞こえることに気づく。
そして、その精霊と契約を交わすことで無双の成り上がり道を突き進むのだ。
だけど……コイツ、かなりタチの悪いヤツなんだよなー……いや、悪いコではないんだけど……
いわゆる『無自覚系』。規格外の力を使ってるのに「あれ?ボク、何か変なことしましたか?」ってヤツだ。
もちろん周囲から「す、すごい!」とヨイショされるのもセット。
今シャールが必死に庇っているのを見ても分かる通り、『モテ』についても無自覚だ。
ヒロインがピンチ→派手に救出→「ジョウくん、すごい!」→惚れる→その日の夜→「ジョウくん、しゅごい!」……というのが中盤からのお約束。
こうしてコイツは、俺の知る限り十人程のビッチハーレムを作り上げることになる。
お前、こんなことしてるからネットや感想欄で『とっととハメ太郎』とか揶揄されるんだからね?
ちなみに転生者という設定らしいが、原作に出てきた転生要素は「転生前の記憶で知ってる!水は他界圧力をかけると鉄だって切断出来るんだ!」(原文)……という一文のみである。
そんなパーティーのリーダーが今の俺、『パウロ=D=アレクサ』23歳。
「どうして今まで人望あったの?」と、まともな読者なら誰もが思うテンプレクソ野郎。
Sランク冒険者であり、《闘神》というバカな二つ名を持っている。
……言っとくが俺は間違ってねぇぞっ!?原典のままだぞっ!?
「闘神ならゴッド・オブ・バトルじゃね?」とか「神の闘いw」とか書き込まれても作者は修正しなかったんだからなっ!
パウロは確かに高い能力を持っているし、過去の成果を考えると『勇者』などと呼ばれるのも分からないでもない設定なのだが……とにかく頭が悪い。
まぁ頭が悪いのは全ての登場人物に言えることだけど……
『明らかにジョウの方が強い』という現実を受け入れず、ことあるごとに見下した発言を繰り返しては最後に『ざまぁ』を食らって「ぐぬぬ……!」となるわけだ。
研究室のマウスでももう少し学ぶやろ?
そんな男に、ラギルとシャールはこの騒ぎの決断を持ちかけてきた。
「こんな雑魚をいつまでも置いておくとウチの格が下がるだろ!?ね!?リーダー!」
「これから強くなっていけばいいだけですっ!パウロ!賢明な判断をっ!」
「………」
……原作通りなら、ここでパウロは「こんな役立たずはいらね」と、アッサリとジョウを切り捨てる。
……のだが……
どうせこれは夢だっ!
なら、俺が思ったこと、ネットや感想欄で皆が言ってたことを、そっくりそのままブチまけてやるぜっ!!!
そう思い至った俺は、足を組んでテーブルに右手で頬杖を突き、顔を真っ赤にするハゲ、ただの希望的観測を口にする女の子、おどおどする少年を正面から見据えた。
「まず……現状でのラギルの意見は間違ってない。ここは戦闘に特化した高ランクパーティーで、Eランクの支援職がいるのは不自然だ」
「流石リーダー!」
「パウロッ!」
「う、うう……」
歓喜する、怒る、悲観して項垂れる。
三人は三様の、思った通りの反応を見せる。
が!話はまだ終わってませんよ?
ここで核心に突っ込むべく、俺は空いている左手で「キャッキャッウフフ」となっているハゲを指差した。
「けどな……なら、なんでそもそもジョウをここに入れたんだ?」
「え?」
ラギルが口ごもる。
そう、まずおかしいのはここだ。
ここは武闘派Sランクパーティー《輝く翼》。
Eランクの、しかも明らかに支援系の能力を持つ冒険者がここのメンバーになれること自体が、設定的にそもそもおかしいでしょ?その理由に関する記述も一切なかったし。
まぁパーティー加入の最終的な決定を下したのは『パウロ』かもしれないけどね。
俺は頬杖を解いた手でテーブルをバンバン叩いて続ける。
「素性隠してるヤツをメンバーに加えるわけないんだから、支援系の能力だって分かって入れてんでしょ?支援職としてはコイツ結構役に立ってんじゃん?なぁ?」
同意を求めた先にいたのは、ジョウより少し年上の少年少女達だ。
急なことに戸惑いながらも彼らはコクコクと首を縦に振る。
今は戦闘力こそないが、ジョウは支援職としてはなかなかに優秀だ。その能力で進む先の様子を探り、周囲の警戒もこなしている。
その力を把握してパーティーに入れているのなら、彼は十分に己の役目を果たしているのだ。
さらに、俺の怒りはこのハゲの行為にも波及する。
本来なら『パウロ』はずっと知らない話だけどね。
「つーかさぁ?お前、若いヤツらにだけ仕事押し付けて自分は他所で遊んで、そのくせ報酬だけはピンハネしてんだろ?俺が知らねーと思ってんの?……いや、まぁ実際は知らないんだけど……(ボソリ)」
「なっ!?」
「ラギル……!貴方、何てことを……!」
「そ、そうですよっ!ズルいです!」
俺にツッコまれ、シャールにキッと睨まれて、ハゲとその取り巻きは後ずさる。
被害を受けていた若手達はここぞとばかりに声を上げていた。
これにて決着と、俺はため息をついて立ち上がる。
「まぁパウ……俺の監督不行き届きでもあるからな。今回は見逃す。けど、次はないからな?お前は人の事をどうこう言う前に自分の事を見直せ」
「は、はい!すんませんでした!リーダー!」
バカなだけであって根は悪いヤツではないんだろう。ラギル達は素直に頭下げた。
そして、俺はポカンとする少年の頭を軽くポンポンと叩く。
「ゴメンなー。ま、そういうわけだからさ、これからも頑張ってな」
「は、はい!ありがとうございます!パウロさん!ボ、ボク、これからも精一杯頑張りますっ!」
「パウロ……ありがとうございます」
「いーよいーよ、これが普通なんだから。んじゃ、俺はもうちょっと寝る」
深く頭を下げるジョウとシャールに手を振り、元いた部屋へと歩き出す。
この場で言いたいことは全て言えてスッキリしたので、これで気持ち良く眠れるだろう。
そして、目が覚めればいつもの日常だ。
……そう思ってた……
◎
アホー……アホー……
すっかり暗くなった部屋の中。
外から聞こえるカラスの鳴き声を聞きながら、俺はベッドに腰掛けて両手で顔を覆っていた。
……そういえばあの作者、カラスの鳴き声を「アホー」って書いてたなー……
そんなことを思いながら……
再々度目が覚めても……状況は何も変わっていなかった……
『三度目の正直』ではなく、『二度あることは三度ある』の方だったらしい……
「……どないしよ……?」
俺の嘆きは誰にも届かなかった……
パウロ=D→パゥロD→パロディー(笑)
本来の主人公のジョウは『くん』をつけて『ジョーク』ん、です(笑)
シャレ名前を思いついたキャラは何かに引っ掛けた名前にしてますが、思いつかなかったキャラはテケトー。
ま、クソラノベですので(笑)